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目次
中国に対する米国の追加関税が発効
市場はハイテク企業の決算を精査
トランプ政権が米国債利回りのための戦略を議論
金融引き締めへの期待感により日本国債利回りが上昇
米国ではインフレ懸念が高まる
金価格は過去最高水準に上昇
最近のイベントは 2025 年の見通しとどのように整合しているのか?
今後の展望
今年は巳年ですが、市場に大量のニュースが流れ込んでくる状況を目の当たりにすると、自分が犬と同じ速さで年を取っているような気分になります。先週も例外ではなく、いくつかの関税措置の発表、ハイテク企業の決算、米国の新財務長官の発言、米国のインフレ関連統計が予想を上回るなど、さまざまなニュースが市場にもたらされました。
先週、トランプ政権が複数の関税措置を発表するなか、株式市場はなんとか持ちこたえようとし、見事に持ちこたえました。発表された関税措置のうち2つ、すなわちカナダとメキシコの製品に対する追加関税の発動時期は1か月間先送りされましたが、中国製品に対する米国の追加関税は先週中に発動しました。これが株式市場にとってプラス材料にならなかったことは確かです。そして2月10日、トランプ大統領は鉄鋼とアルミニウムの輸入に対する25%の関税を復活させ、これまで実施されていた適用除外措置と無関税枠を撤回しました。
先週は多くの企業が決算を発表しました。ハイテク企業が発表した決算は、高いバリュエーションには危険性があることを浮き彫りにしています。株価に織り込まれている企業価値がすべて実現されれば、投資家はその企業に対し、それまでよりもはるかに高い基準を設定するよう求めるからです。「マグニフィセント 7」(ハイテク業界の超大型7銘柄)と呼ばれる企業のうちの 1 社は決算説明会で、主に人工知能(AI)関連の設備投資を増やす計画を公表しましたが、四半期の業績が予想を上回ったにもかかわらず、株価は下落しました。別の「マグニフィセント 7」企業も同様に、業績が予想を優に上回ったにもかかわらず、設備投資の増加により株価は下落しました。他のハイテク企業も、予想に対する利益幅が物足りなかったなど、投資家の期待をやや下回ったため、株価は同程度に下落しました。
私はこうした状況について、短期的な現象に終わるのではないか、つまり市場が株価収益率(PER)の高い企業に対する要求レベルを大幅に引き上げる過程にあるだけではないかと考えています。イカロス(ギリシャ神話に登場する若者で、蝋で固めた翼で空を飛び、命を落とした)が学んだように、欲を出すとマイナス面に直面します。現在の環境では、いくつかの高バリュエーション企業の「翼が溶ける」ことに疑念の余地はないでしょう。しかし私はこれを憂慮すべきことだとは思いません。むしろ、高バリュエーションの株式と低バリュエーションの株式の両方に投資するなど、あらゆる形の分散投資の重要性を思い起こさせます。
先週、米財務長官のスコット・ベッセント氏は複数の報道機関のインタビューを受け、トランプ政権は米連邦準備理事会(FRB)に利下げを求めるのではなく、米10年物国債利回りの低下に重点をおいていると発言しました。これは称賛に値する戦略だと私は考えています。なぜなら、10年物国債利回りは経済と市場に重要な影響を与えるからです。結局のところ、10年物国債利回りは住宅ローン金利と密接に相関します。
しかし、この戦略の実行は口で言うほど簡単ではありません。ベッセント財務長官は、トランプ政権が財政赤字の削減とインフレおよびインフレ期待の低下を通じて米10年物国債利回りを引き下げることができると考えていると述べました。その後、まるでタイミングを見計らったかのように、ミシガン大学の消費者調査に基づく2月の消費者信頼感指数速報値が発表され、インフレ期待が大幅に上昇したことが明らかになりました。このことは私たちに、市場に関しては多くのことが誰にも制御できないことを改めて認識させました。
