投資信託を中長期で保有していると、理想のポートフォリオから外れてしまう場合があります。なかには自動的にリバランスされるファンドもありますが、投資家自身でリバランスをする必要はあるのでしょうか。
本記事では、投資信託でリバランスをする目的や方法に加えて、ポートフォリオを見直すタイミングについて解説します。
目次
投資信託のリバランスはリスク管理のために行う
投資信託のリバランスは、ファンドの値動きによって変わるリスクを管理するために行います。具体的には、配分比率が増えすぎた資産を売却し、減りすぎた資産を購入することで、自身が理想とするポートフォリオを目指します。
ファンドの価格は常に変動するため、最初に理想のポートフォリオを組めたとしても、時間が経つと徐々に崩れていきます。わずかな誤差に見えるかもしれませんが、相場状況によっては目的を達成できなくなるかもしれません。
また、リスクが高い資産の割合が増えると、大きな損失を抱える可能性も考えられます。このような事態を避けるために、投資信託は定期的にリバランスをすることが重要です。
投資信託をリバランスする方法
一般的に投資信託のリバランスは、以下の手順で行われます。
手順1.理想のポートフォリオを決める
手順2.現在の資産配分比率と比較する
手順3.理想のポートフォリオよりも多い資産を売却する
手順4.理想のポートフォリオよりも少ない資産を購入する
まずは「現金20%:株式60%:債券20%」のように、ご自身が理想とするポートフォリオを決定します。この際、国内株式や米国株式、外国債券のように資産を細分化すると、より具体的なポートフォリオを作成できます。
理想のポートフォリオが完成したら、現在の資産配分比率と比較をしてみましょう。たとえば、実際の配分比率が「現金20%:株式40%:債券40%」になっている場合は、投資先が債券に偏っていることが分かります。
次はこの分析結果をもとに、配分比率が高い資産を売却し、低い資産を購入しながら調整していきます。調整が終わったら、最後に理想のポートフォリオになっていることを確認してください。
なお、投資信託には自動でリバランスするファンドも存在しています。ただし、そのようなファンドを選んでも理想のポートフォリオを常に維持できるとは限らず、ほかの金融商品を購入した場合にも資産配分比率は変わります。
投資信託をリバランスする必要性3つ
投資信託ではなぜリバランスが必要になるのでしょうか。ここからは、投資信託をリバランスする必要性と主な効果について解説します。
理想のポートフォリオを保つため
投資信託の基準価額は常に変動するため、それに伴って資産配分比率も変わっていきます。たとえば、最初は「現金20%:株式60%:債券20%」のポートフォリオを組めても、株式市場が下落すると「現金25%:株式50%:債券25%」のようなズレがでてきます。
最初はわずかな誤差であっても、相場状況によってはズレが拡大し、将来の運用結果に影響するかもしれません。投資信託を計画通りに運用するには、リバランスによって常に理想のポートフォリオを保つことが重要になります。
リスクのとり過ぎを防ぐため
理想のポートフォリオから外れると、損失のリスクが拡大することもあります。
先ほどの例を使って考えてみましょう。理想のポートフォリオである「現金20%:株式60%:債券20%」から「現金10%:株式80%:債券10%」のように資産配分比率が変わると、株式市場の影響を受けやすくなります。もしこのタイミングで株価が下落すると、想定以上の損失を抱えるかもしれません。
ご自身の許容リスクを超えると、相場が下落したときの影響が日常生活にも及びます。このようなリスクを避けるために、定期的なリバランスを心がけましょう。
全体のパフォーマンスを改善するため
投資信託のリバランスは、全体のパフォーマンスを改善する目的で行われることもあります。
たとえば、先ほどの例で「現金10%:株式50%:債券40%」のような資産配分比率になったとしましょう。このケースでは、当初の想定よりも債券の配分比率が増えているため、全体の期待リターンが小さくなるかもしれません。
また、標準偏差(※)の範囲を超えて基準価額が上昇するなど、なかには今後の値上がりを期待しづらい局面もあります。そのようなファンドは売却によって利益を確定し、別の金融商品に投資をすることが有効になる可能性があります。
(※)期待リターンのブレを表す指標のひとつ。
投資信託は長期目的で購入されやすい金融商品ですが、常に同じパフォーマンスを発揮するわけではありません。パフォーマンスが低下しそうな保有ファンドを見つけたら、リバランスの対象にすることを検討してみましょう。
投資信託はいつリバランスすればよいか
投資信託のリバランスは、頻度を意識することも重要です。また、短期間でポートフォリオが崩れることもあるため、見直しの具体的なタイミングを決めておく必要があります。ここからは、投資信託をリバランスする頻度の考え方をご紹介します。
一定の期間が経ったとき
1年などの一定期間をリバランスの目安にすると、定期的なポートフォリオの見直しを習慣にできます。特に決まった期間はなく、選択肢としては「1年ごと」「半年ごと」「四半期ごと」「1ヶ月ごと」などがあります。
ただし、間が空きすぎると忘れる可能性があるため、分かりやすい日時やタイミングを設定することが重要です。「毎年1月の最初の営業日」や「誕生日の翌日」など、ご自身が覚えやすい時期にスケジュールを固定しておきましょう。
資産配分比率が基準を超えたとき
ある資産の配分比率が、事前に設定した基準(閾値)を超えたときもリバランスのタイミングです。たとえば、「株式の比率が60%を超えたら」「各資産の比率が5%以上ズレたら」のように基準を決めておくと、リバランスの時期で迷うことがありません。
ポートフォリオの定期的な確認は必要ですが、許容できる基準を超えるまではひとまず放置し、超えてから売買をするような方法もあります。
