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ルイ・ヴィトンの LVMH会長も参入 海外で旋風を巻き起こす「SPAC」とは?

コロナ禍の資金調達手段として、「SPAC(Special Purpose Acquisition Company/特別買収目的会社)」が空前の盛り上がりを見せています。特に米国においては、伝統的なIPO(新規公開株)を上回るペースで急拡大しており、2021年1月から4月6日までの調達資金総額は、すでに10兆円を突破しています。

3月にはルイ・ヴィトンやクリスチャン・ディオールなどのラグジュアリーブランドを持つブランドグループのLVMH(ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー)グループのベルナール・アルノー会長率いるプライベート・エクイティ企業がSPACとして上場を果たすなど、期待感が高まるSPACについてご紹介します。

SPACとは?IPO、DPO、SPCとの違い

SPACは最初に上場を通して資金を獲得し、通常2年以内に有望な企業(被買収企業)を買収・合併することで、被買収企業の上場の手間とコストを回避するという、いわば上場の「抜け道」です。

準備から手続き、上場までのすべてのプロセスがわずか3~4カ月で完了するため、スピーディーに上場したい民間企業の間で旋風が巻き起こっています。また、被買収企業が決定した後、ヘッジファンドや年金機構、銀行などは、ワラント(新株予約権)を通じて追加の株式を割引価格で購入できるため、機関投資家にとっても非常に魅力的な構造と言えるでしょう。個人投資家にとっては、未公開株に少額から投資できることがメリットといえます。

SPACは買収・合併が完了するまで事業を行わず、上場時点ではどのような企業に投資するのかが明らかではないため、「ブランクチェック(白地株式)企業」と呼ばれることもあります。調達した資金は信託に保管され、買収・合併が実施されない場合は、銀行・ブローカー手数料を差し引いた金額が投資家に返還されます。

これまでは未上場企業が証券取引所に上場する手段として、新規公開株を売り出す「IPO(新規公開株)」が長年にわたって利用されてきました。

IPOは広範囲な金融市場から資金を調達しやすい反面、引受会社など第三者の介入があり、審査基準をクリアするための手間やコストがかかります。通常、上場の準備から手続き、完了までに2~3年を要します。また、上場前に一部の機関投資家に株式を売却したり、「ブックビルディング(IPO株の公開価格を決定する)期間」や「ロックアップ期間(上場後、一定期間の売却を禁じる条項)」が設けられていたりとルールやプロセスも複雑で、スタートアップにとっては敷居が高いとされています。

SPACはこのような「敷居」を取り払い、株式市場に新風を吹き込む上場法として注目されています。名称が似ているもので、「PAC(Special Purpose Company/特別会社)」があります。こちらは設立の時点で事業内容等が特定されている点が、SPACと異なります。

もう一つ、IPOの代替として、既存の株式を売却する「DPO(直接公開株)」が注目を浴びています。スウェーデン発の音楽ストリーミングサービスSpotify(スポティファイ)や、米ビジネスチャットツールSlack(スラック)がDPOで上場を果たしたことで、一気に知名度が上がりました。その名のとおり第三者を介さず直接上場できるため、企業側は上場の手間やコストを大幅に削減できます。また、IPOのようにロックアップ期間が設けられていないため、投資家にとっては上場後すぐに売却できるというメリットもあります。

4年間で調達資金総額が約24倍に

SPACの先駆者となったのは、米投資企業Early Bird Capital(アーリー・バード・キャピタル)の取締役会会長デビッド・ヌスバウム氏と、弁護士のデビッド・ミラー氏です。両者は1993年、民間企業に投資できる機会を一般投資家に提供する目的で、初のSPACを立ち上げました。

前述のとおり、SPACはブランクチェック企業にカテゴライズされますが、かつてブランクチェック企業は相場操縦取引の不正や運営者による資金横領が問題となり、一時は米国で設立が禁止されていました。しかし、近年のSPACは投資家保護を含む環境整備が進んでおり、米投資大手ゴールドマン・サックスやニューヨーク証券取引所が初のSPAC の上場に参戦するなど、広範囲で投資家を魅了しています。

SPAC分析サイト「SPAC Analytics」のデータによると、2016年にはわずか13件だったSPAC IPOは、2020年には248件に増加。ビリオネア投資家ビル・アックマン氏のパーシング・スクエア・トンティーン・ホールディングスが40億ドル(約4,389億5,923万円)というSPAC史上最大の資金を調達するなど、大型の上場が相次ぎました。調達資金総額は34億 9,900万ドル(約3,843億8,325万円)から833億 4,100万ドル(約9兆1,561億円)と、約24倍に拡大しました。

2021年は現在までの3ヵ月間で298件、総額968億6,800万ドル(約10兆6424億円)を調達しています。

2021年は「SPAC元年」となるか?

現在のところ、2021年のSPACで最も話題になったのは、LVMHのアルノー氏の参入です。同氏が1989年に設立したプライベート・エクイティ企業L Catterton(エル・キャタルトン)のアジア買収部門は3月、SPACで2億5,000万ドル(約274億6,800万円)を調達しました。1株あたり10ドル(約1,099円)で、株式とワラント(新株引受権)で構成される2,500万ユニットが完売したのです。

一方、数年前から上場が期待されている、アイルランドのオンライン決済プラットフォームStripe(ストライプ)が、年内にSPACとして上場する可能性も注目されています。2020年には共同設立者のジョン・コリソン氏とCEOのパトリック・コリソン氏によって上場の可能性が否定されましたが、SPACが過熱している現在なら、まさかの上場もあり得るでしょう。同社は3月に実施した資金調達ラウンドで6億ドル(約659億2,588万円)を獲得し、評価額は950億ドル(約10兆 4,387億円)に達しています。

SPACは、「優良な企業を買収できるか否か」が明暗を分けます。そのため、SPACで上場する企業には被買収企業の実績や将来性を見極める、熟練した洞察力が求められます。

SPACの台頭は「投資の可能性を広げる」という意味では歓迎すべき動きですが、前述のとおり過去には誇大広告や不正運営などが問題になりました。SPACバブルも懸念されているため、投資家は未公開企業への投資にはリスクが存在することを理解しておく必要があります。

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