持続可能なエネルギーとして、「海洋エネルギー」が脚光を浴びています。本記事では、世界の取り組みと、欧米を中心に投資が活発化している実物資産としてのポテンシャルに迫ります。
目次
海洋エネルギーは、海が有する膨大な自然のエネルギー源(波、海流、潮汐、温度など)を利用した再生可能エネルギーです。「他の再生可能エネルギーと比べるとエネルギー密度が高い」「発電プロセスでの二酸化炭素排出量が低い」「安定した電力供給が期待できる」「枯渇することがない」といったメリットがあります。主な発電方法として、以下のような技術が挙げられます。
水中に設置されたタービンを潮の流れで回転させ、発電機に伝達することにより電力を生成します。
波の運動エネルギーを利用して圧搾空気を創り、タービンを回転させて電力を生成します。
満潮時・干潮時の潮差を利用して、ダムを通過させた水の流れでタービンを回転させて電力を生成します。
海面と深海の温度差を利用して熱サイクル(※)を作り、発電します。
(※)作業物質に一連の変化(加熱・放熱・断熱など)を施し、初めの状態に戻すこと。
世界的なエネルギー移行の波に乗り、海洋エネルギー市場は急成長を遂げています。技術の進化、各国政府の支援(技術開発に対する資金援助・税制優遇措置・規制フレームワークなど)エネルギー需要の増加なども、成長を後押ししている要因です。
市場調査企業プレセデンス・リサーチによると、世界の海洋エネルギー規模は2023~32年の期間CAGR (年平均成長率)21%のペースで成長し、62億ドル(約9,672億円)を超えると予想されています。
次に、各国・地域の取り組みと投資事例を見てみましょう。
欧州は世界の海洋エネルギー市場で最大のシェアを占める、海洋エネルギー分野のリーダー的存在です。欧州大陸はさまざまな海洋エネルギー技術に適した海洋条件を備えているほか、イノベーションを促進する研究機関と産業のネットワークが確立されており、共同プロジェクトや国際パートナーシップも活発です。
EU(欧州連合)は海洋エネルギーの生産量を2025年までに10万キロワット、2030年までに100万キロワットに増加することを目指し、研究開発やプロジェクトに多額の資金を投じています。政府と民間部門が海洋エネルギーの研究および実験プロジェクトに投じた資金は、過去10年間で総額40億ユーロ(約6,760億円)以上にのぼります。
一方、英国政府は2021年11月、年間2,000万ポンド(約40億2,000万円)を潮力エネルギーへ投資する計画を発表しました。これは、同国の潮力エネルギーへの投資としては最大規模です。
米国においても、政府の支援やプロジェクトの実施を通じて、実用化と商業化に向けた積極的な取り組みが進められています。
直近では2024年2月、米国エネルギー省(DOE)が総額3,500万ドル(約54億6,000万円)規模の潮力発電装置の開発・設置計画第一フェーズとして、2つの革新的な海洋エネルギー・プロジェクトに総額600万ドル(約9億3,600万円)を投資する意向を明らかにしました。
海洋エネルギー資源に恵まれたアジア太平洋地域は、海洋エネルギー市場で最も急速な成長が見込まれている地域です。同地域の各国政府は支援政策やインセンティブを介して再生可能エネルギー開発に注力しており、近隣諸国との協力的な取り組みや革新的な研究が活発化しています。
特に、中国と韓国は世界最大級の潮力発電所を有するなど、同地域における海洋エネルギー発展をリードしています。日本においても2019年に「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」が改定され、2024年には国内初の潮流発電の導入が計画されています。
生産コストや規制、開発による環境への影響といった課題も存在する一方で、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献する重要な技術として、海洋エネルギーのポテンシャルを模索する試みが加速していることは間違いありません。今後、これらの課題を克服するための技術開発や経済性の向上が進めば、将来的に大規模な普及が期待できるでしょう。
一方で、再生可能エネルギーは長期的かつ継続的な成長が見込まれていることから、未来の投資対象としても注視していきたい領域です。Wealth Roadでは、今後も海洋エネルギーやサステナビリティ市場に関する動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=156円、1ユーロ=169円、1ポンド=201円
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。