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目次
要旨
欧米ではワクチン接種が進み、経済正常化に向けての動きが加速
欧米主要国では、より多くの人々にワクチンが接種されることで経済正常化に向けての動きが加速してきました。これに対し、日本のワクチン接種率(1回でもワクチンを接種した人々の総人口比、以下同様)は直近で4%台でした。
日本のワクチン接種は米国よりも4カ月~6カ月程度の遅れ
米国の経験からは、接種率が50%を超えるタイミングまでには経済活動の加速が明確になることがわかります。インベスコの試算によると、日本政府が打ち出した「ワクチン接種を1日に100万回接種する」という目標が6月初め以降に実現する場合、接種率が現在の米国並みに達するのは9月中とみられます。つまり、日本のワクチン接種は、米国よりも4カ月程度遅れることになります。他方、「1日70万回」を想定して試算すると、そのタイミングは11月中に後ずれします。
当面はワクチン接種の遅れが日本株の出遅れにつながりやすい
今後の日本株の動きは、基本的には米国株を軸とするグローバル株式の動きにある程度追従するとみられますが、経済再開が遅れる見通しを踏まえると、当面は他の主要先進国の株式に比べて日本株の上昇率が劣後する公算が大きいとみられます。ただし、「1日70万回程度のワクチン接種」が現時点の金融市場で織り込まれる中、実際の接種ペースが上昇することで「1日100万回程度のワクチン接種」が視野に入る場合には、日本株にポジティブな影響が及ぶと見込まれます。
欧米ではワクチン接種が進み、経済正常化に向けての動きが加速
欧米主要国では、より多くの人々にワクチンが接種されることで経済正常化に向けての動きが加速してきました。米国では、5月13日に米疾病対策センター(CDC)が「ワクチンの接種を完了すれば、屋内外を問わず、マスクを着用しなくても良い」とする新たな指針を発表しました。欧州でも、ドイツやイタリア、スペイン等での日次新規感染者数が人口100万人あたりで100人程度まで減少してきたこと(図表1)をうけ、これまでのロックダウンを緩和する措置が実施されています。1回でもワクチンを接種した人々の総人口に対する比率という定義でみたワクチン接種率(以下でも同様の定義とします。また、ワクチンのデータはCEICを通じて取得したOur World In Dataのデータに基づきます。以下も同様です)をG7諸国間で比較すると、英国では55.6%、カナダが49.7%、米国が48.2%で先頭グループにあり、ドイツ、フランス、イタリアが33~39%台でこれを追い、日本が4.4%で最後尾に位置している状況です(各国で比較可能な5月21日時点の計数)(図表2)。
日本のワクチン接種は米国よりも4カ月~6カ月程度の遅れ
現時点で使用可能なワクチンの自国での供給能力を有しない日本の接種率が他のG7諸国よりも大幅に低いのは自然なことかもしれません。もっとも、河野ワクチン担当大臣が9月末までに接種対象者全員分を確保できると発言している(4月18日)ほか、「6月に1億回分のワクチンが来る」(5月24日付の読売新聞朝刊が菅首相の発言として報道)見通しとなっており、日本におけるワクチンの供給制約は今後緩まる見込みです。これに合わせて、菅政権は5月7日にワクチン接種を1日に100万回接種する目標を打ち出しました。実際に接種できたワクチン数は、直近の5月23日までの1週間における1日平均で38.1万回、これまでにもっとも多くのワクチンを接種できたのは5月17日で、57.9万回でした。週末にはワクチン接種回数が少なくなる傾向がありました。1日100万回は、現在のペースよりもかなり速いペースであると言えますが、大規模接種会場のさらなる開設やワクチンの打ち手の要件緩和など様々な手段を講じることで達成できる可能性があります。
次に、1日100万回という政府目標が6月以降、継続的に達成可能であるとの想定や、その他の比較的大胆な想定を置き、日本におけるワクチン接種率が現在の米国並みに達するタイミングについて考えてみたいと思います。日本についての直近のデータをみると(5月23日時点)、1回でもワクチンを接種した人数は613万人、2回ワクチンを接種した人数は265万人でした。したがって1回しかワクチンを接種しなかった人数は349万人となります。5月末でもこの人数に変化がないとすると、この349万人が6月に入ってから2回目のワクチン接種をする必要が出てきます。1回目と2回目のワクチン接種の間隔である20日間にこれら349万人が毎日同じ人数ずつ2回目の接種をするなら、6月1日以降は毎日、17.4 万人の人々が2回目の接種を実施することになります。1日あたりの接種回数は6月1日以降は常に100万回ですから、6月20日までの20日間については、1回目のワクチン接種をする人数は、82.6万人(100万-17.4万)となります。その翌日の6月21日には、6月1日に初回のワクチンを接種した82.6万人が2回目の接種をすることになります。このような考え方に基づけば、6月22日以降の接種人数も一意に定まります。こうした計算をベースに、6月以降のワクチン接種回数を示したのが図表3です。