ベッセント氏は、財務省が国債の大口保有者に働きかけ、連邦債務上限についての意見を聞いているとも発言しました。その目的は、支出を抑制し、財政赤字を削減する政権の能力に対する信頼を高め、ひいては10年物国債利回りを低下させることだと思われます。しかし、米国債を保有する外国人投資家に考えを述べるよう依頼した場合、会話の方向は米国政府の関税政策に向けられるのではないかと思わずにはいられません。結局のところ、米国債保有者がそれを保有し続け、場合によっては積み増してほしいと米国政府が考えているのであれば、外国人の米国債保有者はそのことを利用して自国の輸出品に対する関税の賦課に反対を唱えることができます。おそらくそれが、2月7日に行われた日米首脳会談で日本製品に対する関税の賦課が議論されなかった理由だと思われます。単なる偶然かもしれませんが、米国債を最も多く保有する米国以外の国は日本です。
10年物国債利回りと日本について言うと、日本の10年物国債利回りは2月10日に1.3%を超え、2011年4月以来の高水準となりました1。 これは主に、日銀が今年も緩やかな金融引き締め政策を継続するとの見通しによるものです。他の国・地域の多くの中央銀行が金融緩和に取り組む中、日銀は利上げモードにある数少ない中央銀行の1つです。こうした日銀の政策は、日本円と日本国債利回りに影響を与えるでしょう。実際、日銀の金融引き締め政策は、始まったばかりの関税戦争とともに、今年の為替取引をますます面白くさせている理由の1つです。
2月7日は、米国におけるインフレ再燃への懸念が高まったために株式相場は下落しました。最新の雇用統計によると、1月の平均時給の伸びは加速し、12月の速報値は上方修正されました。
同日には、前述したミシガン大学消費者信頼感指数の期待インフレ率が発表され、1年先の期待インフレ率は3.3%から4.3%に、5年先の期待インフレ率は3.2%から3.3%に、いずれも大幅に上昇したことが示されました2。このミシガン大学の消費者調査の結果からは、おそらくは関税をめぐる懸念によって消費者心理が低下していることも示され、2月7日がダブルパンチに直面する1日となったことは注目に値します。
私は、これらのインフレ期待指標は米連邦公開市場委員会(FOMC)にとって重要な意味を持つようになり得ると考えています。パウエルFRB議長は、2022年6月のFOMC後に開催された記者会見で0.5%の利上げを示唆していたにもかかわらず0.75%もの大幅な利上げに踏み切った理由を問われ、消費者物価指数とミシガン大学の消費者調査のインフレ期待指標という2つのデータがより大幅な利上げを促したと説明しました3。
現実には、消費者のインフレ期待は、FRBが金利について判断を下す際に依拠するデータの一部です。以上のことを踏まえ、FRBが金融緩和に対してより消極的になり、利下げが行われるのは早くても第2四半期後半になると私は考えています。
2025年に入ってから現在に至る不確実性、サプライズ、(特に米国の財政赤字をめぐる)懸念は金の人気に影響を与えているとみられ、金価格は史上最高値をつけています4。金は地政学的リスクのヘッジ手段として人気が高いようですが、米国大統領選挙後の数週間で選挙無効の申し立てや政治的混乱への懸念が後退し、金の人気は低下しました。その一方で、ビットコインの価格は大幅に上昇しました。
ところが、この数週間で状況は一変しました。ビットコイン価格が下落する一方で金価格が上昇しています。米国がビットコイン準備金を積み上げる可能性など、ビットコイン価格の上昇をもたらす材料がいくつかあるため、今後はビットコインと金という代替資産の両方に価格の上昇余地があるのではないかと私は考えています。
私は、年が明けてまだ日が浅いとはいえ、2025年の見通しを見直すことは理にかなっていると考えています。株式に関しては、私たちは基本シナリオで米国以外の先進国の株式を選好するとしていますが、こうした見方は米国の例外性とそれが米国株を押し上げる力に注目していた一部の顧客にとって理解しがたいものでした。
