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高関税は米国を景気後退に追い込むか?

高関税は米国を景気後退に追い込むか?

※インベスコ・アセット・マネジメント株式会社が提供するコンテンツです。

〔要旨〕

  • 基本シナリオ:ほとんどの関税が今年の大半は現行水準で据え置かれ、膠着状態となるシナリオ。この場合、米国経済は景気後退に陥る可能性が高い
  • 下方シナリオ:ほとんどの国が報復関税で対抗するシナリオ。この場合、世界的な関税戦争となり、世界的な景気後退、米国のスタグフレーション環境を招く
  • 上方シナリオ:ほとんどの国が米国製品に対抗した保護主義的な政策を縮小し、米国も関税を引き下げるシナリオ。あるいは関税が裁判で争われ、撤廃される可能性も

どの国々が最も大きな影響を受けるか?

米国は今年景気後退に陥るか?

世界は景気後退に陥るか?

2025年の基本シナリオと投資へのインプリケーションは?

下方シナリオとは?

上方シナリオとは?

用語集に新しい項目を追加

今後の展望

注目の日程

一週間で、何と大きな変化が起きたことでしょう。先週は、「解放の日」にいくばくかの不安を感じつつスタートしたものの、米国消費者と米国経済にもたらす負の影響から、市場はトランプ大統領が貿易相手国への超高関税を実際に課すことはないだろうとみていました。実際「解放の日」の前日、関税発表を待つ間、市場は楽観的な見方に傾き、S&P500種指数は上昇しました。しかしその見方は、誤っていました。

この関税は「相互関税」と銘打たれ、各国が米国に対して課す関税の半分に相当する、より緩やかな相互関税だとされました。しかしこれは誤った表現です。この相互関税は、各国が米国に対して課す関税に基づいているわけではありません。実際には、各国の対米輸出に対する米国の二国間貿易赤字の比率に基づいています。それを2で割って(これをもって「割引き」関税率としています)、米国への輸入品に最低でも10%の関税を課しています。言い換えれば、これは貿易障壁も含め、(国際貿易上の)比較優位や自由貿易の文脈における自由意志など、様々な要因の関数と言えます。

状況を複雑にしているのは、議会が、大統領が国家安全保障上の理由から一方的に関税を課すことを認める法律を可決し、関税に関する決定権をほとんど放棄してしまっていることです。これらの「解放の日」関税は、通商法上の232条関税でも301条関税でもありません。国家緊急事態の宣言後に、大統領に様々な経済取引を規制する広範な権限を与える、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて実行されたものです。IEEPAは、大統領が国家緊急事態を宣言する権限を持つことから、自ら発動可能な広範な権限を作り出し、様々な政権がこの手段を用いることにつながりました。過去には、IEEPAを用いてより小規模な、より目標を絞った貿易措置が発動されたケースもありました。しかし、今回発射されたのはいわばバズーカ砲です。驚くには値しませんが、このバズーカ砲は、米国だけでなく世界中で大規模な市場の売りを引き起こしました。たとえ米国の有権者やビジネスリーダーの多くが支持せずとも、トランプ政権は事実上、一方的にこの貿易戦争を遂行する力を持っているのです。

より哲学的な見方をすれば、中国が世界の工場だとすれば、米国はいわば世界の財布です。米国人は多くのモノを消費します。多くの国が売りたがる巨大な市場であり、トランプ政権はそれがアメリカに巨大なパワーと影響力を与えると考えていますが、それは事実です。しかし、米国はグローバリゼーションから、見過ごされがちな多くの恩恵も受けています:例えば、低インフレ、越境投資、米ドルが世界の基軸通貨として選ばれていることなどです。

複数の金融の専門家から、世界金融危機以来のレベルで、顧客から必死の電話がかかってきているとの声を聞きました。投げかけられる質問には、「これらの政策の最終的なゴールは何か?」「交渉の手段なのか、それとも債務返済のための歳入増の手段なのか?」「米国製品に対する関税は既に低いにもかかわらず、(米国が当該国に対して)貿易赤字となっているこれらの国の多くに、米国は何を求めているのか?」など、答えに窮するものも多く含まれています。現時点では、何が起こるのか、そして投資にもたらすインプリケーションは何か、という問いに対して、経験に基づく推測しかできません。以下では、顧客のみなさまから最も多くいただく質問のいくつかについて、答えてみたいと思います。

どの国々が最も大きな影響を受けるか?

