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廃棄物で空を飛ぶ? SAFが拓く次世代航空
(画像=TensorSpark/stock.adobe.com)

廃棄物で空を飛ぶ? SAFが拓く次世代航空

従来のジェット燃料の有望な代替品として期待が高まっている「バイオ航空燃料(Bio-Aviation Fuel:BAF)」。近年はサステナビリティの波に乗り、持続可能性をより重視したバイオ航空燃料である「持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel: SAF)」の開発がますます加速しています。本記事では、実物資産投資の観点から、その最新開発動向と市場成長予想などをレポートします。

SAFとは?

SAFは、都市固形廃棄物・廃油・農業廃棄物・藻類などの再生可能な原料から作られたバイオ燃料の一種です。

従来のジェット燃料と比べて炭素排出量を最大94%削減できる可能性があり、航空セクターの脱炭素化に向けた重要技術とされています。化石燃料と混合して既存の航空機で使用できるため、航空会社にとってはコスト対効果が高いといったメリットもあります。

一方で、従来のジェット燃料より製造コストが高く、供給量が不足している点が課題となっています。SAFの資源の生産プロセスが、森林破壊などの環境負担を悪化させているとの懸念も一部であがっています。

SAFの製造法

SAFの製造にはさまざまな手法が用いられています。ここでは、現時点において欧米を中心に広範囲に普及している3つの技術を紹介します。

1 水酸化処理エステル・脂肪酸技術(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids:HEFA)

廃食油・廃脂肪・非食用植物油などを水素化処理することにより、ジェット燃料と同等の持続可能な航空燃料を製造する技術です。

2 フィッシャー・トロプシュ技術(Fischer-Tropsch:FT)

木質バイオマスなどから供給された合成ガスを、ジェット燃料に変換する技術です。

3 アルコール・ジェット合成パラフィン灯油技術(Alcohol-to-Jet Synthetic Paraffinic Kerosene:ATJ-SPK)

セルロースやでんぷん質アルコールを化学反応させ、燃料に変換する技術です。

最新開発動向

航空セクターがカーボン・ニュートラルを目指す中、世界各国で開発・実用化が活発化しており、最近は以下のような開発動向が見られます。

1 廃棄物バイオマス利用・投資の増加

温室効果ガスの削減と廃棄物の有効利用に貢献する持続可能な燃料として、廃食用油・農業及び林業廃棄物などのバイオマスを利用した燃料への注目がますます高まっています。

農業廃棄物を利用したSAF商業化プロジェクトには、インターナショナル・エアライン・グループ(※)をはじめとする複数の企業・組織が投資するなど、投資対象としても関心を集めています。最近では、KLMオランダ航空やデルタ航空と提携している米SAF企業DG フューエルズが、ルイジアナ州に40億ドル(約5,640億円)規模のSAF工場を建設する計画を進めています。同工場は廃棄物バイオマスから年間60トンのSAFを生産することが見込まれており、2028年までに生産を開始する予定です。

※ブリティッシュ・エアウェイズとイベリア航空が共同設立した航空持ち株企業のこと。

2 微細藻類バイオ燃料技術の進展

「大量のバイオ燃料の供給源となり得る再生・持続可能な資源」として有望視されているのは、微細藻類です。微細藻類には増殖速度が速く、土壌や淡水資源への影響が少ないという特徴があり、これまでにも小規模な研究・試験が行われてきました。

近年は遺伝子工学を活用して微細藻類の遺伝子を改良し、油脂の生産量を大幅に増加させたり、光の照射条件や培養液を最適化したりすることにより培養効率を向上する、あるいは廃水処理と組み合わせて環境負担と生産コストを抑えるといった取り組みが、世界中で行われています。一方で、大規模な藻類培養施設が世界各地で開設されており、商業化に向けた実験が活発化しています。

3 製造プロセスの効率化・改善の進展

SAFの製造プロセスにおける効率化・改善も、近年大きく進展している領域です。たとえば、従来の航空燃料と同等の性能でありながら、クリーンで高品質な燃料を生成すること可能にする水素化分解(Hydrodeoxygenation:HDO※)や、セルロースを分解する酵素効率を向上することにより、低温下でも効率的に燃料に変換し、生産性を高めることができる技術などの研究・開発が進んでいます。

2032年までに2兆円市場へ成長?

温室効果ガス排出削減のカギとなるSAFの需要は、今後大幅に増加すると予想されています。S&Pグローバル・コモディティ・インサイツの予想によると、2024年の世界の持続可能な航空燃料の生産量は98%増の195万トンに達する見込みです。

一方で、多くの国がSAFの開発・導入を支援する政策を実施していること、大量生産・低コスト化に向けた技術的進歩が活発化していること、エアバスやKLMなどによるサステナブル航空燃料ファンドへの大型投資を含め、投資が活発化していることなど、さまざまな要素が市場成長の追い風となっています。

インドの市場調査企業マーケッツ・アンド・リサーチは、SAF市場は2023~30年の期間年平均成長率(CAGR)47.7%のペースで成長し、2032年までに168億ドル(約2兆3,688億円)へ拡大すると予想しています。

さまざまな要素がSAFの成長を後押し

技術革新・産業連携・政府の支援・サステナビリティ意識の高まりなど、さまざまな要素がSAFの成長を後押ししており、今後のさらなる成長が予想されます。投資対象としても非常に期待が高い領域です。Wealth Roadでは、今後もSAFを含むバイオ航空燃料市場動向をレポートします。

※為替レート:1ドル=141円
※本記事は投資に関わるバイオ航空燃料を解説することを目的としており、個別企業への投資やバイオ航空燃料への投資を推奨するものではありません。

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