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復興基金の合意に達したEUと、財政刺激策の交渉が長引く米国

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感染者数の増加と米中関係の緊張が米国株を圧迫

〔要旨〕

✔︎EUが前例のない財政刺激策に合意する一方、米国では足踏み状態が続く

✔EUが合意した財政パッケージは①3900億ユーロの補助金と3600億ユーロの融資、②相当額の資金が気候変動対策に割り当てられる―など、進歩的な内容に

✔ユーロは引き続き好調に推移すると予想され、欧州資産は米国株よりも投資魅力度が高い

●高まる米中間の緊張

—米中ともに総領事館の閉鎖を命じる

—米国高官が中国への強硬姿勢を鮮明に

●今後の見通し

—FRBは非常に緩和的な金融政策を維持する一方、追加の財政出動も実施されるだろう

ヘンリー・ジェイムズによる米国人と欧州人の対比

高校生時代、私はヘンリー・ジェイムズの「ヨーロッパ人」を読みました。この小説は、欧州人と米国人との対比が主なテーマで、「新世界」の米国人は保守的かつ伝統を重んじ、お金に執着している一方、欧州人は伝統をそれほど気にせず、進歩的で感情豊かだと描かれています。前週、この本を思い出していました。

EUが前例のない財政刺激策に合意する一方、米国では足踏み状態が続く

前回、私は、新型コロナウイルスの感染者数の増加傾向が止まらず、確認されている経済回復の兆候が失われると懸念されることから、米国で追加の財政刺激策の議論がさらに進むだろうと記載しました。実際は、私の予想とは異なるものでした。追加の財政刺激策は発表されましたが、それは米国からではなく、欧州からでした。欧州連合(EU)は、前例のない財政刺激策について、素晴らしい協調姿勢を示し、合意に達しました。一方、米国では、新型ウイルスの感染拡大が続き、欧州人が恩恵を受けている社会的なセーフティネットが不足している状況下、経済が危機に瀕しているにもかかわらず、追加の刺激策の合意にはほど遠い状況です。

米雇用状況の悪化が懸念される中、米企業のCEOの間では悲観的な見通しが広がる

米国では、18週連続で週間新規失業保険申請者件数が100万件を超えている 1 にもかかわらず、上院は追加の景気対策案の合意に達しませんでした。15週間連続で減少していた新規失業保険申請者件数は、7月18日時点で141万6000件 1 と前週から増加し、市場予想も上回るなど悪化しました。そのような中、景気回復の芽が摘まれるのではとの懸念が、米国企業の最高経営責任者(CEO)の間で広がっています。例えば、デルタ航空のエド・バスティアンCEOは、「4週間前よりも見通しは悪化している。米国南部での感染再拡大への懸念から、旅行需要は我々の予想よりも失速している」との見方を示しました 2 。また、マリオット・インターナショナルのアーニ・ソレンソンCEOは「現在の見通しは、1カ月前よりも悲観的だ。このウイルスは米国のあらゆる市場に潜んでいる」と発言しました 2 。失業給付金が不足していることを考えると、現在、米国経済はより大きなリスクにさらされています。足下での、米国上院の機能不全が懸念されます。

EUが合意した財政パッケージは①3900億ユーロの補助金と3600億ユーロの融資、②相当額の資金が気候変動対策に割り当てられる

一方、欧州連合(EU)は、 製造業とサービス業の改善に支えられ、7月のユーロ圏総合購買担当者指数(PMI)が54.8と大幅に回復 3 するなど、その経済状況が良好であるにも関わらず、追加の刺激策を導入することができました。EUでは長い間、負担の分担が協議の難航の原因となっていましたが、ようやく一定の同意を経て、前例のない財政刺激策案に合意しました。この復興基金案には、3900億ユーロの補助金と3600億ユーロの融資が含まれている 4 ほか、相当の部分が気候変動対策に割り当てられるなど、かなり進歩的な内容です。合意に達するまで要した時間は約4日と、驚くべきスピードでした。これはEUの真の改革をもたらすものではないかもしれませんが、財政同盟の実現への非常に重要な第1歩です。私はまた、EUの存続を脅かすポピュリストや反EU運動に対抗する点でも、これは前向きな動きであると考えます。

短期的には欧州資産が米国資産をアウトパフォームすると予想

ウイルスの抑制と財政刺激策の両方の実現における欧州の成功と米国の失敗により、短期的には欧州資産が米国資産をアウトパフォームすると予想されます。また、ユーロは引き続き好調に推移すると予想され、欧州資産は米国株よりも投資魅力度が高いと考えています。

高まる米中間の緊張

米中ともに総領事館の閉鎖を命じる

新型ウイルスの経済的圧力に加えて、米国株は中国との緊張の高まりという逆風にも直面しています。前週、私は米中関係の緊張の高まりについて述べましたが、その週の後半に、米国は中国に対し、ヒューストンにある中国総領事館を閉鎖するように命じました。中国はこれを「前例のない深刻化」と表現し、対抗措置として、米国に成都の総領事館を閉鎖するように要求しました。

米国高官が中国への強硬姿勢を鮮明に

一方、ポンペオ米国務長官は前週のスピーチで、「中国共産党からの自由の確保は私たちの時代の使命である」と主張し、中国への強硬な姿勢を鮮明にしました 5 。11月の米国大統領選挙に近づくにつれ、米中関係の緊張はさらに高まるでしょう。両国の緊張の高まりは、前週に1900ドルと8年ぶりの高値をつけた金価格からも推測されます 6

今後の見通し

FRBは非常に緩和的な金融政策を維持する一方、追加の財政出動が実施されるだろう

米国と中国の緊張の高まりなど米国株が直面する向かい風に対して、強力な追い風も存在します。その1つが、世界中で実施されている金融および財政刺激策であり、これは株価を下支えする要因です。

そして近日中に、財政と金融の刺激策への2つの重要なイベントがあります。1つは、28-29日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)です。FOMCでの発表と記者会見を注視したいと思います。新しい政策が発表されるとは予想していませんが、重要なメッセージ、すなわち、非常に緩和的な金融政策を維持する一方、さらなる財政出動を必要とする、という考えが引き続き強調されると考えています。また、米上院での財政刺激策に関する交渉の行方も引き続き注目します。私は、財政刺激策が何らかの形で可決されるだろうと考えています(選挙が実施される年には、議員が寛大になる傾向があります。)。もし、ヘンリー・ジェイムズが述べた特徴の通り、米国人が本当にお金に強い関心があるならば、財政刺激策を注入することで、失速の危機にある米国経済を支えようとするでしょう。

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

 

1.出所:米国労働省。
2.出所:ニューヨーク・タイムズ、“‘Less optimistic’ and ‘more cautious’: Top CEOs fret as virus cases rise”、2020年7月20日。
3.出所:IHSマークイット、2020年7月24日。
4.出所:ブルームバーグL.P.、“EU Clinches Massive Stimulus Deal to Bind Continent Together”、2020年7月20日。
5.出所:米国国務省、演説筆記録、“Communist China and the Free World’s Future”、 2020年7月23日。
6.出所:ブルームバーグL.P.、“Gold Tops $1,900 for First Time Since 2011, Heads Toward Record”、 2020年7月23日。

 

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