景気や経済状況が変わったとき
景気や経済状況の変化は、資産配分比率にも影響することが予想されます。実際に2008年に発生したリーマン・ショックでは、わずか1日の間にダウ平均株価が777ポイントほど下落しました。
投資信託はファンドが投資する資産のほか、金利や為替レートの影響も受けます。仮に投資先の国で政策金利が上昇または下落すると、基準価額の変動によってポートフォリオが崩れるかもしれません。
特に経済ショックのような出来事が起こると、短時間で基準価額が大きく動くこともあります。そのため、日頃から関連する地域の経済ニュースなどを見て、相場状況を動かすような出来事が起きたら早めのリバランスを意識しましょう。
自分のライフスタイルが変化したとき
ライフスタイルが変わると家計にも変化が生じるため、理想のポートフォリオから見直すことが重要です。たとえば、結婚資金として現金の確保が必要になる場合は、投資総額を減らすような方針に切り替える必要があります。
特に以下のようなライフイベントが発生したら、ポートフォリオの見直しも含めたリバランスを考えましょう。
・転職などで収入事情が変わったとき
・結婚や出産で家族構成が変わったとき
・マイホームなどの大きな資産を購入したくなったとき
・相続や贈与で、必要な老後資金に変化が生じたとき
・長年の治療が必要な病気やけがをしたとき
理想のポートフォリオが分からなくなった場合は、投資の目的や許容リスクから整理してみてください。
投資信託のリバランスを行う際の注意点
投資信託のリバランスは、頻繁に行えばよいものではありません。ここからは、実際にリバランスを行う際の注意点をご紹介します。
売買で手数料がかかるファンドもある
投資信託のなかには、売買のたびに手数料がかかるファンドもあります。例としては購入時手数料や信託財産留保額があり、これらの手数料は申し込み価額に対する割合で計算されます。
つまり、リバランスでは手数料がかさむこともあるため、売買するファンドは慎重に選ぶことが重要です。余計なコストを抑えたい場合は、購入時手数料がかからないノーロードのファンドや、信託財産留保額がないファンドの入れ替えから考えましょう。
信託報酬が割高になることもある
信託報酬とは、信託財産から毎日差し引かれる投資信託の保有コストです。リバランス時に信託報酬が高いファンドを購入すると、毎日の保有コストが負担になる可能性があります。
そのため、リバランスで保有資産を入れ替える際には、売買する2つのファンドの信託報酬を見比べましょう。新たに購入するファンドの信託報酬が高い場合は、別のファンドを探すことも選択肢になります。
なお、信託報酬はあくまで保有コストを表すものであり、ファンドの良し悪しを決める要素ではありません。
譲渡益がでると税金が課される
リバランスの売却時に譲渡益がでると、一部のケースを除いて税金(所得税や住民税など)が課されます。2024年11月現在の税率は20.315%であり、仮に譲渡益を30万円とすると、税額は6万945円(30万円×20.315%)になる計算です。源泉徴収ありの特定口座を利用している場合は、この税額が自動的に源泉徴収されます。
税金の負担をなくしたい場合は、税制優遇制度である「新NISA」もしくは「確定拠出年金」の利用が選択肢になります。いずれの制度でも投資信託の取引が可能であり、制度の枠内で購入したファンドについては、全ての運用益に税金がかかりません。
ただし、商品の選択肢が狭まることもあるため、利用前には目当てのファンドを取引できるか確認しておきましょう。なお、確定拠出年金には払出し制限があり、原則60歳になるまでは資産を引きだせないので注意してください。
新NISAの非課税投資枠が消費される
先述の新NISAには、年間360万円の非課税投資枠が設けられています。成長投資枠は年間240万円まで、つみたて投資枠は年間120万円までであり、この金額を超えて非課税で投資することはできません。
また、売却による再利用が認められていない点にも注意が必要です。たとえば、2024年1月に成長投資枠で240万円分のファンドを購入するとします。その後、年内に同じファンドを売却しても、使った分の投資枠が復活することはありません。成長投資枠で別の金融商品を購入したい場合は、2025年1月まで待つ必要があります。
リバランスでこまめな売買を繰り返すと、新NISAの非課税投資枠が圧迫されてしまうこともあります。特にファンドの購入時には、非課税投資枠の状況をきちんと確認しましょう。
現金の受けとりに時間がかかる
株式やETF(上場投資信託)とは違い、投資信託の現金化には数日ほどかかります。具体的な日数はファンドによって異なりますが、申し込みの当日に売却代金が入金されることは基本的にありません。
したがって、売却した資金でリバランスを行う場合は、購入できる状態になるまで待つことになります。この期間に市場が大きく変動すると、目星をつけていたファンドでは理想のポートフォリオにならない可能性もでてくるでしょう。
売却と購入を同じタイミングで行いたい人は、事前に投資資金を入金する必要があります。
状況が変わったら投資信託のリバランスを考えよう
投資信託のリバランスは必須とまでは言えないものの、実践するとリスクを抑える効果が期待できます。特に理想のポートフォリオから外れたタイミングでは、積極的に見直すことが重要です。
現時点では不要であっても、相場状況やライフスタイルによっては急に必要性が高まるかもしれません。状況が変わってもすぐに対応できるように、基本的な方法や頻度の目安は覚えておきましょう。
※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。
※本記事は投資信託に関わる基礎知識を解説することを目的としており、特定ファンドの売買や投資を推奨するものではありません。
※本記事は、2024年11月26日現在のものです。今後制度が変更になる場合もあります。