相続対策には2つの観点があります。遺族間の無駄な争いを避けるためには「分割(遺産分け)」対策、なるべく多くの財産を残すためには「節税」対策が欠かせません。ここでは「現金」「生命保険」「不動産」を取り上げ、それぞれの資産の特徴をお伝えします。
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現金は当座の資金として、ある程度は確保しておきたいものです。故人の葬儀費用や医療費などを精算する際、預金口座が凍結されたり、暗証番号がわからなかったりすると、支払いに支障をきたすおそれがあります。そんなときに頼りになるのが現金です。
もう一つの特長は、不動産や骨董品などと違い、簡単に分割できることです。もちろん正式に各相続人のものにするためには、法律上有効な分割手続きをする必要があります。
いわゆるタンス預金には、いくらあったかなどの直接的な証拠が残りません。だからといって、相続税の申告をするときに除外すると、脱税になってしまいます。税務署に見つかると重加算税が課されることがあるので、必ず申告しましょう。
税務調査の対象になった場合、タンス預金の存在を隠し通すのは難しいでしょう。故人の預金口座の入出金履歴や生活支出などを詳細に調べて理論的に予測するなど、入念に調べられます。
現金には、後述する生命保険や不動産のような節税効果はないものの、納税資金や生活資金として有効に活用できます。残された人にとってありがたい存在です。
生命保険の死亡保障も利便性が高く、さらに節税対策にもなります。厳密には相続財産ではなく、みなし相続財産として相続税がかかります。遺産分割の対象にはならず、希望の相手に任意の金額を残せることが、他の資産と大きく異なる点です。
現金と同様に、相続税の納税資金や生活資金として活用するのもよいでしょう。いわば第二の現金です。迅速に手続きすれば、亡くなってから1~2週間程度で振り込まれます。スムーズに対応するため、受取人にはあらかじめ保険会社の連絡先を伝えておきましょう。
節税になる理由は、法定相続人1人につき500万円の非課税枠があるからです。たとえば、妻と子ども2人がおり、妻に2,000万円が一括で支払われる死亡保険の場合、500万円×3の1,500万円が差し引かれ、課税される金額は500万円となります。
契約者と受取人の関係によっては相続税の対象になりません。「この人が亡くなると保険が支払われる」という人を「被保険者」といいます。保険料を支払う人は「契約者」です。被保険者と契約者、受取人がそれぞれ違う人の場合は贈与税がかかります。契約者と受取人が同一人物であれば、所得税の対象です。
コントロールしやすく、多額の現金を残すことができ、節税にもなる生命保険は、相続対策としてよく利用されています。
不動産は分割しにくく、維持費用がかかることがデメリットです。一方で節税効果が高く、多くの富裕層が相続税対策として不動産を購入しています。
不動産の種類としては自宅の他に、賃貸マンションや駐車場、もともと持っている土地に店舗を建ててテナントを入れるなどの収益不動産があります。
相続税は、購入したときの価格に対してかかるわけではありません。建物は固定資産税評価額が基準となり、土地は路線価と評価倍率という、相続税を計算するために国税庁が発表する単価によって決まります。これらは一般的に実勢価格の7割から8割程度なので、現金で持っているよりも2割~3割の節税になる仕組みです。
さらに賃貸マンション・アパートの敷地は、貸家建付地として評価されるため、課税の対象となる価格が下がります。減額される割合は地域や空き部屋の数によって異なりますが、市街地などでは2割ほど下げられることも少なくありません。
加えて、「小規模宅地等の特例」に該当する敷地は、最大で自宅の場合80%、収益不動産の場合50%減額できます。これらの仕組みを活用すると、大幅な節税になります。
分割には配慮が必要です。現金と違って、複数の相続人に対して完全に同じように分けることはできません。所有権の割合を自由に決められる共有という方法もありますが、売却や管理をめぐって意見が分かれたときに収拾がつかなくなるおそれがあります。
対策として、「不動産は相続人のうち誰かに単独で相続させ、他の遺族には現金や預金を用意する」、マンションの場合は「敷地のみ共有にして部屋ごとに単独所有させる」などがあります。財産の総額やそれに対してかかる税金、家族構成などに合わせて、適切な資産配分をすることが円満な相続のポイントです。
分割のしやすさや遺族にとっての安心感などの扱いやすさは現金、生命保険、不動産の順ですが、節税効果の高さは不動産、生命保険、現金の順になります。それぞれの特徴を活かし、円満な相続を目指してください。なお、実際に相続に向けて準備を始める際には、詳しいことは専門家に相談し、提案を仰ぐようにしましょう。