高校無償化は、高等学校就学支援金によって国公立高校の授業料の実質無料を実現できます。この支援金は所得によって制限がかけられているので、年収いくらまでだと実質無料にならないのか確認しておく必要があります。
<記事の要点>
・高校無償化の所得制限は年収910万円が目安
・所得控除で所得制限を回避できる可能性あり
・一部の地域で所得制限を撤廃する動きがある
目次
高校無償化の所得制限とは
高校無償化に必要な高等学校就学支援金の受給条件は、以下のとおりです。
【1】日本国内在住+高等学校等に在学
【2】世帯年収910万円未満世帯の生徒
上記の【2】が所得制限の目安です。所得制限の詳細は、後ほど詳しく解説します。
高校無償化の所得制限は年収いくらまで?
高校無償化になる年収の水準は、公立と私立で大きく異なります。まずは、所得制限の目安となる年収を「公立」と「私立」に分けて紹介します。
公立高校の授業料が無償化になる世帯年収はどのくらい?
<結論>
所得制限:年収910万円未満
年間支給:年間118,800円
公立高校の授業料が無償化になる水準は、年収910万円未満です。この年収水準で、年間118,800円が支給されます。公立高校の授業料は年間118,800円(全日制の場合)なので、年収910万円未満で高校無償化の対象となります。
私立高校の授業料が無償化になる世帯年収はどのくらい?
<結論>
所得制限:年収590万円未満
年間支給:年間39万6,000円
私立高校の授業料が無償化になる水準は、年収590万円未満です。公立高校の授業料は全国の私立高校の平均授業料を勘案した年間39万6,000円(全日制の場合)なので、高校無償化の対象となります。
家族構成によって異なる高校無償化の所得制限の水準
ここからは、「共働き」と「両親の片方が働く場合」に分けて、高校無償化の所得制限の水準を紹介します。以下の情報は、文部科学省の「私立高等学校授業料の実質無償化」を参考にしています。
共働きの場合の所得制限
高等学校就学支援金の所得制限は、両親の働き方や家族構成によって異なります。まずは、両親が共働きの世帯における所得制限を見てみましょう。
子どもの人数 | 扶養控除対象者の数 | 支給額11万8,800円の年収目安 | 支給額39万6,000円の年収目安 |
---|---|---|---|
2人 (高校生・中学生以下) |
1人 | ~約1,030万円 | ~約660万円 |
2人 (高校生・高校生) |
2人 | ~約1,070万円 | ~約720万円 |
2人 (大学生・高校生) |
2人 (※うち1人は特定扶養控除対象者) |
~約1,090万円 | ~約740万円 |
上記は、全日制の私立高校に通っている場合の支給額をまとめたものです。世帯年収が1,000万円を超えていても、扶養控除対象者が1~2人であれば約12万円の支援を受けられることが分かります。
両親のうち一方が働いている場合の所得制限
次は、両親のうち一方が働いている場合の所得制限を紹介します。
子どもの人数 | 扶養控除対象者 | 支給額11万8,800円の年収目安 | 支給額39万6,000円の年収目安 |
---|---|---|---|
2人 (高校生・高校生) |
2人 | ~約950万円 | ~約640万円 |
2人 (大学生・高校生) |
2人 (※うち1人は特定扶養控除対象者) |
~約960万円 | ~約650万円 |
あくまで目安ですが、このケースで世帯年収が1,000万円を超えていると、支援を受けることが難しくなります。そのため、世帯年収が上記の金額を超えそうな場合は、夫婦どちらか一方の収入を減らすことも検討してみましょう。
なぜ働き方や家族構成によって所得制限が変わるのでしょうか。ここからは、支給額の基準となる「住民税所得割額」について解説をしていきます。
正確な高校無償化の所得制限を確認する方法
年収の目安ではなく、より具体的な計算方法と判断基準は、以下のとおりです。
<支給額の計算式>
課税標準額(課税所得額)×6%-市町村民税の調整控除額=合計額
<ケース1>
合計額:15万4,500円未満
支給額:39万6,000円
<ケース2>
合計額:30万4,200円
支給額:11万8,800円
高校無償化の所得制限は何を見れば分かる?
