金とビットコインは、価値の保存手段(ストア・オブ・バリュー)として注目されています。どちらも国や中央銀行の発行に依存せず、インフレや通貨の信用低下に備えるための手段として用いられている状況があります。
しかし、似たような役割を果たす一方で、その性質、リスク、メリットは大きく異なり、投資家の性格や目的によって向き不向きがありますので、それぞれの特徴を見ていきましょう。
目次
未来の価値を担う? デジタルゴールド「ビットコイン」
ビットコインの特徴としては、ビットコインは「デジタルゴールド」とも呼ばれ、中央銀行や政府に依存しない非中央集権型のデジタル通貨です。供給量は最大2100万枚と決まっていて、インフレに強い資産とされています。特に、法定通貨の価値が急落している国や、資本規制が厳しい国々では、資本の逃避先や送金手段としてのニーズも高まっています。
注意点としては、価格の変動幅が非常に大きく、短期的には投機的な性質が強いことが挙げられます。そのため、安全資産としてはまだ発展途上であるという見方もあります。また、自己管理やセキュリティに関する最低限のリテラシーも必要とされます。
数千年の歴史を持つ伝統資産「金」
金は数千年にわたり、世界中で価値が認められてきた伝統的な資産です。戦争や経済危機などの有事に強いとされ、「有事の金」として投資家に長く信頼されてきました。金は現物資産のために、国家が信用を失った場合でも一定の価値を維持できるとされています。
例えば、シンガポール在住の世界的投資家ジム・ロジャーズ氏は金を好み、コインを上着のポケットに常に入れていると言います。いざという時、それを持ってどこへでも移動できるという考え方です。また、インドの富裕層にも似た文化があり、家族で金のアクセサリーを身につけ、実物資産として金を持ち歩く習慣があります。
一方で、金は配当や利息を生まないため、資産の値上がり以外に収益を得る手段はありません。また、保管リスクや盗難リスクに加え、税制上も株式などとは異なる取り扱いとなるため、現物での保有には注意が必要です。
金・ビットコイン以外の資産保全方法
金とビットコイン以外にも、富裕層や分散志向の投資家たちはさまざまな方法で資産を保全しています。
・安全通貨(スイスフラン、米ドルなど)
信頼性の高い国家が発行する通貨は、短期的な資金の避難先として利用されます。スイスフラン(CHF)や米ドル(USD)はその代表で、為替リスクを避けつつ資産の安定性を保つ手段として有効です。ただし、インフレや金融政策の影響を受けるため、長期的な価値保存手段としては限定的です。ジム・ロジャーズ氏も、金や米ドルに資産を分散させながら、常に米ドルに代わる通貨を模索していると述べています。
・不動産
土地や建物などの不動産は、インフレ対策としても使われることの多い実物資産です。特に商業用や収益物件は、賃貸収入を通じてキャッシュフローを生み出す守りと攻めを両立する資産と捉えられています。ロンドン、ニューヨークなどの国をまたいで複数の地域での不動産保有は地政学リスクの分散にもつながります。ただし、売却をするのに時間がかかるなど流動性の低さや税制リスクにも注意が必要です。
・美術品やワインなどの嗜好品
この他に一部の富裕層は、資産の一部を美術品やワイン、希少な時計や高級車などの嗜好性の高い資産に移しています。これらは市場が小さく流動性も限定的ですが、供給が限られているため、長期的には希少性が価値を支える場合があります。
・銀やプラチナなどの貴金属
銀やプラチナなども物理的に存在する資産として投資対象になります。とくにプラチナなどは工業用途も多く、価格が需要に左右されやすいという特徴があります。これらも投資信託などを利用すれば、手軽に投資ができます。
保有方法の選択:現物と金融商品(ETFなど)の違い
金もビットコインも、ETFやファンドを通じて間接的に保有することもできますし、現物やウォレットという形で保有することも可能です。
現物保有(地金・ウォレット)で自己管理する場合、自由度が高い反面、盗難・紛失リスクや、税制上の申告が複雑になる場合もあります。
ETFや投資信託を利用する場合、小口でも投資可能で管理が簡単です。税金もその他の投資信託と同じ扱いになります。
複合的な視点で資産を守る時代へ
金もビットコインも、それぞれ「価値の保存手段」として一定の役割を果たします。ただし、その性質やリスクの特性は大きく異なるため、投資の目的やリスク許容度に応じた使い分けが重要です。
また、これらに加えて、不動産、通貨、その他の実物資産を組み合わせることで、より多角的なリスク分散と資産保全が可能となります。
地政学リスク、インフレ、制度の変化が激しい現代においては、一つの手段に依存することなく、複数の価値保存資産を組み合わせる戦略が資産の安定性を高める鍵になります。
初心者でも、投資信託やETFを活用すれば、富裕層のような分散投資スタイルを少額から実践することが可能です。時代の変化に対応しながら、自分に合った資産構成を見つけていくことが、資産形成の第一歩になるでしょう。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。
※本稿は著者の見解に基づくものであり、Wealth Roadの運営会社の見解を示すものではありません。

著者:花輪陽子(ファイナンシャル・プランナー(FP)、貯金評論家)
CFP認定者、1級ファイナンシャル・プランニング技能士など多数資格を保有。外資系投資銀行を経てFPとして独立。「ホンマでっか!?TV」等のテレビ出演、講演も多数。2015年から生活の拠点をシンガポールに移し、シンガポールのファミリーオフィス等でウェルスマネジメントに従事。主な著訳書に『世界標準の資産の増やし方』『ジム・ロジャーズ大予測』 (ともに東洋経済新報社)などがある。