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自国経済を後押しすべく、財政刺激策を発表する各国政府

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企業や労働者の支援のため、欧州連合、日本、中国はさまざまな財政刺激策を発表

〔要旨〕

✔︎直近数週間で、欧州連合(EU)、日本、中国はさまざまな経済政策を発表

✔︎主な内容は、助成金、貸付金、企業の補助金、労働者への給付金、インフラ支出

●過去にない協調的な刺激策の実施を模索するEU

—EUが8,230億米ドル規模の新型コロナウイルス復興基金の素案を発表

—復興基金の実現はEUの結束を高めることに

●日本は1兆米ドルの追加刺激策を発表

—①企業の財務基盤の強化、②店舗の賃料の支援、③休業手当の新制度の創設―などを含む追加刺激策

●中国の景気刺激策はインフラ支出に注力

—今回の刺激策は「新型インフラ」の整備に重点を置く方針

●景気刺激策の提供が困難な新興国

—①医療インフラの弱さ、②大規模な財政出動の実行能力の乏しさ―が課題

—インドやブラジルでは追加の刺激策の必要性が高まる可能性

●結論

—財政刺激策は、世界経済への楽観的な見方を後押ししている

政府が支出を増やし続けていることは意味のあること

前週、本稿では、新型コロナウイルスの世界的な大流行(パンデミック)による経済へのダメージに対処するための、財政刺激策の必要性を紹介しました。現在の危機が始まってから、私は、各国が世界金融危機時と同様の対応を取る(一般的に金融政策に重きが置かれ、財政政策は十分に活用されない)のではないか、と懸念してきました。しかし、欧州連合(EU)、日本、中国では、直近数週間でさまざまな財政刺激策が発表されました。もちろん、重要なのは財政刺激の規模ではなく、その効果です。ただし、政府が支出を増やし続けているという事実は非常に意味のあることと考えます。

過去にない協調的な刺激策の実施を模索するEU

EUが8,230億米ドル規模の新型コロナウイルス復興基金の素案を発表

EUは、約2兆米ドルの中期予算案のうち、新型コロナウイルス対策として8,230億米ドル(7,500億ユーロ)の復興基金を用意するとの素案を発表しました1。長い間、EU諸国間での財政負担の分担は待ち望まれてきましたが、今回の案は、1790年にハミルトン初代米財務長官が、米国の13の植民地の資金調達を支援するために米国政府が債務を負担する、という重要な決定を下した瞬間を想起させます。

復興基金の実現はEUの結束を高めることに

この素案の実現には、27のEU加盟国すべての合意が必要です。そして、オランダ、オーストリア、スウェーデン、デンマークなどの国が自国の納税者が他の国の支出に資金を提供することを望まないと計画に反対していることを考えると、その実現には障壁が存在します。フォンデアライエン欧州委員長は、これがEUの結束を強め、EUの新たな未来を描く機会であると、彼らを説得しなければなりません。同氏は「今が欧州にとって大切な節目だ。私たち全員が直面している困難に対して、行動する意志が必要である2」と発言しました。これらが実現した場合、EUが共同債を発行し、財政刺激策のために多くの金額を借り入れる初めての機会になります。

日本は1兆米ドルの追加刺激策を発表

①企業の財務基盤の強化、②店舗の賃料の支援、③休業手当の新制度の創設―などを含む追加刺激策

前週、安倍内閣は1.1兆米ドル規模の第2次補正予算案を閣議決定しました。同案には、企業の財務基盤の強化や店舗の賃料の支援などが含まれています。また、勤め先の資金繰り悪化などで休業手当を受け取れない従業員に対し、国が直接、休業手当を給付する新制度も創設します。この新しい景気刺激策により、新型コロナウイルスの対策資金の総額は日本の国内総生産(GDP)の約40%に達する模様です3。さらに、この刺激策の大半が財政支出で賄われる予定です。安倍内閣は、6月中旬までの法案成立を目指しています。

中国の景気刺激策はインフラ支出に注力

中国の刺激策は「新型インフラ」の整備に重点を置く方針

前週の全国人民代表大会で、中国政府は5,590億米ドルの財政出動パッケージを発表しました4。この刺激策は、失業率の引き下げと、国内経済のテコ入れを目標としています。具体的には、5G(第5世代移動通信システム)、データセンター、電気自動車用の充電施設などの「新型インフラストラクチャ」の整備に重点を置く方針が示されました。

景気刺激策の提供が困難な新興国

①医療インフラの弱さ、②大規模な財政出動の実行能力の乏しさ―が課題

多くの新興国については、医療インフラが弱いことや、大規模な財政刺激策の実行能力に乏しいことが、課題として挙げられます。そして、一部の新興国、特にブラジルとインドで新型コロナウイルスの感染者数が増加しています。これは、景気回復がさらに後ろ倒しとなることを意味します。

インドやブラジルでは追加の刺激策の必要性が高まる可能性

前月、インド政府は、企業や低所得層を対象に、GDPの約10%に相当する追加の経済対策を発表しました5。ただし、感染者数カーブが平たん化しない場合、追加の刺激策が必要となるでしょう。また、ブラジルでは、5月28日時点で43万8000人を超える感染者数が確認されており、状況は悲惨です5。これまでのところ、ブラジルの財政出動はGDPの8%程度でしたが、追加の経済対策の必要性が一層高まると予想されます5

結論

財政刺激策は世界経済への楽観的な見方を後押し

パンデミックのさなかに将来を予測することは難しいものです(たとえすぐ目前の未来であっても)。中国政府は、年間GDP成長率目標の発表を初めて見送りました。そして、S&P500種指数上場企業の3分の1以上が、2020年の利益ガイダンスを公表しませんでした。金融政策から公衆衛生政策、治療法の確立やワクチンの開発まで、マクロ経済の見通しに影響を与える要因は数多く存在します。しかし、財政刺激策に関して言えば、過去2週間、世界経済に対する楽観的な見方を後押ししていると言えるでしょう。

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

 

1.出所:ウォール・ストリート・ジャーナル、”European Union plans $2 trillion coronavirus response effort”、2020年5月27日。

2.出所:欧州委員会プレスリリース、2020年5月27日。

3.出所:ロイター、”Japan approves fresh $1.1 trillion stimulus to combat pandemic pain”、2020年5月26日。

4.出所:サウスチャイナ・モーニング・ポスト、“China pledges largest-ever economic rescue package to save jobs and livelihoods amid coronavirus”、2020年5月28日。

5.出所:国際通貨基金(IMF)、“Policy responses to COVID-19”。

 

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