感染拡大が続く中、経済指標の改善はいつまで続くのか?

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米雇用統計は好調を維持するものの、感染拡大が長期的な成長への懸念材料に

〔要旨〕

✔︎6月の米国の雇用統計と購買担当者景気指数(PMI)は改善したものの、新型コロナウイルスの感染拡大は依然として重大な懸念事項

✔政策立案者が追加の支援を実施しなかった場合、今後数カ月でこれらの指標は悪化する可能性が高いと見込む

✔一時解雇を発表したり、破産申請を行う企業、そして自主的に店舗の閉鎖を決定する企業の数が減少しない現状では、追加の財政刺激策が必要

●6月は、世界的に経済指標の改善が確認される

—米雇用統計や、米国、欧州、中国でPMIが改善

●米国の新型ウイルスの感染拡大は依然として重大な懸念事項

—一時解雇の発表や破産申請、店舗を閉鎖する企業が増加

—いまだに多数の米国人がマスクの着用に強い抵抗を示す

—感染率の上昇が業績予想の見直しとともに株価へマイナスの影響を与える恐れ

●まとめ

—追加の財政出動がなければ米国経済は失速する恐れも

—決算発表期間の市場の動向を注視

 

6月の雇用統計は引き続き堅調だが、①新型ウイルス対策の再強化、②追加の財政刺激策の見合わせ―の可能性などを懸念

前週、6月の米国雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数と失業率は、ともに2カ月連続で市場予想を上回る結果となりました。そのような中、私は以下の2点を懸念しています。

●今回の雇用統計は5月中旬から6月中旬の結果で、新型コロナウイルスの感染拡大により、再度、厳しい措置が取られ始めていることは反映されていません。つまり、感染拡大が続き、より厳しい経済封鎖の実施の可能性が高まる場合には、7月の雇用統計が好調さを維持することは難しくなります。特に、6月に雇用の大幅な増加が確認されたレジャー・宿泊業と小売業について、失業者数が再び増加する恐れがあります。

●もう1つの懸念は、雇用統計が好調だったことで、米国政府が追加の財政刺激策の実施を見合わせる可能性があることです。下院は5月に新型ウイルスの救済法案(HEROES法)を可決しましたが、上院共和党は、さらなる刺激策を実施する前に今までの救済措置の効果を様子見したい考えです。しかし、5月と6月の好調な雇用統計は、財政刺激策の効果が大きかったことを忘れてはならないと考えます。

6月は、世界的に経済指標の改善が確認される

米国、欧州、中国でPMIが改善

米国では、その他の経済指標も非常に好調でした。例えば、6月のISM製造業景況指数(PMI)は市場予想を上回る52.6と2019年4月以来の高水準となり、前月の43.1から大幅に改善しました1。サブインデックスの新規受注指数は5月の31.8から6月には56.4と大幅に上昇しており、先行きの明るさを示唆しています1

そして、米国だけでなく、欧州とアジアでも経済状況の改善が確認されています。

●欧州では、購買担当者景気指数(PMI)が大幅に改善しました。6月の総合PMIは48.5となり、5月の31.9から大きく上昇しました。製造業PMIは47.4(5月:39.4)、サービス業PMIは48.3(同30.5)と、それぞれ改善しました2

●アジアでも、PMIの改善が確認されました。中国では、政府発表と民間統計の両PMIの改善傾向が続きました。例えば、6月の民間発表の製造業PMIは51.2(5月:50.7)、サービス業は58.4(同55.0)となっており、サービス業PMIは2010年4月以来の高水準を記録しました3。日本、台湾、韓国でも一部の経済指標に緩やかな改善が見られました。

米国の新型ウイルスの感染拡大は依然として重大な懸念事項

一時解雇の発表や破産申請、店舗を閉鎖する企業が増加

米国とその他の国の一番の違いは、米国では新型ウイルスの感染率が上昇していることです。以前、私は米国の感染状況の悪化と経済指標の改善についてご紹介し、そこで、追加の財政出動が実施されないのであれば、米国経済の改善の継続が懸念される、と書きました。私は、すでに実施されている刺激策の多くは効果が一時的なものであるため、より多くの財政刺激策が明らかに必要であると考えます。実際、一時解雇の発表や、破産を申請する企業、店舗を閉鎖する企業が増加しています。

いまだに多数の米国人がマスクの着用に強い抵抗を示す

2週間前、ムニューシン米財務長官は、米国が年内に景気後退を脱却するとの見解を述べました。私は、ウイルスを制御し、継続的な財政支援を提供することは、米国経済の堅調な成長のために必要と考えます。米国は中国と欧州のように景気回復への道をたどることができるでしょうが、そのためには新型ウイルスの感染拡大をコントロールし、「感染率の曲線を平たん化する」ことに成功しなければならないでしょう。大多数の米国人がマスクの着用を拒んでいるため、私は感染の抑制がますます難しくなっているのではないかと懸念しています。1918年のスペイン風邪が大流行した当時も、マスクの着用には強い抵抗が見られ、サンフランシスコで「アンチマスクリーグ」が結成されました。ただし、当時は、マスクの着用は第一次世界大戦から戻ってきた軍人を保護するための愛国的な義務と見なされたため、ほとんどの人がマスクを着用しました。

感染率の上昇が業績予想の見直しとともに株価へマイナスの影響を与える恐れ

財政刺激策が実施されなかった場合、感染率の上昇は、決算シーズンが進み企業の業績予想が見直されるとともに、株式(少なくとも米国の株式)に一時的でないマイナスの影響を及ぼす可能性があります。現状、S&P500種指数の構成銘柄のほぼ4割が2020年の収益予想を発表していませんが、実績は報告されていきます4。私たちはこの実績から企業の現状を把握することができますが、ファクトセット・リサーチ・システムズによると、2020年4-6月期のS&P 500種指数構成銘柄の利益予想は43.8%の減益となっています。

まとめ

追加の財政出動がなければ米国経済は失速する恐れも

6月の好調な米国の雇用統計とPMIは確かに好感すべき結果ですが、私は米国よりも欧州や中国の改善をむしろポジティブに捉えています。米国の経済指標は、政策立案者が追加の財政出動を実施しなければ、今後数カ月で勢いを失いかねません。投資家はその可能性と、その変化に伴う市場の変動の高まりに備える必要があると考えます。

決算発表期間の市場の動向を注視

現状、私は米連邦準備理事会(FRB)や他の中央銀行による大規模な金融政策の恩恵から、株価が上昇基調を維持すると引き続き考えています。しかし、私はまた、金融政策、財政政策、公衆衛生政策による現在の危機への3つのアプローチが、着実な経済成長のために必要との見解も維持しています。言い換えれば、中央銀行が適切な金融政策を提供している間、もしくはワクチンが開発され世界中で効果的に使われるようになるまで、経済を支えるためのより多くの財政刺激策と、ウイルスの感染拡大を抑える効果的な対処が必要と考えます。また、ここ数カ月、株式市場は経済動向とは切り離された推移をしていますが、決算発表期間中(それは一時的と考えるものの)、株式市場は感染率の上昇や財政刺激策の欠如というマイナス影響を受けやすくなる、と考えられます。私たちは、決算発表期間の市場の動きを注視していきます。

1.出所:米サプライマネジメント協会、2020年7月1日。
2.出所:IHSマークイット。
3.出所:財新メディア。
4.出所:ファクトセット・リサーチ・システムズ。


クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト


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