今回発表された関税率は、多くの国、特に中国とより小さなアジア新興国に対して課されたものを含め、予想を上回る水準でした。関税率が54%に達する中国には、大きな負の経済的影響が及ぶ可能性が高いでしょう。またベトナム、タイ、台湾、マレーシアなどアジアのより小さな開放経済の国々も、対米貿易黒字が2023年の各国国内総生産の6%以上を占めていることから、大きな打撃を受けると予想されます1

これらのアジア諸国は、関税の直接的影響だけでなく、世界的な成長鈍化や、供給過多の問題から域内競争の激化によっても悪影響を受けると予想されます。しかし、中国は既に大規模な財政刺激策を打ち出しており、これは米国の関税の影響を和らげるのに役立つでしょう。またその結果、同じく高関税に直面しているその他のアジア諸国にも恩恵をもたらす可能性があります。

米国は今年景気後退に陥るか?

すべては、他国からの報復関税も含め、この高関税がいつまで続くかにかかっています。しかし私は、これが数ヶ月続くだけでも景気後退の引き金になる可能性があると見ています。(ビリオネアのヘッジファンド・マネージャー、ビル・アックマン氏が、関税がこのまま据え置かれた場合、「経済的核の冬」が訪れると警告したことは注目に値します2。)この状況は、大幅な政府支出削減とトランプ政権の予測不可能性によって悪化しており、それは交渉には有利となる可能性があるものの、事業計画にとっては非常に大きな問題となります:不確実性は、事業投資を抑制する強力な要因となり得ます。従って答えはイエスとなり、米国が今年景気後退に陥る可能性は、そうでない可能性よりも高いと考えられます。

世界は景気後退に陥るか?

もちろん、米国が景気後退に陥れば、それはたやすく世界に波及し得ます。しかし他の国々は、貿易障壁を緩和したり、トランプ政権の出方を待つ間に自国の景気刺激に集中することを選択したりできるため、世界的な景気後退が起きる確率は、米国の景気後退が起きる確率よりも低いと考えられます。従って私は、世界的な景気減速が起こる可能性は高いものの、必ずしも世界的な景気後退が起こるとは限らないとみています。

2025年の基本シナリオと投資へのインプリケーションは?

何らかの見通しをご提供するために、私たちは3つの一般的なシナリオを考えています:関税戦争が全般的にエスカレートするシナリオ、関税戦争が全般的におさまるシナリオ、そして現行の関税スケジュールが概ね維持されたままとなる膠着シナリオです。

基本シナリオは、今年の大半は現行の関税水準が維持され、膠着状態が続くというものです。この場合、米国経済は景気後退に陥る可能性が高いでしょう。比較的低い関税が適用された国々や、欧州や中国のように財政刺激策を強化することで関税に対抗している国々は、比較的うまく凌ぐことができるでしょう。

基本シナリオは比較的「リスクオフ」の環境であり、その場合は通常、国債やおそらく金(私たちは相対的に割高だと考えていますが)が選好されます。(各国の中でも)米国経済への打撃が最も大きくなる可能性が高いことを踏まえ、私たちは米国債を選好します。株式市場では、米国市場よりも割安で、これらの地域の政府が実施すると考えられる財政出動の恩恵を受け得る欧州株と中国株を選好します。クレジット資産では、ハイ・イールド債よりも投資適格債を選好します。

各国の品目に課される関税率に大きなばらつきがあることに鑑み、能動的な資産管理が重要になると考えられます。例えば、英国産品に対する関税は比較的低くなっています。また各国の対米貿易交渉が、各国市場のパフォーマンスに大きな影響を与える可能性があります。以前にも述べたように、関税率や貿易交渉の状況が国ごとに異なることから、私たちはポートフォリオのリバランスは、対象国を選ぶところから始めるべきだと考えます。

このシナリオでは、多くの投資家が選好する「セーフヘイブン(安全資産)」である金が、良好なパフォーマンスを示すと思われます。通貨では、日本円、ユーロ、英国ポンドが比較的堅調に推移すると予想されます。

下方シナリオとは?

下方シナリオは、ほとんどの国が報復関税で対抗するシナリオで、その場合、世界的な関税戦争が勃発して世界経済が景気後退に陥り、米国ではスタグフレーション環境となり、景気後退がさらに深刻化する可能性が高いと考えられます。

この場合は極端な「リスクオフ」シナリオとなるため、株式へのエクスポージャーを相対的に低くすることが望ましいと考えられます。株式の中では、米国以外の低ボラティリティ銘柄やディフェンシブ銘柄、特に公益事業や通信セクターが比較的良好なパフォーマンスを示すと思われます。債券では、ソブリン債と米国物価連動国債(TIPS)がアウトパフォームしそうです。このような環境下では、金も良好なパフォーマンスを示すでしょう。

上方シナリオとは?