私たちが米国株にとって2025年が悪い年になるとは考えていなかったことは確かですが、米国以外の先進国株式の方が潜在力は大きいとは考えていました。以前も述べたように、株価が高パフォーマンスを発揮するのは必ずしも好景気のときとは限りません。業績が予想を上回るなどのポジティブサプライズが株価を上昇させるのに十分な材料となることもしばしばあります。また、その市場で金融政策が緩和される可能性も重要な材料となり得ます。さらに、相対的に低いバリュエーションと相対的に高い配当も株価上昇の支援材料となります。
勝利を喜ぶのは時期尚早ですが、2025年に入ってから現在に至るまで、欧州株のリターンは好調に推移しています5。これは、欧州中央銀行(ECB)が他の主要中央銀行と比べて積極的なの金融緩和政策を取るとする予想と、最近一部の経済指標が改善したことによるものだと考えられます。また、欧州企業の今四半期の業績は、ごくわずかではあるものの改善しています。
英国株のパフォーマンスも、同じような要因の多くに牽引されて好調に推移しています。米国では、シクリカル株と中小型株のパフォーマンスが改善すると予想しています。これらの市場においては利益が成長している企業が増えているからです。今年はまだ始まったばかりですが、不確実性と混乱が存在するにもかかわらず、あるいはおそらくはそのせいで、投資機会は豊富です。
今週は、米国消費者物価指数が発表されるほか、パウエルFRB議長による議会証言(ハンフリー・ホーキンズ証言)が行われる予定です。この議会証言は、短期的な金融政策の軌道を予想するのに役立つでしょう。また、英国とユーロ圏のGDP成長率も発表されます。いくつか予定されている米国債入札も、トランプ政権が米10年物国債利回りを重視していることを踏まえると、特に重要です。もちろん、決算シーズンは継続します。前期は利益成長率が2桁を記録するなど、好調な決算発表シーズンとなっています。うまくいけば、それが株価を下支えする材料となるはずです。
公表日 | 指標等 | 内容 |
---|---|---|
2月10日 | ニューヨーク連銀消費者インフレ期待 | 米国のインフレに対する消費者の期待を追跡 |
2月10日 | オーストラリアのナショナル・ オーストラリア銀行景況感指数 | オーストラリアの業況レベルを評価 |
2月11日 | パウエルFRB議長による米連邦 議会での議会証言 | 中央銀行の意思決定プロセスについて更なる 洞察を与える |
2月12日 | 米国消費者物価指数 | インフレの動向を示す |
2月12日 | パウエルFRB議長による米連邦 議会での議会証言 | 中央銀行の意思決定プロセスについて更なる 洞察を与える |
2月12日 | カナダ銀行政策決定会合議事要旨 | 中央銀行の意思決定プロセスについて更なる 洞察を与える |
2月13日 | 英国国内総生産(GDP) | 地域の経済活動を測定 |
2月13日 | 英国鉱工業生産 | 鉱工業セクターの経済の健全性を示す |
2月13日 | ドイツ消費者物価指数 | インフレの動向を示す |
2月13日 | EU経済見通し | 欧州連合(EU)の主要な経済指標を示す |
2月13日 | ユーロ圏の鉱工業生産 | 鉱工業セクターの経済の健全性を示す |
2月13日 | 米国生産者物価指数 | 生産者に対して支払われるモノ・サービスの 価格変化を測定 |
2月14日 | ユーロ圏国内総生産(GDP) | 地域の経済活動を測定 |
2月14日 | ユーロ圏雇用統計 | 地域の雇用市場の健全性を示す |
2月14日 | 米国小売売上高 | 小売業の健全性を示す |
2月14日 | 米国鉱工業生産 | 鉱工業セクターの経済の健全性を示す |
2月14日 | カナダ銀行シニア・ローン・ オフィサー調査 | カナダの金融機関による企業向け融資慣行に 関する情報を収集 |
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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MC2025-018