スマホで裁判?法律を身近な存在にする「LawTech」とは

日本でも、法務分野の業務効率化を図る手段として広範囲に浸透している「LegalTech (リーガルテック)」。その可能性をさらに拡張する新しいサービスとして、「LawTech(ローテック)」が注目されています。

2019年11月には、法令・判例検索データベースの提供を行うレクシスネクシス・ジャパンが主催する初のハッカソンイベント(プログラマーやデザイナーなどWebデザインやシステム開発に携わる複数人がチームを作り、与えられたテーマに対して1日から1週間でサービスやシステム、新しいアプリを開発し、そのアイデアやスキルを競うイベント)が開催されるなど、日本でも期待されている分野です。広範囲に普及することで、世界中の人々が、必要に応じて法律サービスにアクセスできる社会が実現すると期待されています。

専門家や大手企業の業務効率化を図る「LegalTech」

LawTechとLegalTechには「法律×テクノロジー」という共通点があるため、同じカテゴリーに分類されることが多いようです。しかし歴史が極めて浅い領域であるため、「米国ではLegalTech、欧州ではLawTechという」など、呼び方や定義は異なります。ここでは、英法律・税務サービスThe Law Boutique(ロー・ブティック)の定義に基づいて、その違いを簡単に説明します。

LegalTechは法律事務所や弁護士といった法律の専門家、あるいは大手企業が業務効率を向上させるために開発されたソリューションです。

LegalTechを利用すると、法務文書の作成から法人登記、不動産登記、契約書のリスクやコンプライアンスのチェックまで、様々な法務関連業務が簡潔化・自動化できるため、コストと労力の大幅な節減につながるというメリットがあります。

中小企業・個人向けの法律業務のセルフサービス「LawTech」

これに対してLawTechは、専門家に任せていた法務関連業務を、中小企業や個人が社内あるいは自分で行う、いわばセルフサービスのためのソリューションです。

一例を挙げると、日本でも多くの企業や個人に利用されている「DocuSign(ドキュサイン)」という電子署名サービスがあります。従来の契約プロセスは、専門家が作成あるいはチェックした契約書に、契約者同士が合意し署名捺印するなど、時間とコストを要することがネックです。またヒューマンエラーも多く、紙ベースの書類は紛失や劣化も懸念されます。

しかしLawTechを活用すれば、自社内あるいは個人で、合意から署名捺印、管理まで、契約書に関するすべてのプロセスを自動化でき、紛失や劣化もありません。また、これまで専門家に依頼していた費用や手間も省けるため、コストと労力を削減できます。

「法律をより身近な存在にする」3つの事例

オンラインによる法律サービスは、LawTechで急成長している領域です。費用や労力を理由に、弁護士への依頼を躊躇する人は少なくありませんが、LawTechはこのような人が法的支援にアクセスできる環境を提供します。今回は、3つのサービスをご紹介しましょう。

事例:1 オンライン法律アドバイス「Rocket Lawyer(ロケット・ロイヤー)」

サンフランシスコを拠点とする「Rocket Lawyer」は、電子契約書作成・署名サービスのほか、オンラインによる法律アドバイスも提供しています。

アカウント開設後、相談フォームに必要事項を記入して送信すると、手頃な料金で相談内容に応じたアドバイスを受けられる仕組みです。ビジネスから不動産、税金、相続計画、婚姻・離婚まで、多様な領域をカバーしています。

事例:2 世界初のチャットボット弁護士アプリ「DoNotPay(ドゥ・ノット・ペイ)」

日常生活の中で予期せぬ金銭トラブルに見舞われた際、「起訴を起こすほどの大ごとではない」と泣き寝入りするケースは少なくありません。

「DoNotPay」は、飛行機の遅延・欠航の補償、商品・サービスのトラブルによるクレカのチャージバック(支払取り消し)や返金、不当な駐車禁止の取締りに対する異議申し立てなど、「些細な金銭トラブル」を、アプリで法的に解決するものです。

欧米では、自動音声案内で個人情報を聞き出して詐欺行為に悪用する「Robocall(ロボコール)」が社会問題になっていますが、「DoNotPay」を通じて起訴することで、最大3,000ドル(約31万円)の賠償金を請求できるといいます。

事例3:弁護士費用調達プラットフォーム「Crowd Justice(クラウド・ジャスティス)」

「すべての人に公平な法的システムを構築する」という野望のもと、英弁護士ジュリア・サラスキー氏が2015年に立ち上げた、クラウドファンディング・プラットフォームです。

自分や家族、あるいは地域社会のためなど、様々な目的で弁護士費用を調達できます。世界中から資金を募るパブリック型、招待されたユーザーのみにアクセスを制限するプライベート型の2種類から選択でき、目標金額を達成すると直接弁護士に送金される仕組みです。

世界的に有名な裁判でも利用されており、2016年には英国の市民団体「The People’s Challenge(国民の挑戦)」が、総額17万ポンド(約2,325万円)以上を調達。この資金は、英国がEUに正式な離脱を通告するリスボン条約50条の発動を巡り、議会からの事前承認を求めることを高等法院で争うための裁判費用に使われました。

LawTech ×LegalTechの融合で可能になること

このように専門家はLegalTechを、中小企業や個人はLawTechを利用することで、長年にわたって定着した「法律サービスはコストと敷居が高い」というイメージが一新されるのではないか、と期待されています。消費者の法律リテラシーの向上にも役立つでしょう。

現在、国連サミットで採択された国際社会目標「SDGs(持続可能な開発目標)」に世界が一丸となって取り組んでいます。LegalTechやLawTechの普及で、すべての人にとって法律がより身近になれば、SDGsの目標の一つである包括的な社会作りにも貢献するはずです。

近年はさらなる業務の効率化を図るために、AI弁護士などAI技術を活用したLegalTechやLawTechも増えています。近い将来、「スマホからロボット弁護士経由で相談や起訴手続きを行い、ヴァーチャル裁判に出廷する」といったことができるようになるかもしれません。

それと同時に、法律分野でのコラボレーションやネットワーキングが加速するでしょう。そこから、革新的なアイデアやアプローチだけでなく、新たな投資のチャンスも生まれるのではないでしょうか。

※上記は参考情報であり、特定ファンドの売買を推奨するものではありません。

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