上方シナリオは、多くの国が米国製品に対抗した保護主義的な政策を縮小する対応を取り、その結果米国が関税を引き下げることになるシナリオです(たとえ関税率が既に相対的に低い水準にあるとしても、非関税障壁が存在する可能性もあります)。または、関税が裁判で争われ、撤廃される可能性もあります。いずれの場合でも、米国経済及び世界経済は、景気後退とインフレの再燃を回避できるでしょう。特に米国では、資金が米ドル建て資産に回帰し、成長回復が再開するでしょう。

これは最も「リスクオ ン」の環境であり、米国株、米国ハイ・イールド債、米ドルに至るまで、米国資産が最大の恩恵を受ける可能性が高いでしょう。

用語集に新しい項目を追加

1月に始めた2025年に向けた金融用語集に、いくつかの新しい用語を追加する時が来たように思います:

比較優位:比較優位の原則は、国家が最も生産性の高い品目の生産に特化することで、生活水準と実質所得を引き上げることができるというものです3。哲学者であり政治経済学者でもあるジョン・スチュアート・ミルは、国際貿易の利益は「世界の生産能力のより効率的な活用」にあると説明しました3。それこそが比較優位であり、これは世界的な貿易戦争によって低下し、破壊される可能性さえあります。

キンドルバーガーのスパイラル:経済学者のチャールズ・キンドルバーガーが、1929年から1933年にかけて世界貿易がどのように崩壊したかを、1930年のスムート・ホーリー関税法成立の役割を含めて説明するために作成した図表を指します。重要なのは、スムート・ホーリー関税法が世界貿易の崩壊を引き起こしたのではなく、崩壊を加速させたという点です4

今後の展望

第1四半期の決算シーズンがまもなく始まりますが、関税に対する企業の懸念や、関税が各企業の利益に与える影響についての予想を推し量る良い機会となるでしょう。決算資料の中で、景気後退や関税の影響に言及した部分を確認することが重要となります。

3月の米消費者物価指数(CPI)が発表されますが、これはバックミラーに映るデータ(過去の状況を映すデータ)だと言えます―最近の政策措置により、今後インフレが上昇する可能性が高いことは周知のとおりです。また、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨も公表されます。これは「解放の日」の結果、市場が更なる利下げを織り込んでいることを踏まえ、FOMCメンバーが関税戦争にどのような反応を示すかについてのヒントを与えてくれるでしょう。そして、ミシガン大学消費者調査の結果が発表され、米消費者の心理及びインフレ期待について最新の状況が判明するでしょう。ここ数回の調査で消費者心理が低下し、インフレ期待が上昇していることを踏まえると、今回の調査結果を確認するのは極めて重要です。

注目の日程

公表日 指標等 内容
4月7日 ドイツ鉱工業生産指数 鉱工業セクターの経済の健全性を示す
4月7日 ユーロ圏小売売上高 小売セクターの健全性を示す
4月7日 カナダ銀行経済展望調査 カナダ銀行が関心を持つトピック(需要や生産能力のひっ迫など)について企業の見方を収集
4月7日 米国消費者信用残高 米国消費者に対する与信残高を追跡
4月7日 オーストラリアWestpac消費者
信頼感指数
ある時点における消費者の経済に対する所感及び
将来に対する見通しを評価
4月7日 ナショナル・オーストラリア銀行
企業景況感指数
オーストラリアの現在の業況を測定
4月8日 米国NFIB中小企業楽観指数 米国の中小企業の健全性を示す
4月8日 ニュージーランド準備銀行
金融政策決定
金利の道筋に関する最新の決定を発表
4月9日 インド準備銀行金融政策決定 金利の道筋に関する最新の決定を発表
4月9日 メキシコCPI インフレの動向を追跡
4月9日 米連邦公開市場委員会(FOMC)
議事要旨
中央銀行の意思決定プロセスについて更なる
洞察を与える
4月9日 中国CPI インフレの動向を追跡
4月9日 中国PPI 生産者に対して支払われるモノ・サービスの
価格変化を測定
4月10日 イングランド銀行信用状況調査 信用状況の動向と進展に関する報告
4月10日 米国CPI インフレの動向を追跡
4月10日 メキシコ銀行金融政策決定会合
議事要旨
中央銀行の意思決定プロセスについて更なる
洞察を与える
4月11日 英国国内総生産 地域の経済活動を測定
4月11日 ドイツCPI インフレの動向を追跡
4月11日 米国PPI 生産者に対して支払われるモノ・サービスの
価格変化を測定
4月11日 ミシガン大学消費者調査(速報値) 消費者心理とインフレ期待の指数を提供

(執筆協力:ポール・ジャクソン)

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

  • 出所:CEICデータよりインベスコ、2025年4月4日
  • 出所:BBC、“Billionaire Trump backer warns of ‘economic nuclear winter’ over tariffs” 、2025年4月7日
  • 出所:「経済学」、ポール・サミュエルソン、ウィリアム・D・ノードハウス著、マグローヒル、1983年
  • 出所:エコノミック・タイムズ、“Does Kindleberger’s Spiral predict economic depressions?”、2025年4月6日

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