サステナビリティへの取り組みやパフォーマンスを資金の調達金利と連動させた「サステナブル・サプライチェーン・ファイナンス(以下「SSCF」と称する)」という融資制度が世界で広がりつつあります。
日本においてもみずほ銀行が邦銀で初めて取扱いを開始するなど、ESG(※)が重要視される時代の画期的な融資制度として、そのポテンシャルが注目されています。
(※)Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字を組み合わせた言葉で、気候変動や人権問題などの社会問題の解決を大切にする考え方のこと。
多様化する中小企業向け運転資金ソリューション
運転資金の確保は、事業を成長させる上で不可欠です。しかし、大手企業と比べると実績や信用力が乏しい中小企業にとって、資金調達は容易ではありません。
近年は流動性が低い不動産などの担保を保有していない中小企業にも、流動性を提供する目的で売掛金(請求書に記載されている金額)を担保とする「売掛金担保融資(インボイス・ファイナンス)」や、サプライヤー(仕入先など)が売掛金の債権をファクタリング業者や金融機関に譲渡する「ファクタリング」といった多様多種な融資サービスが利用されています。
「サプライチェーン・ファイナンス(SF)」もこのような仕組みを活用した融資法のひとつで、バイヤー(支払い企業、取引先など)がサプライヤーに支払うべき買掛金をファクタリング業者に前払いしてもらいます。
これによりサプライヤーは支払日を待つことなく早期に資金を調達でき、バイヤーはファクタリング業者によって設定された支払い期限まで資金を保有でき、フリーキャッシュフローが増えるという利点があります。
サプライチェーン・ファイナンスでは、バイヤーの信用力が融資条件などの判断基準となります。通常はバイヤーの信用力が高いほど、低コストで資金を調達することが可能です。
SSCFとは?
SSCF(Sustainable Supply Chain Finance)は、その名の通りサプライチェーン・ファイナンスにサステナビリティの原則を取り込んだ融資制度です。
通常のサプライチェーン・ファイナンスではバイヤーの信用力が融資条件(割引率など)の判断基準となるのに対し、SSCFではサプライヤーのサステナビリティの取り組みに対するパフォーマンスの評価が高いほど、より有利な条件で資金を調達できるように設計されています。
SSCFが生まれた背景には、脱炭素社会実現などの社会問題への取り組みにサプライチェーン全体の協力を促すという意図があります。
ESG経営が企業の持続的な成長戦略として広まっているにも関わらず、特に関連コストでの負担が大きいことを理由に躊躇している中小企業が多数存在します。SSCFではサプライチェーンにおける持続可能な行動に金銭的インセンティブを提供することにより、企業の持続可能性へのコミットメントを強化し、運転資金ソリューションに付加価値を与えることが可能になります。
海外事例:HSBC・ウォルマートの共同SSCFプログラム
SSCFの先駆けとなったのは、英多国籍金融機関HSBCと米最大手小売チェーンのウォルマートが2019年に導入した共同プログラムで、ウォルマートが承認した請求書の早期支払いをHSBCに依頼できるというシステムです。HSBCはサプライヤーのCDP気候変動スコア(※)やサステナビリティ目標の達成度などを評価します。
(※)国際非営利団体CDPが制定した気候変動基準に基づいて、企業の気候変動への取り組みを評価したもの。
この共同プログラムは、「2030年までにグローバルサプライチェーンから10億メートルトン(ギガトン)の温室効果ガス排出を削減する」というウォルマートの気候変動目標の一環として導入されました。サプライヤー全体に、「エネルギー・自然・廃棄物・包装・輸送・製品・設計」という6つの柱から成る排出削減目標の達成を促進することを目的としています。
その他、蘭ING銀行や仏BNPパリバなどがESG経営を目指すビジネス向けのSSCFを提供するなど、大手金融機関の間でSSCFへの関心が高まっています。
日本で普及する可能性は?
みずほ銀行のSSCFは、資金調達を介して中小企業に社会的課題に対処するインセンティブを提供し、サプライチェーン全体においてサステナビリティへの取り組みを促進することを目的としています。
サステナビリティ評価会社の仏エコバディスなどの評点に基づいて評価が行われ、サプライヤーは評価に見合った金利優遇を受けることができます。
一方で、三井住友銀行はSDGs(持続可能な開発目標)達成への貢献に重点を置く融資制度として、「ポジティブ・インパクト金融原則適合型ESG/SDGs評価資金調達」を提供しています。国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)によって策定された「ポジティブ・インパクト金融原則」に適合しており、日本総合研究所が独自に開発した評価基準を採用しています。NECキャピタルソリューションなどの大手企業が利用しています。
SSCFの歴史はまだ浅く、実際に取り組んでいる金融機関はごく一握りです。しかし産業分野や規模を問わず、社会が一丸となってサステナビリティへの取り組みが求められている近年では、SSCFが金融機関に社会還元のチャンスをもたらすと同時に、広範囲なビジネスにおける持続可能な成長に貢献することが期待されます。
Wealth Roadでは今後も、SSCFの成長と金融市場の動向をレポートします。
※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買及び投資を推奨するものではありません。