上記の計算に必要な「課税標準額」と「市町村民税の調整控除額」について解説します。この2つの金額を確認できると、高校無償化の正確な判断基準となる所得制限を確認できます。
<課税標準額(課税所得額)>
住民税を計算するのに必要な金額のことです。課税標準額は「特別徴収税額決定通知書」と「課税証明書」の「課税標準額」と「課税総所得金額」などで確認できます。
<市町村民税の調整控除額>
所得控除のうち配偶者控除や障害者控除等の人に関する人的控除の差によって生じる負担の増加を抑える方法のことです。「給与所得等に係る市民税・県民税 特別徴収税額の決定通知書」の裏面で確認できます。
高等学校就学支援金の手続方法
ここからは「申請時期」と「必要書類」に分けて、手続方法を紹介します。
申請時期
高等学校就学支援金の申請時期は、新入生と在校生で異なります。
・新入生の申請時期
→毎年4月頃
・在校生の申請時期
→毎年7月頃
上記の時期になると、学校側から案内があります。新入生は入学直後のタイミングですが、在校生は収入状況の届出をする7月が目安となるので、特に子どもが2人以上いる世帯は注意しておきましょう。
支援金は申請をした月から支給されるため、早めに手続きを始めることが大切です。
必要書類
高等学校就学支援金の手続きでは、以下の書類を提出する必要があります。
・申請書
・マイナンバー確認書類(※)
マイナンバー確認書類については、親権者全員分のものが必要です。上記の書類を用意できない場合は、マイナンバーが記載された住民票の写しや課税証明書での代用も認められています。
なお、都道府県によって必要書類が異なることもあるので、学校の案内はしっかりと確認しておきましょう。やむを得ない事情で書類の提出が難しい場合は、学校に相談をすると対応してもらえる可能性があります。
(※)マイナンバーカードや通知カードの写しなど
高校授業料無償化の所得制限にかかる家庭はどうすればよいか
家計の状況は、それぞれ異なります。高等学校就学支援金の所得制限を上回る収入があっても、お金に余裕のない家庭はあります。授業料を捻出するのが難しい場合は、どうすればよいのでしょうか。
1.学費ローンを利用する
まず、学費ローンを利用する方法があります。学費ローンは、銀行やノンバンクなどさまざまな金融会社が取り扱っています。国(政策金融公庫)や自治体が運営している低金利の教育ローンもありますが、年収による利用制限があるため注意が必要です。教育ローン・学費ローンと奨学金の違いは、返済義務を負う人です。教育ローン・学費ローンの返済義務を負うのは保護者ですが、奨学金の場合は学校に通う本人です。
2.学資保険を利用する
学資保険とは、子どもの教育資金を用意するための貯蓄型保険です。商品ごとに決められた保険料を毎月支払うと、進学や卒業などのタイミングで準備金や学資金を受け取れます。
加入のタイミングは自由ですが、子どもが大きくなってから加入すると、払込期間が短くなる影響で月々の負担が増大します。資金計画に余裕をもたせるためにも、できればお子さんが小さいうちから加入を検討してみましょう。
なお、学資保険は中途解約が可能であり、解約返戻金を受け取れます。ただし、契約期間に応じて返戻率が増える仕組みなので、満期を迎えるまで加入し続けることが大切です。また、途中解約の場合は元本割れを起こす可能性もあるので、注意しましょう。
3.家計を見直す
学費ローンや学資保険は、金利や保険料によって支出が生じます。出費をせずに教育資金を用意したい人は、以下のような「家計の見直し」を考えましょう。
<家計を見直すポイント>
・出費につながる習慣をやめる
・食材ロスを減らす
・通信代や光熱費などの固定費を見直す
・使っていないサブスクリプションなどを解約する
上記の他にも、夫婦で同じ財布を使う方法も節約につながります。夫婦で別の財布・口座を使っていると、お互いがどれくらい資産を保有しているのかわからないため、「思ったよりも教育資金が少なかった」といった事態になりかねません。
お金の管理方法は家庭によって異なりますが、まずは現状を把握することが必要になるので、夫婦で別の財布を続ける場合でもお互いの資産状況は確認しましょう。
4.所得控除を利用する
所得控除とは、特定の条件を満たした場合に、所得から一定の金額を差し引ける制度のことです。有名なものとしては、年間13~38万円が控除される「配偶者控除」や、同居する子どもや配偶者などに適用される「扶養控除」があります。
