「睡眠を削ってでも仕事をしたほうが、お金が貯まるはず」。そう考える人もいるかもしれませんが、実際は逆のようです。わずかな睡眠が借金のようにじわじわと積み重なる「睡眠負債」はあらゆる不調を引き起こす原因と言われています。
今回は、睡眠不足がもたらす健康面および経済面でのリスクと、睡眠負債の解消方法を説明します。
睡眠不足が続くと脳のパフォーマンスが落ちて集中力や注意力が低下しかねません。ビジネスパーソンの場合、睡眠不足で「考えがまとまらない」「クリエイティブな発想ができない」など、何時間かけても仕事が前に進まず、支障をきたした経験がある人もいるのではないでしょうか。
例えば、以前放映され話題になったNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」によると「自分は毎日6時間も寝ているから大丈夫」と思い込んでいる人は要注意だそうです。番組内でも紹介されたペンシルバニア大学などの研究チームが行った実験では「6時間睡眠を2週間続けた脳は、2日徹夜した状態とほぼ同じレベルまで衰える」という結果が出ていました。実際に2日徹夜をしたら眠気と疲れで頭が働かないという自覚が当然ありますが、この実験で6時間睡眠を2週間続けたグループは、自分の疲れやパフォーマンスの低下を自覚できなかったのです。このように、気がつかないうちに脳の疲労が蓄積されているとは、恐ろしいことです。
ITの普及によって、重要書類のやりとりや送金処理などが「クリック一つで完了」ということも普通になりました。万一ここでミスすると、会社員なら「何らかの厳罰処分」、自営業の人なら「大切な取引がなくなる」という最悪のケースにもなりかねません。
普段の生活の中でも、判断力の低下やストレスから無駄遣いが増える可能性もあるでしょう。厚生労働省健康局が公表している「健康づくりのための睡眠指針2014」の中でも睡眠を剥奪されることで認知機能の低下が生じたりストレスホルモンのコルチゾルの分泌量が増加したりすることが述べられています。
また、睡眠不足が続くことで、「頭痛や消化器系の不調」「免疫低下で風邪を引きやすくなる」などの体調不良を引き起こすことも考えられます。さらに、高血圧や糖尿病、循環器疾患、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の発症リスクが高まることも確認されています。結果的に医療費の増加によって、睡眠不足が健康だけでなく経済面にまで悪影響を与えてしまう可能性もあるのです。
「何時間眠れば充分な睡眠といえるか」は人それぞれ異なります。それだけに「自分はあまり寝なくても大丈夫」と過信する人も多いかもしれません。そのため、知らないうちに日々の睡眠不足が積み重なる睡眠負債の状態に陥りやすくなります。一方で、自分が必要とする睡眠時間以上に長く寝ても睡眠負債が解消されるわけではありません。大切なのは睡眠の質を高めることです。
睡眠の質を高めるためには「胃に負担をかけない夕食」「ぬるめのお湯でゆったり入浴する」など、就寝前の身体と脳をリラックスさせるのが効果的でしょう。また、寝具や室内温度など睡眠環境を整えるのも有効です。寝る前にスマホやパソコンなどを見ることは端末から発せられるブルーライトにより脳を覚醒させてしまうため睡眠の質低下につながります。
睡眠不足が健康とお金にもたらす悪影響を解消するために、今日から少しずつでも睡眠負債を「返済」できるように行動していきましょう。