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目次
米国議会は、さらなる景気刺激策を通じて、人々の生活支援を続ける必要があります
〔要旨〕
✔︎4月の米国の雇用統計から、低所得者層への甚大な打撃が浮き彫りに
✔︎低所得者への財政支援と、適切なロックダウン解除が求められる
●多くの米国世帯は緊急時の金銭的備えが不十分
—米国では、所得の減少にぜい弱な世帯が数多く存在
—現在の危機に直面している人々への支援が非常に重要
—米国政府は追加の景気刺激策に慎重な模様
●中途半端なロックダウンの解除は回復の遅れを招く可能性
—スペイン風邪の大流行の際、ロックダウンを早く解除した都市は保健面・経済面の回復が遅れる結果に
—保健面の政策が十分に厳重であることに加え、財政政策も十分に支援的でなければならない
—財政刺激策が十分でない場合、経済が大きく停滞する恐れがある
4月の米国の雇用統計から、低所得者層への甚大な打撃が浮き彫りに
予想通り、4月の米国の雇用統計は歴史上最も厳しい内容となりました。全米で新型コロナウイルスの感染拡大防止のために実施された都市封鎖(ロックダウン)の結果、失業率は劇的に上昇し、レジャー・接客業の就業者数が特に大きく落ち込みました。今回の雇用統計で特に目立ったのは、低賃金の労働者に失業者が集中したことでした。実際、低所得者の多くが職を失い、平均賃金が著しく高まったことは、新型コロナウイルスの大流行(パンデミック)によって低所得者層がいかに大きな打撃を受けたかを明らかにしています。
感染の再拡大が半永久的な経済ダメージとなる恐れも
4月の雇用統計で、非農業部門の就業者数は2,050万人減少しましたが、このうち、回答者の大半に当たる1,800万人が一時帰休(休職)として分類されました 1 。しかし、彼らの失業期間は現在実施されている政策対応、特に保健面と財政面の対応に左右されると私は懸念しています。仮に、財政面での対応が不十分である場合、またはロックダウンの解除が早急すぎる場合、感染が再び拡大することで、現在の一時的な経済ダメージは半永久的なものになりえます。
多くの米国世帯は緊急時の金銭的備えが不十分
米国では、所得の減少にぜい弱な世帯が数多く存在
雇用統計の結果から、米国の家計の健全性を注意深く追っていくことが重要になります。セントルイス連邦準備銀行の調査組織であるThe Center for Household Financial Stability(家計安定センター)は、新型コロナウイルスなどの所得への悪影響に対し特にぜい弱な米国世帯に関する調査結果を発表しました。これによると、最も悪影響を受ける世帯は、緊急用の貯蓄が収入の2カ月未満の世帯であり、そのような世帯は米国内で多く存在します。米連邦準備理事会(FRB)の2013-2018年の調査によると、米国人の4割から5割が、予期しない400米ドルの支出への十分な貯蓄がなく、その資金を用意するには、借金をするか、何かを売らなければなりません。そして、これらの世帯にとって、突然の失業は非常に大きな問題となります。
現在の危機に直面している人々への支援が非常に重要
そして、十分な備えのない家計の存在は、米国経済全体にとって問題となるでしょう。個人消費は米国の国内総生産(GDP)を支える重要なもので、GDPのほぼ7割を占めています 2 。欧州でも今回の危機で低所得者が甚大な影響を受けましたが、米国とは異なり、パンデミックによる被害を軽減する強力かつ社会的なセーフティネットが存在します。これらのことから、米国議会は新たな景気刺激策、特に、現在の危機に直面している人々への支援に関する議論を始めることが非常に重要であることが分かります。
米国政府は追加の景気刺激策に慎重な模様
私はその議論をすぐに始める必要があると考えていますが、残念ながら、米国政府は追加の財政刺激策に対してより慎重なアプローチをとる考えのようです。ホワイトハウスの経済顧問のケビン・ハセットは日曜日に、トランプ政権は景気刺激策の第4弾が現段階で必要とは考えておらず、実行中の刺激策の効果を評価することが必要だ、と発言しました。私は、彼の主張は間違っていると考えます。なぜなら、資金を必要としている主体が多く存在していることは明らかだからです。家計は継続的な支援を必要としていますし、すでに非常に高水準の失業率の中、州・地方自治体への支援により公務員らの大規模な解雇を防がなければなりません。
中途半端なロックダウンの解除は、回復の遅れを招く可能性
スペイン風邪の大流行の際、ロックダウンを早く解除した都市は保健面・経済面ともに回復が遅れる結果に
現在、米国経済の再開(ロックダウン解除)が必要だと考える人々もいます。私は、感染率が十分に低下していない米国での社会活動の一部再開は時期尚早ではないかと考えます。早期のロックダウンの解除により、感染が急速に再拡大し、米国の保健面と経済面での回復が遅れる恐れがあるためです。1918年にスペイン風邪が大流行した際、封鎖を解除する時期が早すぎた都市では、新たな新規症例が相次ぐなど状況が逆戻りし、再び都市封鎖を行わなければなりませんでした。再度の封鎖を余儀なくされた都市は、感染の第一波から長期にわたり都市封鎖を実行した都市よりも合計の封鎖期間が長く、経済の回復も遅れました 3 。
保健面の政策が十分に厳重であることに加え、財政政策も十分に支援的でなければならない
もちろん、十分な封鎖期間を可能とする鍵は、適切な財政刺激策と考えます。前にもお伝えしましたが、今後の景気回復の形は、政策によって決まります。保健面の政策が十分に厳重であることに加え、財政政策も十分に支援的である必要があります。2020年7-9月期以降の景気回復の形は、政策立案者が今後数日中に行う決定に大きく左右されると考えられるため、非常に重要なものになるでしょう。
財政刺激策が十分でない場合、経済が大きく停滞する恐れがある
また、財政刺激策が十分でない場合、株式市場よりも経済がはるかに大きな打撃を受ける可能性があることを認識しなければなりません。FRBが提供した大規模な金融政策により、リスク資産は、足元の悪化する経済から切り離されて推移する可能性があるでしょう(ただし、米中間の関税戦争の再燃の可能性などのリスクも存在します)。これは、株式市場のみが先行して回復し、経済の回復の力強さが大きく劣後した世界金融危機後と同じ軌跡をたどる可能性があることを意味しています。米国が同じ歴史的な過ちを繰り返さないことを願っています。
1.出所:米国労働省労働統計局、2020年5月8日現在。
2.出所:米国商務省経済分析局。
3.出所:“Nonpharmaceutical Interventions Implemented by US Cities During the 1918-1919 Influenza Pandemic”、Howard Markel、Harvey Lipman、Alexander Navarro、ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・メディカル・アソシエーション、2007年。
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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MC2020-068