栄養補助食品として世界的に人気のサプリメントですが、ビタミン類やハーブ、アシッド(酸)、プロテインなど種類は多岐にわたり、安易に飲むと効果を実感できないだけではなく、副作用のリスクも懸念されます。こうした問題の解決策として、AIを活用する動きが活発化し、実用化が進んでいます。
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米市場調査企業Grand View Researchの分析によると、消費者の健康志向の高まりやライフスタイル、食生活の変化などが追い風となり、世界のサプリメンメント市場規模は2019年に推定1,232億ドル(約13兆990億円)を突破。2020~26年にかけて、CAGR(年平均成長率)8.2%で成長すると予想されています。
ビタミン剤(錠剤、粉末、液体など形状問わず)が2019年の総市場シェアの32.1%を占めている一方、ハーブなど植物由来のサプリの人気も急上昇しています。また服用目的として需要が拡大している分野は、皮膚の健康やパーソナルケア、消化器系の健康向上を補助する商品です。
世界的なサプリ人気の中、「サプリメント革命を起こす存在」として注目されている技術がAI(人工知能)です。AIはすでに抗生物質を含む創薬標的候補の選出や処方監査、服薬指導まで、医薬品分野で活用されています。
サプリは気軽に手に入る反面、「医薬品と比べて規制がゆるい」というリスクがあります。アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)に掲載された研究報告書によると、米国の成人のほぼ25%がサプリと処方薬を同時に服用しています。サプリメント、処方薬、市販薬など複数の種類を一緒に服用した場合、効果に影響を与えるだけでなく副作用の可能性もあると指摘されています。
そこで、効果・安全面の両方の課題を解決するためにAIの導入が進み、数々の企業や団体が新しいサービスの提供を始めています。
現時点で実用化されている、AI×サプリの事例を見てみましょう。
本来はかかりつけの医師に、処方薬とサプリの相互作用について確認すべきですが、実行している人は意外と少ないものです。
Microsoftの共同創業者である故ポール・アレン氏が設立した非営利団体アレン人工知能研究所は、消費者に安全かつ効果的なサプリ服用を促す目的で、サプリメント同士あるいは医薬品との相互作用を識別するためのAI検索ツール「Supp.AI」を無料で公開しています。
同研究所は2015年、1億7,300万を超えるコンピューターサイエンスおよび生物医学ジャーナルの論文を読み込み、キーワードや結果を検索できる自然言語処理システム「Semantic Scholar」をリリースしており、「Supp.AI」は一般消費者向けにこのシステムの一部を応用・調整したものです。
例えば検索バーに「ビタミンD」と入力すると、565種類もの相互作用に関する論文や研究報告書が表示されるなど、リアルタイムで必要な情報を検索できます。
米栄養補助食品メーカーLife Extension(ライフエクステンション)が米バイオテクノロジースタートアップInsilico Medicine(インシリコ・メディシン)と共同開発した「GEROPROTECT Stem Cell」 は、健康な幹細胞機能や細胞タンパク質調節、DNAの健康、AMPKシグナル伝達などを促進する栄養素により、バランスのとれた幹細胞分化や自己再生をサポートするアンチエイジング・サプリです。
Insilico Medicineの機械学習技術で特定した、パッションフルーツに含まれるピセアタンノールやトランスレスベラトロール、コクムフルーツに含まれるガルシノールといった、健康な幹細胞機能を促進する成分が含まれています。
また老化幹細胞を管理するための身体の自然なプロセスを促進する作用も期待できるため、幹細胞が本来の機能を維持することが可能です。
エクサイズは健康促進に欠かせないものですが、体に過度に負担がかかると炎症の原因となることもあります。筋肉痛などの炎症は、損傷した筋肉の組織再生を促すための自然な反応ではありますが、可能であれば未然に防ぎたいものです。
独大手総合化学メーカー、BASFが開発した「PeptAIde」はAIが特定した植物由来の複数のペプチドを含む、抗運動ストレスサプリです。
ペプチドは約2~50個のアミノ酸がペプチド結合したもので、特定の内因性ペプチドは、炎症の原因となる体内物資などの生成を抑える効果が科学的に立証されています。
「PeptAIde」が特許を取得したペプチド群は、炎症反応を引き起こすタンパク質、サイトカインの放出を調整することで、運動によって生じる筋肉の炎症を防止する効果が期待できます。
多様な分野で活用が拡大しているAI技術ですが、サプリ服用の安全性を向上し、効果を実感するためにも欠かせない技術となりそうです。
さらにこうした技術を応用することで、近い将来、一人ひとりの症状や目的に合わせてカスタマイズできるAIサプリなど、よりパーソナライズされたサプリの開発も実現するのではないでしょうか。
予防ヘルスケア× AIテクノロジーの分野は、今後期待される産業でもあります。安全性を確保しつつ効果を促進させるAIを活用させたオーダーメードのサプリメントが、未来の常識になるかもしれません。2019年はGAFAのヘルスケア関連への投資が、相次いで発表された年でした。ヘルスケア× AIへの注目がさらに高まる中、「AI×サプリメント」というキーワードで業績が上がりそうな企業をリサーチし、投資に向けての準備を始めてみるのもよいかもしれません。
※上記文中の個別企業や個別商品はあくまで事例であり、当該銘柄の売買を推奨するものではありません。