2020年は新型コロナウイルスの影響で、ESG(環境・社会・ガバナンス)やサステナビリティ(持続可能性)への意識が世界全体で高まった年でした。それに伴い、すでに広がりつつあったESG投資が加速し、市場に新たな価値をもたらしています。
2021年のESG市場のトレンド予想から、この潮流が今後どのように変化していくかが見えてくるかもしれません。
目次
2020年のESG債市場は過去最大規模に
環境関連事業に焦点を当てたグリーン債や、社会開発事業に焦点を当てたソーシャル債などを含むESG債は、2020年に需要が高まったESG投資分野の一つです。ESG債市場は過去最大の4,890億ドル(約50兆6,940億円)を突破したことが、金融データサービス企業Refinitiv(リフィニティブ)の最新のデータで明らかになっています。
また、フィディリティ・インターナショナル(Fidelity International)がESGの評価が高い企業の株と、そうでない企業の株の第1~3四半期のパフォーマンスを比較したところ、都市封鎖や外出自粛の影響により世界各国で経済活動が著しく低下した4月を除き、毎月のリターンが高かったのはESGの評価が高い企業の株でした。
このようなESG関連企業への追い風は今後も継続するとの見方が強く、英コンサル大手PwC(プライスウォーターハウスクーパース)は2020年11月に発表したレポートの中で、「ESGは今後10年間で最も成長の早い分野になる」と予想しています。
同レポートによると、欧州のESGアセットは今後5年間で5.5兆ユーロから7.6兆ユーロ(約694兆4,405億~959兆5,905億円)に達し、同地域の全ミューチュアル・ファンド・アセットの41~57%を占める規模に成長。わずか15%強だった2019年末と比べて、驚異的な成長率を記録することになるでしょう。
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2021年のESG投資のトレンド予想
2021年は、コロナの影響で延期された地球温暖化を巡る国際条約「パリ協定」の国連会議COP26グラスゴーが開催されるなど、ESG投資への関心がさらに高まると同時に、以下のような新たなトレンドが生まれると予想されています。
1 環境対策 次なる焦点は生物多様性と水質汚染?
新型コロナウイルスの感染拡大により、動物由来の感染症がパンデミックの引き金となるリスクであるということを、全世界が再認識しました。
新型コロナウイルスの起源は未だ確定していませんが、世界自然保護基金(WWF)は過去30年間で発生した新しい疾患の6~7割が動物由来の感染症である点を指摘しています。野生動物が生息する森林環境などの破壊により、本来は自然界だけに存在するはずだった動物由来感染症の病原体が、人間界に拡散するケースが急増しているのです。
このような背景から、2021年は生物多様性や水質汚染などへの取り組みが加速し、自然を資産と考える「自然資本経営(NCA)」を重視する潮流が見られるようになるかもしれません。
2 ブロックチェーン技術の活用
企業活動の環境への影響を正確に測定することは、非常に困難です。そのため「投資している企業が本当に有益なESG活動を行っているかどうか」について懸念する投資家も少なくありません。
それを受けて、企業のESG活動の進捗状況を効率的かつ安全に測定できるテクノロジーとして注目されているのが、ブロックチェーン技術です。ブロックチェーン技術には、取引に関するすべての情報をデジタル台帳に記録することで改ざんを不可能にし、透明性と信頼性を確保できるという特徴があります。
例えば英ブロックチェーン・スタートアップのFinboot(フィンブート)は、原材料・部品から在庫管理、物流、販売まで、サプライチェーンの全プロセスを追跡できるブロックチェーンシステムを提供しています。
スペインの石油・ガス大手Repsol(レプソル)は、このサービスを製品の追跡だけでなく、回収やリサイクル、および使用済みの一次・二次原材料の追跡に利用しています。これによって自社のESG活動の成果が明確になるほか、年間推定40万ユーロ(約5,151万円)以上のコスト削減が見込めるといいます。
同様のブロックチェーン追跡システムは、自動車、消費財、健康、旅行などさまざまな産業で利用可能です。
3 ESG目標達成に向けた企業間のコラボレーション
ESGや持続可能な開発目標(SDGs)に取り組んでいる企業はそれぞれの目標を掲げていますが、自社の事業内容に関連する目標に専念する傾向があることが、英コンサル大手PwC(プライスウォーターハウスクーパース)の調査で指摘されています。これでは取り組みが進んでいる分野と進んでいない分野が生まれ、目標達成に偏りが出てしまうかもしれません。
改善のカギを握るのは、コラボレーションです。目標達成に向かって企業同士が協力し合うことで、それぞれの得意分野をさらに高め合うと同時に、不得意分野を補い合えるチャンスが生まれます。
例えば製薬企業は、医薬品の原材料から製造設備や容器類の洗浄・滅菌まで大量の純水を消費しますが、英スタートアップのDesolenator(デソレネーター)が提供する太陽エネルギーを活用した浄化システムなどを利用して、水資源問題に取り組むことができます。
4 ESGファンドの増加
投資信託評価企業モーニングスターのデータによると、2019年末時点の世界のESGファンド数は564本で、そのうち約500本は2019年に新規設定されたものです。運用資産(AUM)総額は、9,330億ドル(約96兆 7,138億円)に達しています。
2020年はESGへの関心が一気に高まった年であり、2021年はさらに多くのESGファンドが生まれることが予想されます。
投資家にとってはESG投資の選択肢が広がるというメリットがありますが、「本物」を見分ける洞察力が問われることになるでしょう。そのため、評判や話題性だけで購入を判断せず、ファンドの特徴や企業のESG活動や評価、実績を分析する必要があります。
ESG投資は短期的なリターンが見込める株式投資やFXとは異なり、「ESG活動と利益のバランスが取れた企業」を見分けることが成功へのポイントといえます。そのためにも常に新たな変化や情報を敏感にキャッチして、投資に役立てる習慣をつけたいものです。
※上記は参考情報であり、特定ファンドの売買を推奨するものではありません。