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●米国では、消費者の財務状態の健全さが、現在の景気拡大が少なくともあと数年は続くと確信できる重要な根拠に
●英国では、ハード(実額)、ソフト(聞き取り調査)、いずれのデータにおいても、企業の設備投資の低迷が明らか
●トランプ政権が中国について広範な問題を対象にしていることを考えると、米中の貿易戦争で停戦が長続きする可能性は低い
米国
2019年前半の米国の実質GDPは、前期比年率で+2.5%成長と、米国の推計潜在成長率の+1.9%をやや上回りました。労働市場では引き続き新規雇用が生み出され、失業率は3.7%と低水準で推移しています。しかし、個人消費が堅調に推移している一方で、設備投資や輸出は弱含みとなっています。ニューヨーク連邦準備銀行の調査によると、家計所得は、賃金の漸増と高水準の雇用に加え、家計のバランスシートの改善が続いていることがサポート要因となっています。この主な要因は、住宅価格や株価の上昇、所得に対する負債の減少です。
消費者の財務状態の健全さは、2008~09年の金融危機直前のレバレッジのかかった債務状態とは対照的であり、現在の景気拡大が少なくともあと数年は続くと確信できる重要な根拠となっています。広い意味では、消費者は企業の犠牲の下に収入を増やしてきました。これは、景気サイクルの後半ではよく見られる現象です。
米国企業の収益性は、現在の景気サイクルにおけるピークを過ぎたようです。増益基調は続いているものの、利益率は低下し、米ドル高の影響で海外での収益が圧迫されています。設備投資の先行指標である航空機を除く非国防資本財(コア資本財)の出荷は停滞しており、購買担当者指数(PMI)における輸出受注も弱まっています。一方で住宅関連指標は、住宅ローン金利の低下を背景に、好調さを維持しています。住宅指標も、多くの企業部門にとっての先行指標であり、雇用や、木材から銅、鉄鋼などさまざまな原材料の購入を後押しすることになります。全米産業審議会(コンファレンスボード)の企業景況感指数は、依然として現在の景気サイクルで最も高い水準近辺にあります。
これらの経済指標はいずれも、企業の部門の動向がそれほど悪化しているわけではないものの、間違いなく、世界的な製造業の減速により、多少の減速が生じてきていることを示しています。私は、米国の現在の景気拡大局面が、過熱やインフレーションを伴わずに続くと予想しています。
「米国の現在の景気拡大局面は、過熱やインフレーションを伴わずに続くと予想されます。」
ユーロ圏
9月12日のECB理事会における決定―①(2019年11月以降)月額200億ユーロのソブリン債の購入を再開する、②中銀預金金利を0.1%引き下げ、-0.5%とする―は、ドイツ、オランダ、フランス、オーストリアの中央銀行総裁の反対を受けました。
私が考えるに、ECBによるこれまでの資産購入が十分に効果を発揮しなかったのは制度設計の不備が主な理由です。もし、ECBが銀行以外の主体から有価証券を取得するようにしていれば、ユーロ圏のM3の伸びは加速し、成長率も押し上げられていたでしょう。その結果、ユーロ圏全体で支出の伸びが増加し、資産買い入れを再開する必要はなくなっていたでしょう。
しかし現実には、ECBは前回と同じ政策を、うまく行かなかった前回と同じ方法―銀行から有価証券を購入すること―で再開すると決定しました。私が考えるに、これは実質的にECBが民間銀行とのアセットスワップにおいて大量のソブリン債を吸収しているに過ぎず、ECBのバランスシートのみが膨れ上がって、企業や家計に新しい預金を作り出すことはありません。したがって、M3の伸び率は低いままで、ユーロ圏は自らが招いた低成長、低インフレ、マイナス金利のわなにとどまる可能性が高いといえます。
「ユーロ圏は自らが招いた低成長、低インフレ、マイナス金利のわなにとどまる可能性が高いといえます。」
英国
英国では、ブレグジットの支持・不支持が政治的論争を支配し続けている一方、高水準の「体制面の不確実性」―すなわち、英国がEUと新たな関係を築くための移行期間以降の、規則や規制、関税、企業の競争的地位に関する明確さの欠如―が続いていることにより、英国の経済成長に悪影響が及んでいます。
ブレグジットをめぐる一進一退の動向は、外国為替市場における英ポンド相場と国内投資という2つの重要な分野に引き続き影響を及ぼしています。しかし、労働市場や個人消費支出、インフレ動向といったその他の分野では、英国経済は2016年6月の国民投票以前とほぼ同様のパフォーマンスを続けています。
投資については、①GDP統計における固定資本形成などの「ハードデータ」、②英国産業連盟(CBI)サーベイにおける工場・機器支出や受注状況などの「ソフトデータ」―のどちらにおいても、企業の設備投資の低迷は明らかです。残念ながら、こうした傾向は、英国とEUとの政治面、貿易面の関係が解決に向けて進展するまで、大きく変化する可能性は低いでしょう。
中国
米中間の貿易紛争が緩和されることなく続いています。トランプ大統領の貿易措置は、中国の貿易とGDP成長に深刻な影響をもたらし始めています。米国の中国からの輸入が、この数カ月間に大幅に減少しているのと対照的に、中国(および日本)以外のアジア諸国の製品への米国の需要は高まっています。国際的なサプライチェーンの一部が、まだ米国の関税の対象となっていない国々にシフトしているため、台湾や韓国、ベトナムといった東アジア諸国・地域の一部には、中国と比べた生産と貿易の増加が見られ始めている国もあります。
今後を見渡しても、知的財産権の侵害、国有企業への補助金、国内部門の海外競争への開放―など、トランプ政権が問題視している広範な中国の問題を踏まえると、米中の貿易戦争で停戦が長続きする可能性は低いでしょう。次回の米国大統領選挙が2020年に控えていることから、トランプ政権が2019~20年のある時点で勝利を宣言し、貿易戦争を終結させようとの誘惑が働くかもしれませんが、中国を対象とした米国の貿易措置の停止は、されたとしても、一時的なものとなる可能性が高いでしょう。
日本
日本の経済不振が続いている背景には、次の2つの要因があります。
第1に、実体経済面では、日本の人口は2010年に、労働力(または15~64歳の生産年齢人口)は1992年に、それぞれピークに達しました。それ以降のこれら主要数値の低下は、自動的に潜在成長率を制限することになります。
第2に、日本のインフレや賃金、名目GDPなどの弱さは、完全に広義マネーの長年にわたる緩慢な伸びで説明することができます。1992年以降、日本のM2の伸びの平均はわずか2.6%と、日本銀行のインフレ目標である2%を達成するには低過ぎました。これは「量的・質的金融緩和」(QQE)と日銀ご自慢の「イールドカーブ・コントロール」(YCC)を導入したにもかかわらずです。基本的に、日本はM2の伸びを年率で5~6%にする必要があります。残念ながら、このような金融政策の根本的な問題―日銀が、QQEプログラムのための国債の大半を民間銀行から購入していること―が続く限り、日本のマクロ経済の見通しが大きく改善することはないでしょう。
2019年11月19日
ジョン・グリーンウッド : インベスコ・リミテッド チーフ・エコノミスト
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MC2019-138