独身男性の老後資金はいくら必要?自分のケースで老後資金シミュレーションを

老後に必要な生活費を紹介する記事は少なくありませんが、その多くは「夫婦2人」の生活を想定しており、「平均的な数値」を用いた試算です。

今回は、対象者を独身男性に絞ってお伝えします。一般的な数値の紹介ではなく、考え方と計算方法について解説します。

独身男性の場合、老後資金はいくら必要なのか

老後資金シミュレーションを行う前に、老後の定義を明確にしておくことが重要です。

老後とは、いつから始まるのか

「老後」の概念は、人によってさまざまです。目安の一つが、「定年退職」ではないでしょうか。

高年齢者雇用安定法により、企業には「定年年齢を65歳まで引き上げ、あるいは廃止」、もしくは「65歳までの継続雇用制度の導入」が求められています。公的年金の支給も現時点では65歳となっており、収入源が切り替わるタイミングです。

ここでは、「老後」の開始を65歳と仮定して話を進めます。

-老後は、いつまで続くのか

厚生労働省の「簡易生命表(令和元年)」によると、男性の平均寿命は81.41歳で、40歳、50歳の平均余命はそれぞれ42.35年、32.89年です。人生100年時代に突入し、100歳以上の高齢者数は8万人を超えています(2020年9月1日時点)。

先のことは誰にもわかりませんが、ここでは老後が85歳まで続くと仮定しましょう。

老後の期間を65歳から85歳までの20年間として、必要額を計算します。

平均データではなく、自分のケースで考えることが重要

ライフスタイルは人それぞれ違い、価値観も大きく異なります。したがって老後に必要になるお金は、自分自身のケースで計算しなければ意味がありません。

考え方の根拠をお伝えしますので、それぞれで取捨選択や増減をしてください。

データ1 老後収入

退職後の収入を確認しましょう。会社勤めの人は定年退職によって、自営業の人は子どもなどに事業を継承することで収入源が切り替わる65歳以降、「何を」「いくら」受け取れるのでしょうか。

公的年金

まず、公的年金受給額を確認します。

年金では「満額」という言葉がよく使われます。国民年金は、20歳以上60歳未満の40年間(480ヵ月)を保険料納付期間としています。全期間きちんと納付した人は480ヵ月分の「満額」を受給でき、未納期間がある人はその月数分減額される仕組みです。

受給資格を得るためには、一定期間以上保険料を納めていなければなりません。以前は納付済期間(免除期間を含む)が25年以上必要でしたが、2017年8月1日以降は「10年以上」に改定されています。

厚生年金の受給にも「国民年金の受給資格」が必要です。ただし、厚生年金保険料の中には国民年金分も合算されているため、別途加入する必要はありません。

-国民年金「老齢基礎年金」

国民年金額の計算方法は、以下のとおりです。

年金額(満額:約78万円)×保険料納付月数÷480ヵ月=受給額

保険料免除期間がある場合は、全額免除月数×0.5、1/4免除月数×0.625、1/2免除月数×0.75、3/4免除月数×0.875として、保険料納付月数に加算します。

国民年金額は年度によって異なり、2020年度の年金額は78万1,700円です。満額受給の場合、ひと月あたり約6万5,000円を受け取れます。

-厚生年金「老齢厚生年金」

厚生年金額は、給与額や勤務年数によって変わります。少しややこしいですが、計算式は以下のとおりです。

A:平均標準報酬月額×7.125/1,000×2003年3月までの加入月数
B:平均標準報酬額×5.481/1,000×2003年4月以降の加入月数

A+B=受給額

AもBも加入期間中の給与額の平均値から算出していますが、Aは月給のみでBはボーナスも含まれます。生年月日や賃金水準、物価水準による調整が加わることもありますが、その差は年間数百円程度です。

長く勤めた人や給与が高い人は、その分年金額が増える仕組みになっています。

国民年金の受給資格がある人は、厚生年金に1ヵ月以上加入していれば受給資格を得られます。短期間でも厚生年金加入期間がある場合は、しっかり年金に加算されるのです。

「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で、現時点の見込み金額を確認しておくことをおすすめします。

-iDeCoやDCなどのプラス年金はあるか

公的年金のほかに、iDeCo(個人型確定拠出年金)やDC(企業型確定拠出年金)などがあれば、老後収入に加えます。ただし、これらは運用成績によって年金額が変わり、元本保証もありません。よって希望ではなく、現実的な金額にとどめておくとよいでしょう。

