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ビットコイン:デジタル通貨、デジタル・ゴールド、デジタル・チューリップ?

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目次

ビットコインは、新たな通貨、ポートフォリオ分散化やインフレヘッジの資産になりえるか?

〔要旨〕

デジタル通貨とは?:ビットコインを「民間の通貨」と呼ぶ声があるが、その使用は難しく、通貨と見なすのは現実的ではないと考える

金の代替になりうるのか?:通常、金はポートフォリオの分散効果を得る目的で保有されるが、ビットコインが金と同様の効果をもたらすかは明らかでない

チューリップ・バブルの再来となるか?:ビットコインやその他の暗号資産は引き続き注目を集めるだろうが、それは非常に高リスクの投資である

ビットコインは機関投資家や個人投資家に適した投資資産なのだろうか?

ビットコインの取引スピードは遅く、価格変動も非常に大きいため、価値の交換手段として使用するのは難しい

①S&P500種指数との高い相関、②インフレヘッジ資産としての実績の乏しさ、③パンデミック直後の価格動向、④本源的価値の乏しさ—から、ビットコインを金の代替資産とみなすべきではない

ビットコインは配当や金利などによる資産としての裏付けがなく、取引の処理能力が低く、膨大なエネルギーを必要とする暗号資産である

一部の機関投資家が投資を開始するなど、ビットコインの投資資産としての認知が高まっている

過去、私がビットコインに関するリポートを執筆したのは、2017年12月でした。当時、シカゴ・オプション取引所とシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)がビットコイン先物取引を開始し、ビットコインをはじめとする暗号資産に大きな注目が集まりました。投資家はビットコインへの投資に殺到し、数週間でその価格は数千米ドルに高騰していました。同年12月下旬にビットコイン価格は19,783米ドルを超える当時の最高値を記録しましたが、その数カ月後には急落しました 1 。そして2020年12月に当時の高値に戻りましたが 2 、今回のビットコインへの興奮は前回と少し様相が異なります。現在、一部の機関投資家は暗号資産への投資を開始し、あるいは投資を検討しています。そして前週、イエレン米財務長官が、暗号資産の人気の高さを認識しており、投資家保護のためのより厳しい規制に重点を置くと述べたことは、暗号資産を投資資産とみなしている発言と受け取れます。

ビットコインは機関投資家や個人投資家に適した投資資産なのだろうか?

最近、ビットコインが機関投資家や個人投資家の投資資産として適しているかどうかについて、多くの投資家の皆さまから質問をいただいています。特に①ビットコインは通貨と見なすことができるのか、②ビットコインは金のようなコモディティ資産となりうるのか―について疑問をお持ちのようです。本稿では、これらを考察します。

デジタル通貨とは?

ビットコインの支持者はビットコインを「民間の通貨」と主張

最初の疑問から始めましょう。ビットコインは、中央銀行や特定の管理者を置くことなく、個々の端末間でデータをやり取りする(P2P方式)ことから、ビットコインの支持者はこれを「民間の通貨」であると主張しています。実際、ビットコインは2009年に登場しましたが、それは世界金融危機により金融機関への信頼性が失われた時のことでした。また、その取引は分散型台帳に記録されることから、「不正に耐性がある」と言われています。すなわち、取引が発生すると、取引の履歴が検証された後に、コピーされた情報が他のコンピューターに送信されます。中央銀行が非常に緩和的な金融政策を採用し、「お金を印刷」している環境下、ビットコインの供給量は金と同様に制限されており、またその価値がしっかりと管理されているため、価値の貯蔵手段の点で法定通貨よりも優れている、とビットコインの投資者は考えています。

ビットコインの取引スピードは遅く、価格変動も非常に大きい

しかし、私は、ビットコインは使用が難しい通貨で、それを通貨と見なすのは現実的でないと考えます。ビットコイン取引のスピードは、MasterCardやVisaによる金融取引よりもはるかに遅いものです。また、辞書を引くと、通貨は「交換手段として流通している貨幣(硬貨、紙幣など)」と定義されています。過去、ビットコインの価格が非常に大きく変動したことを考えると、ビットコインを交換手段として使用することは難しいでしょう。ビットコインの価格が来週に大きく上昇する可能性があるのに、ビットコインで車を購入する人が存在するでしょうか?

デジタル・ゴールド?金の代替となるのだろうか?

ビットコインには採掘が必要であるなど金に似た特性がある

次に、ビットコインには、通貨というよりもコモディティ、特に金に似た特徴があるという点についてです。ビットコインは、あたかも金のように「マイニング(採掘)」をする、つまり、取引情報を承認して新しいブロック(台帳)を生成する必要があり、このブロックチェーン上におけるプロセスは非常に骨の折れる作業です。そして、金のように、ビットコインの価格は、需要と供給の法則、つまりトレーダーが望む金額によって決まります。近年、金の供給量は年平均1.2%増加しています 2 。一方のビットコインの供給量は年間で1.7%増加していますが、2140年にビットコインが採掘しつくされることから、その供給量は先細りすると予想されています 3

ビットコインがポートフォリオ内で金と同じ役割を果たせるか?