所得控除を利用すると、所得税・住民税のベースとなる課税所得金額が下がります。その年の税金が安くなるだけではなく、高等学校就学支援金の所得制限にも関わるので、毎年しっかりと確認することが重要です。
2022年11月現在では、10以上の所得控除が実施されているため、細かく調べれば利用できる制度が見つかる可能性があります。
所得制限に引っかからないための対処法
年収1,000万円に近い場合は、控除額を増やして所得割額を減らせば、支援金を受け取れるかもしれません。サラリーマンのケースを想定すると、以下の金額を所得から差し引きことが可能です。
控除の種類 | 最大の控除額 |
---|---|
iDeCo | 27万6,000円 |
生命保険控除 | 12万円 |
医療費控除 | 10万円 |
合計 | 49万6,000円 |
上記の年間控除額を合計すると、最大49万6,000円まで所得を減らすことができます。共働きの場合は、2人とも控除を活用できるので、最大99万2,000円が所得を減らす効果を期待できます。
所得控除は所得制限にひっかからないための対処法としてではなく、必要に応じて活用しましょう。所得控除の対象について、それぞれ解説していきます。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
<年間控除額>
最大27万6,000円
1年間の拠出金の全額が所得から控除されます。サラリーマンの場合、年間14.4万円〜27万6,000円まで控除が可能です。投資信託や保険などで運用したときの利益も非課税なので、節税に有利な制度といえます。
生命保険料控除
<年間控除額>
最大12万円
年末調整で保険料の支払額を申告する人もいるしょう。現在は、最大12万円が住民税の計算上の所得額から控除できます。一般生命保険料控除・介護医療保険料控除・個人年金保険料控除で、それぞれ4万円ずつ控除される計算です。
医療費控除
<年間控除額>
最大10万円
自分や家族にかかった医療費のうち、「10万円」または「総所得金額等×5%」のどちらか低いほうの金額を超える部分を所得から控除できます。内科や産婦人科、耳鼻科、歯科などでかかった治療費や出産費用だけでなく、通院のための交通費や薬代なども医療費に含まれます。
都道府県ごとの高校無償化になる制度
高校無償化の制度は国だけではなく、各都道府県でも実施しているところがあります。ここでは、代表的な都道府県の制度を紹介します。
東京都の場合(2023年度)
東京都は都内在住の世帯に向けて、私立高校の学費を支援する「私立高等学校等授業料軽減助成金」を実施しています。この助成金は国の高等学校就学支援金との併用が認められており、両制度を合わせて年間で最大47万5,000円までの支援を受けられます。
また、要件を満たした世帯には「奨学給付金(授業料以外の教育費の支援)」も支給されており、全日制・定時制では年間15万2,000円まで、通信制では年間5万2,600円までの給付金を受け取れます。
大阪府の場合(2023年度)
大阪府も、国の高等学校就学支援金と併用できる「私立高等学校等授業料支援補助金」を実施しています。
この制度では所得区分に応じた補助金が支給されており、Aランク(年収590万円未満が目安)に該当する世帯は負担する授業料が無償になります。一定の世帯所得(※)までは支援を受けられるため、毎年の手続きを忘れないようにしましょう。
愛知県の場合(2023年度)
愛知県の「私立高等学校等授業料軽減補助金」は、愛知県の私立高校に通う生徒の授業料を支援する制度です。保護者と生徒が県内に住んでいる場合は、所得制限に応じて以下の補助金が支給されます。
・愛知県授業料軽減補助金
・入学納付金補助金
同制度の申請書は、生徒が入学するときに学校から案内されます。進学先によって補助金の支払い方法や時期が異なるため、気になるご家庭は学校に問い合わせてみましょう。
これらの他にも補助金などを出している都道府県はあるので、お住まいの地域にある制度を確認してみましょう。
一部地域で高校無償化の所得制限を撤廃する動きがある
高校無償化には所得制限があるものの、一部地域ではこの制限を撤廃する動きがあります。例えば、大阪府は2026年度までに授業料の完全無償化を目指しており、子どもの人数に関する制限も撤廃する方針を明らかにしました。
この動きが全国的に広まると、全世帯が手厚い支援を受けられるかもしれません。制度の方針は自治体によって異なるため、お住まいの地域の情報を確認しておきましょう。
※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。