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目次
●米連邦準備理事会(FRB)が新たなインフレ目標戦略を発表
●安倍晋三首相の辞任は今後の懸念材料
●米国の消費者は米国経済の先行きを懸念しているが、FRBの緩和的な金融政策は、引き続きリスク資産を下支えする見込み
1. パウエルFRB議長のジャクソンホール会合での講演
①今後数年の政策金利は0%で推移すると考えられる、②投資家がインフレの発生をより懸念する可能性—が講演を受けての重要なポイント
2. 安倍首相の辞任
今回の首相交代における短期的な投資家への影響は軽微な見込み
3. 米国の消費者心理
①7月の新型ウイルスの感染者数の増加、②追加の失業給付の不足—などの影響から、米消費者信頼感指数が低下
4. 新型ウイルスの感染再拡大
スペイン、フランス、韓国などで感染者数が再び増加
今週の注目点
7月のユーロ圏小売売上高、8月の米国雇用統計に注目
前週は、米連邦準備理事会(FRB)による新たなインフレ目標政策の発表、日本では安倍首相の辞任、米国の消費者信頼感指数の低下、新型ウイルスの感染者数の急増などのニュースが見られました。本稿では、これらが投資家に与える影響について考察します。
8月27日、FRBのパウエル議長は、ジャクソンホール会合で、インフレが「一定期間」において目標の2%を「適度に」上回ることを容認する、新たなインフレ目標政策を発表しました。新たな政策では、FRBはインフレ率が目標を「超過」することを許容します。今回の変更で注意すべき重要なことは、この新たな政策が非対称の雇用目標をゴールとしている点です。FRBは、雇用状況が「最大雇用と判断される水準」よりも低い場合、緩和的な政策をとります。そして、インフレ率上昇の警告となるサインが見られない限り、雇用状況が「最大雇用と判断される水準」を上回っても金融引き締め政策をとらない、としています。そして、パウエル議長は「・・・堅調な労働市場を維持するメリットは計り知れない 1 」と語りました。
これは、フィリップス曲線と呼ばれる、インフレと失業との関係を示した経済概念(インフレ率が高まると失業率が低下し、その逆も見られるというもの)に大いに関係するものです。長い間、多くの人がフィリップス曲線はもはや存在しない(死んだ)のではないか、との疑念を持っていました。前週、FRBはその疑念に対し、「少なくとも最近の事象が証明していると考えられる」として、これを肯定したのです。パウエル議長は講演で「歴史的に力強い労働市場が実現したにもかかわらず、それが大幅な物価上昇を引き起こさなかった 1 」と述べ、それ故に新たな政策が策定されました。最近の事象を踏まえると、FRBは失業とインフレの間に強い相関があるとは明らかに考えていません。
私は、パウエル議長がボルカー元議長の逆を行っていると考えています。1979年から1987年までFRB議長を務めたボルカー氏は、インフレを敵とし、その封じ込めのために政策金利を大幅に引き上げました(1982年に私の両親が組んだ住宅ローンの利率は非常に高いものでした)。現在、パウエル議長は、持続的な低インフレを敵と見なし、FRBはインフレ率についてより柔軟な姿勢を示しています。これによりインフレ率が上昇する可能性は高まりますが、現在の状況はその可能性にはほど遠い状況です。
パウエル議長の講演に関しては2つの重要なポイントがあります。第一に、政策金利は今後数年間0%で推移すると考えられ、リスク資産を下支えする要因になることが見込まれます。第二に、投資家はインフレについてより懸念するようになる可能性があることです。金、米国物価連動国債(TIPS)やその他の金融商品を含め、インフレヘッジ資産に投資家の注目が集まるでしょう。しかし、真の勝者は、金利低下の恩恵を受けることによる、株式、特に景気循環株であると考えられます(インフレ率が急上昇しない限りにおいて)。
8月28日、安倍晋三首相は、健康上の理由から辞任の意向を表明しました。安倍首相は、第1次政権時にも健康上の理由から、2007年に辞任しています。安倍首相の任期中、日本経済が比較的安定的に推移していたことを考えると、今後の日本経済への影響が懸念されます。短期政権が続いた後で、同首相の在任日数は歴代最長を記録しました。
次期総裁の任期が2021年9月末であることを考えると、次期首相候補選びにおいて考慮すべき事項は自民党政権を持続できる可能性の高さです。次期首相の主な候補者として菅官房長官、岸田自民党政調会長、石破元幹事長が挙がっています 2 。
3名とも、安倍首相の主要な政策目標である「3本の矢」戦略を継続する見込みですが、石破氏は所得格差の是正により焦点を当てる可能性があります。方針の変更がないとしても、問題は、次期首相が安倍首相のように長期にわたり政権を守ることができるかどうかです。ただし、今回の首相交代における短期的な投資家への影響は軽微であると考えています。
8月のミシガン大学消費者信頼感指数(確報値)は速報値から上方改定されましたが、米調査会社コンファレンス・ボードが発表した消費者信頼感指数は、新型ウイルスによる経済危機における最低水準まで低下しました。これは、米国経済の見通しに関する真の懸念を示しています。消費者支出も、6月に大きく増加した後、7月は伸びが減速しましたが、7月に米国で新型ウイルスが再び拡大し、追加の失業給付が不足していることを考えると、消費者が先行きを懸念していることは当然でしょう。
私は、消費者信頼感の低下が投資家に与える影響は軽微であると考えています。FRBは、今後しばらくは、非常に緩和的な金融政策を維持することを明らかにしており、これは、リスク資産を下支えすると考えられるため、少なくとも現時点は、株式市場と実体経済を分けて考える必要があるでしょう。
スペイン、フランス、韓国など、世界中で新型ウイルスの感染者数が再び増加しています。ただし、特に韓国では、保健当局がこの状況の改善に取り組んでいるようです。米国では、大学の授業再開などの影響からアイオワ州やアラバマ州などで新規感染者数が増加していますが、全体としての感染状況は落ち着いています。ただし、今後、多くの大学、高校、そして小学校が授業の再開を予定しており状況を注視したいと思います。インフルエンザのシーズンが始まるまでの先1〜2カ月、新型ウイルスの感染拡大が一時的にせよ収まることが望まれますが、感染状況と消費者信頼感には密接な関係があることから、感染率を注意深く観察したい考えです。
ただし、投資家への影響という点では、株価への影響は大きくないと考えています。これは、FRBの金融政策が市場を動かす強力な要因となっているからで、私たちは株価の堅調な推移が続いている状況を見ています。
今週は、比較的静かな一週間になるでしょう。注目すべき経済指標としては、7月のユーロ圏の小売売上高と8月の米国の雇用統計があります。ユーロ圏の小売売上高は引き続き改善を示すとみていますが、一部の欧州諸国での感染者数の増加が足かせとなる可能性があります。米国の雇用に関しては、FRBの新しいインフレ目標政策を踏まえて、市場が統計にどのように反応するかに注目します。通常、良好な雇用統計が発表された場合、インフレと経済の過熱感に対応するためにFRBが金融政策を引き締めに動く恐れがあるとの懸念をもたらします。しかし、少なくとも現段階では、FRBの新たなインフレ目標政策により、その懸念は解消されています。
1.出所:連邦準備理事会スピーチ、“New Economic Challenges and the Fed’s Monetary Policy Review”、2020年8月27日。
2.出所:ジャパンタイムズ、“Abe right-hand man Yoshihide Suga emerges as a top pick to replace him”、2020年8月30日。
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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MC2020-134