データ2 老後支出

老後の生活費を計算する際は、現在の生活費を基準にします。現在の生活費から老後生活に不要なものを除き、新たに増えるものを追加します。

独身の場合、現役時代と老後の生活費に大きな差はない

子どもがいる家庭の場合、老後に大きく減るのが養育費・教育費です。子どもの独立は、食費や通信費、娯楽費などにも影響を与えます。しかし独身者の場合は、そこまで大きく変わりません。

例えば、仕事のための衣料費や交際費などは、老後生活では発生しません。その代わり老後に楽しむ趣味の出費や、新たな交友関係にかかる交際費などが生まれるでしょう。

住宅費用は、持ち家か賃貸かで大きく変わる

持ち家の場合は、住宅ローンを完済すると大きな支出がなくなります。ただし、マンションの場合は指定の管理費など、戸建ての場合は修繕などに備えて月1万円程度の積立金を「老後支出」に残しておきます。

賃貸住宅の場合は生涯家賃を払い続けることになるため、更新費用や転居時の費用も必要です。

見落としがちな健康保険料・介護保険料・税金など

老後も、健康保険(国民健康保険・後期高齢者医療保険)や介護保険の保険料、住民税などを支払わなければなりません。通常は、年金支給額から天引きされます。保険料や税額は、住んでいる市区町村によって異なります。

健康保険に加入しておくと医療費の窓口負担額が1~3割になる上に、一定額以上の医療費を負担しなくて済む「高額療養費制度」が使えます。現在は健康でも、年齢を重ねるほど通院率は高まるものです。

一方、生命保険の医療保障はなくてもかまいません。独身者の場合は、高額の死亡保障も不要です。老後の生命保険は、遺族が葬儀費用などで困らないように100万円程度の死亡保障があれば十分でしょう。

データ3 老後資産

個人型年金保険や養老保険などの貯蓄型保険の満期日と金額、生活費口座以外の預貯金額など「老後まで使う予定のない資産額」も忘れずにチェックしておきます。

退職金制度は必ずあるとは限らない

老後資金として期待している人が多いものに、「退職金」があります。しかしながら、退職金制度は必ず導入しなければならないものではないため、企業によっては設けていないところもあります。

退職金制度がある場合は、「就業規則」に退職金支給要件・支払方法・計算方法などが記載されているので、確認しておきましょう。

自分のデータから、老後生活資金を算出する

まずは、年単位の過不足金額を算出します。

【1】老後収入(公的年金+iDeCo+DCなど)-老後支出{(現在の生活費-不要分+追加分)×12ヵ月分}=年単位の過不足金

年単位の過不足金を、老後期間分に換算します。ここでは65歳から85歳の20年間で計算しますが、期間は変更してもかまいません。

【2】年単位の過不足金×20年間=老後期間の過不足金

現時点で準備している老後資産からこれを差し引くことで、自分のケースの過不足額がわかります。

【3】老後資産(預貯金・貯蓄保険・退職金など)-老後期間の過不足金=老後過不足金の総額

ここで「十分足りている」という人は、余裕のある老後を迎えられます。大きく不足している場合は、それを埋めるためのステップに進みましょう。

今から老後までに準備すべき金額を割り出す

老後過不足金額の総額÷(65歳-自分の年齢)=1年あたりの準備すべき額
1年あたりの準備すべき額÷12ヵ月=1ヵ月あたりの準備すべき額

これで、自分が準備すべき具体的な金額がわかりました。

貯蓄を始める、資産運用を始める、あるいは収入を増やすためのスキルアップに自己投資するのもよいでしょう。また、65歳以降も働き続けるという方法もあります。

目標額が明確になったことで、取るべき手段が見つけやすくなったのではないでしょうか。

動き出すなら、「今」がベスト

仮に老後過不足金額の総額が1,000万円で、現在の年齢が35歳だとすると「1,000万円÷30年=約33万円」となり、ひと月あたり2万7,500円を準備すればクリアできます。45歳でも、ひと月に約4万2,000円を準備できれば1,000万円に届きます。

今より早いタイミングはありません。老後が目前に迫ってきてから慌てないように、しっかりシミュレーションをして準備を始めましょう。

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