一部の投資家は、ポートフォリオ内で金と同じ役割を果たせるビットコインへの資産配分の変更が、足元で金価格が下落している背景と主張しています。また、年配の投資家は金に投資を続ける一方、若い投資家はビットコインが金と同じ投資特性を多く持っていると考え、「デジタル・ゴールド」に投資することを選ぶだろうとの声もあります。

①S&P500種指数との高い相関、②インフレヘッジ資産としての実績の乏しさ、③パンデミック直後の価格動向、④本源的価値の乏しさ—から、ビットコインを金の代替資産とみなすべきではない

しかし、それは真実なのでしょうか?ビットコインはデジタル・コモディティと見なされているかもしれませんが、投資家はポートフォリオにおけるビットコインが果たせる潜在的な役割について、金などの伝統的なコモディティ資産と比較することが必要です。以下、検証をします。

•通常、金はポートフォリオの分散効果の獲得を目的に投資されます。2020年に、ビットコインのS&P500種指数との相関係数が0.72であったことを考えると、ビットコインが金のような分散効果を発揮できるかは定かではありません 4 。一方で、金の同期間のS&P500種指数との相関係数はわずか0.38でした 4

•一部の投資家はインフレヘッジを目的に金を保有しており、すべての期間には当てはまらないかもしれませんが、過去、金はインフレヘッジの特性を示していました。一方、ビットコインは、インフレ率が高い環境下での十分な実績がありません。投資家は、ビットコインが有効なインフレヘッジ資産であると想定すべきではないでしょう。

•金は、地政学リスクをヘッジする資産としても保有されています。そして、何らかの危機時には、金は株式よりも相対的に優れたパフォーマンスを示してきました。例えば、2008年9月のリーマン・ブラザーズの破たんから2009年3月初旬に底値を打つまでの間、株式市場は大きく下落したものの、金価格は上昇しています 5 。対照的に、2020年2月の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大時には、ビットコイン価格は株価と同様の上昇と下落の動きを見せており、ヘッジ資産としての役割はほとんど果たせませんでした(なお、金価格は2月は持ちこたえたものの、3月には株価やビットコインと同様に下落し、その後、同様に上昇に転じています。)。

•ビットコインとは異なり、金は宝石としてのみならず、電子機器などの商品にも使用されていることから、ほぼ間違いなく本源的な価値があります。例えば、多くのマイクロチップは導体の金属として金を使用しています。

チューリップ・バブルの再来となるか?

「機会損失への恐れ」がビットコイン投資の背後にある原動力

そして、投資家がポートフォリオにビットコインの保有を検討する主たる動機は、価格の上昇であると考えられます。言い換えれば、「機会損失への恐れ」がビットコイン投資の背後にある原動力である可能性が非常に高いのです。確かに、ビットコインの価格は、ここ数カ月、急上昇しています。ただし、投資家は、ビットコイン価格の過去の特徴を知っておく必要があるでしょう。2011年以降、ビットコイン価格が過去の高値を下回った取引日は93.6%であったのに対し、S&P500種指数は86.6%でした 6 。そして、ビットコインが高値を下回っていた時、その価格は過去の高値を平均53.5%も下回っていました 6 。一方、S&P500種指数の場合は、平均3.8%下回っているに過ぎません 6

ビットコインは配当や金利などによる資産としての裏付けがなく、取引の処理能力が低い暗号資産

最近のビットコイン価格の上昇は、その売り手の少なさと価格上昇への関心の高まりにより主導されています。多くの投資家がビットコインの上昇に気づき、そのトレンドに乗ろうとすればするほど、この循環は続き、価格を押し上げるでしょう。しかし、ビットコインには配当や金利などによる資産としての裏付けがなく、取引の処理能力が低いデジタル資産であり、ビットコインのブロックチェーンを走らせるのに必要な膨大なエネルギーを考えると、買い手が価格を引き上げるのをやめたら、どのような力学がビットコイン価格を正当化すのかという疑問が残るでしょう。

ビットコインへの投資は非常にリスクが高く、リスクに対する効果的なヘッジ資産になりうるかどうかは未知数

まとめると、ビットコインや他の暗号資産は引き続き注目されると考えますが、その投資は非常にリスクが高いものです。機関投資家の関心の高まりを背景に、ビットコインはここ数カ月で大きな信頼を得ていますが、それでも、1600年代のオランダで発生した「チューリップ・バブル(オランダでチューリップの人気が高まり、その価格が天文学的かつ持続不可能な価格まで高騰し、その後に暴落したこと)」のデジタル版である可能性があります。ビットコインに本源的な価値がないことを考えると、その価格が今後数カ月でどれだけ上昇するか、あるいは下落するかを予測することは困難です(私は、その価格動向は非常に不安定だろうと予想しています)。また、その歴史が短いことを考えると、ビットコインがインフレなどのリスクに対して効果的なヘッジ資産となるかどうかを予測することも難しいでしょう。

最後に、先週より深刻な寒波に見舞われているテキサスの方々の安全をお祈りしております。

1.出所:フォーチュン、“Bitcoin Hits a New Record High, But Stops Short of $20,000”、 2017年12月17日。
2.出所:Fitch Solutions、2016-2019年の数値。
3.出所:Bitcoin Wiki、“Controlled Supply: Projected Bitcoins Short Term”、2020年5月11日。
4.出所:ブルームバーグL.P.;月次データを元に筆者が計算。
5.出所:ブルームバーグL.P.。
6.出所:ブルームバーグL.P.。S&P500種指数とブルームバーグのビットコインの複合指標を比較。期間は2011年1月3日から2021年2月15日。分析では、米国の取引日のみを考慮(ビットコインは週末に取引できる一方、S&P500種指数は週末に取引できない)。

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

 

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