今の勤務先を辞めたとき、退職金がいくらもらえるのかご存じですか。漠然と「もらえるものだ」と思ってはいるものの、いくらもらえるのか、いつもらえるのか、本当にもらえるのか、実際には確認していない人のほうが多いのではないでしょうか。今回は、意外と知らない退職金制度について解説します。
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退職金とは、退職した労働者に支払われるもので「退職手当」「退職慰労金」などと呼ばれることもあります。一般的には、定年まで勤め上げたときに受け取るものだというイメージが強いのではないでしょうか。
実は、退職金は、誰もが受け取れるものではありません。勤務状況や継続年数など支給のための条件がある場合が多く、そもそも、退職金制度がないという企業も珍しくはないのです。
労働基準法は、退職金制度について「設ける場合は、就業規則に記載すること」と定めています。しかし、「退職金制度の有無」については不問で、退職金制度を作るかどうかはそれぞれの企業判断に委ねられています。
つまり、「必ず作らなければいけない」という法律はないのです。
厚生労働省が「常用労働者30人以上」の民営企業を対象に行っている調査では、退職金制度を導入している企業は約80.5%でした(「平成30年就労条件総合調査」より)。
この調査では、従業員数が多く企業規模の大きい会社ほど退職金制度があり、中小企業の中でも従業員が100人に満たないところでは約25%が「退職金制度がない」と回答しています。4社に1社は、退職金制度がないということになります。
調査対象から外れている「従業員30人未満の企業」を加えた場合は、「退職金制度がない」企業の割合はさらに増えることが予想されます。
勤務先に、退職金制度があるかどうかわからない場合は、「就業規則」を確認しておきましょう。
就業規則は、「労働者に対して周知しなければならない」と労働基準法で定められています。周知方法は各企業に任されているため、社内に掲示しているところもあれば、全社員に冊子を配布しているところ、電子データ化して各自に閲覧権限を与えているところなど、さまざまです。
自分が勤務する企業の就業規則について知ることは、当然の権利です。まずは、人事や総務などに聞いてみるといいでしょう。
定年時にまとまった金額を受け取る退職一時金の他に、年金型の退職金(企業年金)もあります。また、両制度の併用を取り入れている企業もあります。
「一時金と年金の併用」は、全体としては約18%と少数ですが、1,000人以上の従業員を抱える大企業では50%近くの企業で併用制度を導入しており、中小企業との差が開いています(「平成30年就労条件総合調査」より)。
退職時に一括でまとまった資金を受け取る方法が、「退職一時金」です。
退職一時金の算定については、それぞれの企業によって異なりますが、職能や勤続年数などを点数(ポイント)に置きかえて計算する方法をとっている会社が多く、定年に向けてポイントが加算されていくことで、支給金額も増加していきます。
退職金を受け取るまでに必要な「最低勤続期間」は、「3年以上(退職理由が自己都合の場合)」必要だとする企業が約半数を占めています(中央労働委員会「令和元年退職金、年金及び定年制事情調査」より)。退職金制度があったとしても、短期間での退職では支給は期待できないでしょう。
-相場はいくら
「令和元年退職金、年金及び定年制事情調査」によると、2018年に支払われた退職金平均額は、定年退職約1,213万円、会社都合約1,300万円、自己都合約414万円となっています。
就業規則には、退職金について「対象労働者の範囲」「退職金の決定・計算・支払方法」「退職金の支払時期」も明記するように定められています。退職金制度の有無を調べる際に、計算方法もしっかり見ておきましょう。
年金型の退職金制度を導入している企業では、退職一時金とは別に年金資金の積み立てを行っています。そのために利用している制度は、「確定拠出年金(DC)」が約48%、「確定給付年金(DB)」が約43%、「厚生年金基金」が約20%となっています(「平成30年就労条件総合調査」より)。
-確定拠出年金(DC)
企業型確定拠出年金(企業型DC)とは、将来受け取る年金のために投資信託や預貯金などの金融商品に投資を行う資産運用制度です。
個人型確定拠出年金(iDeCo)では、掛金の積み立てから投資商品の選定・運用・管理などを全て自分で行いますが、企業型DCでは「掛金の積み立て」部分を企業が行います。金融商品の選定や資産配分の決定などは従業員に任されていて、自分が受け取る退職金(年金)のために運用を行います。
拠出(掛金)は確定していますが、将来の年金額は運用次第です。
-確定給付年金(DB)
こちらは、「確定給付」つまり、給付される金額があらかじめ確定しているタイプの年金です。
掛金の積み立て、年金資産の運用・管理・給付と、全てを企業が行います。そのため、実際に受け取るまで年金制度があることに気づいていない場合もあります。
-厚生年金基金制度
将来国から支給される「老齢厚生年金」の一部分を運用し、企業が独自の上乗せ給付(プラスアルファ部分)を行う制度です。しかし、近年では低金利の影響などもあり、廃止の方向に進んでいます。
2014年以降は新規加入できなくなり、他の企業年金(DB・DC)への移行支援が設けられています。
-別の企業型年金やiDeCoに移せるから、転職しても安心
企業型DC・DBでは、転職や退職をした場合でも自分の「年金資産」を持ち運ぶこと(ポータビリティ)ができます。転職先に企業型DC・DBが導入されており加入条件を満たす場合は、持ち運んだ年金資産で改めて企業型DC・DBに加入できます。
転職先に企業型DC・DBがない場合や加入条件に合わなかった場合、自営業になった場合、あるいは退職して無職になった場合などは、個人型確定拠出年金iDeCoに移すことができます。
先に述べた通り、「退職金制度がない」ことは違法ではありません。
しかし、老後生活費やゆとり資金のために退職金を使おうと考えていた人は、ライフプランの修正を余儀なくされることでしょう。「退職金制度のある会社に転職したい」と思う人もいるかもしれません。
ただし、「退職金制度の有無」だけで企業を判断することは早計です。その理由を紹介しましょう。
就業規則による定めがない場合でも、労働協約や労使間の個別の合意により退職金を支払っている企業もあります。
また、これまでの退職者に支払っていたという事実がある場合は、慣行から退職金の支給を請求できることもあります。
ただし、支給の有無や支給基準などが明確になっていないものは、企業側に必ず支払わなければならないという義務はありません。
勤続年数が長いほど支給額が高くなる退職金制度は、かつて定年退職まで勤め上げることが当たり前だった時代には効果的な方法でした。しかし、近年では終身雇用の神話が崩れ、定年を待たずに転職・退職する人が増えています。
そのため、遠い未来の定年時ではなく、現時点の給与や賞与に上乗せして支払っているという企業や、その分福利厚生の充実を図っているという企業もあります。
転職を考える前に、しっかりと見極めることが大切です。
普段から退職金のことを気にしている人は、少ないのではないでしょうか。定年が目前に迫ってきてから、あるいは転職や退職を考えるようになってから、初めて退職金を意識するのではないかと思います。
直前になって慌てることのないよう、今のうちに確認しておくと安心です。