さて、米国ではワクチンの接種率が5月23日時点で48.8%に達しました。現在のペースでワクチン接種が続いたとすると、5月末時点でのワクチン接種率は50.7%と、50%の大台を超えます。経済活動が完全に正常化しているわけではなく、集団免疫もまだ獲得できていないとみられるものの、米国の経験からは、接種率が50%を超えるタイミングまでには、多くの地域でロックダウン規制が大幅に緩和され、コロナ禍で抑制されていた旅行等のサービス需要が増加するなど正常化に向けての経済活動の加速が明確になることがわかります。日本の場合、1日100万回のワクチン接種を継続的に実施する場合、現在の米国並みの接種率に達するのは9月中とみられます。つまり、日本のワクチン接種は、米国よりも4カ月程度遅れることになります。他方、1日100万回の水準は足元での実績の約2.5倍のペースであり、金融市場では野心的と受け止められているように思えます。金融市場で現在織り込まれている接種ペースは恐らく1日70万回程度ではないでしょうか。この点を踏まえ、1日のワクチン接種回数が目標の100万回を達成できずに、70万回にとどまるケースについても同様の試算を行ってみました(図表4)。「1日70万回」の場合、日本のワクチン接種率が現在の米国並みに達するのは11月中となります。このケースでは、日本のワクチン接種は米国よりも6カ月程度遅れることになります。
それではG7のうち、日米以外の5カ国が米国並みの接種率を達成できるのはいつになるでしょうか。英国とカナダの2カ国の接種率は既に米国を上回っていますが、残るドイツ、フランス、イタリアの3カ国について、6月以降もこれまでで最も速いペースでワクチンが接種できた月と同じペースでワクチン接種が進展すると想定しました。結果は図表5の通りですが、ドイツ、フランス、イタリアの3カ国とも、6月末にはワクチン接種率が現在の米国並みに達すると試算されました。経済再開の度合いは、ワクチンの接種率だけではなく、変異ウイルスの拡大程度やロックダウンの緩和状況、感染防止に対する各国国民の意識などに左右されることは言うまでもありませんが、欧州主要国の景気は米国よりも1カ月遅れて加速し始める可能性が高いと考えられます。
当面はワクチン接種の遅れが日本株の出遅れにつながりやすい
ワクチン接種の点で先行する経済は、いち早く感染抑制による経済再開のメリットを享受できることから、株式市場ではワクチン接種のペースが強く意識されています。当レポートの5月6日号「ワクチン接種のスピードが株価を左右」で指摘した通り、4月において米国の主要株価指数(S&P500種指数)の騰落率(5.2%)が、欧州(欧州STOXX600指数、1.8%)、日本(日経平均株価、-1.3%)を上回ったのは、米国がワクチン接種で先行した面が強いとみられます。5月に入ってからの騰落率(25日まで)では、欧州STOXX600指数(1.8%)がS&P500種指数(0.2%)や日経平均株価(-0.9%)を上回っていますが、この背景には、欧州でのワクチン接種の加速による景気加速期待があったと考えられます。今後の日本株の動きは、基本的には米国株を軸とするグローバル株式の動きにある程度追従するとみられますが、経済再開が欧米と比べて数カ月遅れるとみられることを踏まえると、当面は他の主要先進国の株式に比べて日本株の上昇率が劣後する公算が大きいとみられます。ただし、政府のワクチン接種努力が功を奏し、実際の接種ペースが上昇することで「1日100万回程度のワクチン接種」が視野に入る場合には、「1日70万回程度のワクチン接種」を現時点で織り込む金融市場における見通しが改善し、日本株にポジティブな影響が及ぶと見込まれます。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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MC2021-096