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米国大統領選挙戦の行方はまだ明確ではありませんが、執筆時点(日本時間11月5日15時現在)ではバイデン氏の勝利と上院での共和党勝利という「ねじれ政府」の可能性が高まっています(CNNなどの報道に基づく)。昨日(11月4日)の米国株式市場では、ブルーウエーブ・シナリオが実現する可能性が遠のいたにもかかわらず、株価がさらに上昇しましたが、これは、①これまでのところは暴動など選挙に伴う混乱が回避されてきたこと、➁「ねじれ政府」の可能性が高まったことで、バイデン氏が巨大テック企業や製薬会社等に対する規制を強化しにくくなったこと、➂バイデン氏が主張する法人税増税やキャピタルゲイン・配当への課税強化の実施も困難になること―が主因であったと考えられます。
現在の金融市場が直面する最大のリスクは、今後選挙結果がすぐに確定せず、暴動などの混乱した事態が生じるリスクです。今後、選挙結果に対する信頼性が損なわれるような事態になれば、先行きへの不確実性が一時的に高まり、株価下落や長期金利の低下につながるリスクがあります。
今後は、選挙結果が明確に決まるタイミングで株価が多少上昇する公算が大きいとみられます。その後については、「バイデン氏勝利+上院での共和党勝利」というシナリオが現実化する場合は、「ねじれ政治」の下、財政出動に頼った形での景気拡大が難しくなる一方で、増税実施や規制強化による景気への悪影響を懸念する必要が小さくなります。こうした状況下では、FRB(米連邦準備理事会)や米国経済のファンダメンタルズ(基礎的な諸条件)の動きが今後の金融市場を決定づける要因として重要度を高めるでしょう。コロナ禍からの景気の本格的な回復が今後の緩やかな米株高につながる公算が大きいと考えられます。
予想外の混戦となった米国大統領選挙戦の行方はペンシルベニア州など数州での今後の開票結果にかかっていますが、当レポート執筆時点ではバイデン氏が勝利する可能性が高まっている模様です(CNNなど主要メディアの情勢判断による。日本時間11月5日15時現在、以下同様)。一方、米国議会選挙では、民主党が下院での過半数を維持する見通しであるものの、上院選では激戦州の多くを共和党候補が制し、共和党が上院での過半数を維持するとの見方が強まっています。バイデン氏の勝利と上院での共和党勝利という「ねじれ政府」の可能性が高まっている現状を踏まえて、足元の金融市場の動きを検証するとともに、今後の展開を考えてみたいと思います。
米国の株式市場では、昨日(11月4日)のS&P500種指数の上昇率が2.2%に達しました。直前の2営業日(11月2日および3日)においては、バイデン氏の勝利に加えて民主党が上下両院を制するというシナリオ(ブルーウエーブ・シナリオ)が実現するとの思惑から、S&P500種指数はそれぞれ1.2%、1.8%上昇していました。4日になり、ブルーウエーブ・シナリオが実現する可能性が遠のいたにもかかわらず株価がさらに上昇したのは、①これまでのところは暴動など選挙に伴う混乱が回避されてきたこと、➁「ねじれ政府」の可能性が高まったことで、バイデン氏が巨大テック企業や製薬会社等に対する規制を強化しにくくなったこと、➂バイデン氏が主張する法人税増税やキャピタルゲイン・配当への課税強化の実施も困難になること―が主因であったと考えられます。実際、4日の米国株式市場の上昇を主導したのは、ヘルスケア関連銘柄とテック銘柄でした。
その一方で、「ねじれ政府」の下では、バイデン氏が大統領に就任したとしても、大規模な歳出拡大法案など財政赤字の大幅な拡大につながる諸法案を上院で通過させることが困難となります。米国債券市場ではこの点が好感され、米国国債10年物の利回りは3日の0.900%から4日には0.765%へと大きく低下しました。私は、「ねじれ政府」の下で歳出の大幅な拡大が困難になることが株価押し下げ圧力をもたらすと考えてきており、現時点でもこの見方を変更する必要はないと考えています。ただ、4日の米国株式市場においては、暴動などの混乱が回避できているという安心感を含め、先述の3つの要因による株高効果が「ねじれ政府」の可能性が高まったことによる株安効果を上回ったと推測されます。
他方、為替市場では、4日は事前予想を上回るトランプ氏の善戦が伝えられるとともに、ユーロ、円という主要通貨が対ドルで上昇する展開となりました。ドル安に振れたのは、米国長期金利の低下に合わせて、米独長期金利差、日米長期金利差が共に縮小したことでドル安圧力が働いたためと思われます。ドル円相場については、選挙の行方が不透明になったことで投資家がリスクに対して慎重になる(リスクオフ)動きを強めたことが円高に作用した面もあったとみられます。
足元で金融市場が直面する最大のリスクは、今後選挙結果がすぐに確定せず、暴動などの混乱した事態が生じるリスクです。選挙戦でやや劣勢に立たされているトランプ氏は、今後、票の再集計を要求したり、不正投票の存在を裁判所に申し立てるなどして選挙結果の正当性を問うなどの行動にでる可能性があります。選挙結果に対する信頼性が損なわれるような事態になれば、先行きへの不確実性が一時的に高まり、株価下落や長期金利の低下につながるリスクがあります。
一方で、上院選挙については、今回2議席を巡って選挙が実施されているジョージア州では、それぞれの議席について、どの候補も過半数の得票を得ることができない場合には来年1月5日に決選投票が実施されます。この選挙結果についての不確実性も今後金融市場での不透明感をもたらす可能性があります。
現在の金融市場でこのような不透明感が存在していることを踏まえると、今後、どのような形であれ選挙結果が明確に決まるタイミングで株価が多少上昇する公算が大きいとみられます。その後については、「バイデン氏勝利+上院での共和党勝利」というシナリオが現実化する場合は、「ねじれ政治」の下、財政出動に頼った形での景気拡大が難しくなる一方で、増税実施や規制強化による景気への悪影響を懸念する必要が小さくなります。こうした状況下で、FRB(米連邦準備理事会)や米国経済のファンダメンタルズ(基礎的な諸条件)の動きが今後の金融市場を決定づける要因として重要度を高めるでしょう。これらについては、FRBは今後も政府と協調しながら重要な役割を果たすとみられますし、米国景気についても、今後のワクチンの普及に伴って回復感を徐々に強めていくとみられます。コロナ禍からの景気の本格的な回復が今後の緩やかな米株高につながる公算が大きいと考えられます。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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MC2020-167