「生体認識技術を活用して、暗号資産版ユニバーサル・ベーシックインカム(※)を実現する」という、革新的な大型プロジェクト、「ワールドコイン(Worldcoin)」が注目されています。「地球上の全ての人々がアクセスでき、恩恵を受けられる、世界最大の金融ネットワークを構築する」という野心的なビジョンをカタチにすることは可能なのでしょうか。
(※)全ての国民に一定の金額を支給する制度のこと。
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ワールドコインは、OpenAI(※)の共同設立者サム・アルトマン氏率いるプロジェクトです。2019年にツールズ・フォー・ヒューマニティ(Tools For Humanity)を設立後、AI技術の発展に伴う潜在的な課題のソリューションとして、2023年にワールドコインのベータ版をローンチしました。以下、主な技術と特徴、役割を見てみましょう。
(※)チャットボットChatGPTを開発した米スタートアップ。
同プロジェクトの目的のひとつは、AI化によるなりすまし詐欺といった犯罪の防止です。
ワールド IDは「オーブ(Orb)」と呼ばれる虹彩スキャン(※)で本人確認を行う分散型IDで、身分偽造リスクの低減が期待されています。パスポートや個人情報が不要なため、個人情報の漏洩防止に役立ちます。
(※)目の瞳孔の周囲の色が付いた部分をスキャンして、本人確認を行う生体認識技術のこと。
近年、「AI普及による雇用減少をベーシックインカムで補う」という構想が世界中で議論されています。ベーシックインカムを実現するために開発されたワールドコインは、特に低所得国の人々に経済的な支援をもたらすことを目標としています。ワールドIDを取得したユーザーには無料でワールドコインが配布され、取引所での売買や暗号資産関連サービス、店舗決済(ワールドアプリが必要)に利用できる仕組みです。
ワールドコインの構想は、すでに世界中のユーザーから支持を得ています。2024年5月5日時点でワールドID取得者は世界120ヵ国で519万人、アプリユーザーは584万人を超え、ワールドコインの時価総額は160億ドル(約2兆4,880億円)を上回りました。
その一方で、同プロジェクトは設立から2023年5月までに3回の資金調達ラウンドで総額2億4,000万ドル(約367億2,000万円)を調達しました。
需要拡大と共に開発も加速しており、最近では独自のイーサリアムレイヤー2(※)のブロックチェーンである「ワールドチェーン」の開発を進めています。ワールドコインは現在、イーサリアムレイヤー2「OP メインネット」上で稼働していますが、独自のネットワークへ移行することにより、トランザクションの増加による負担の軽減や取引スピードの向上、手数料の引き下げなどが期待できます。
さらに、ワールドIDを取得したユーザーはAIボットやアルゴリズムより優先的に取引でき、一部のガス代が無料になるといった特典を受けられます。
(※)イーサリアムの性能を拡張するための2層目のレイヤーのこと。
2024年4月には今後6カ月間でワールドコインの供給量を3,600万トークン(約1億9,700万ドル相当/約301億4,100万円)に増やす意向を明らかにしたほか、OpenAIと提携交渉を進めていることをメディアが報じました。
このような一連の活発な動きも追い風となり、将来性について一部でポジティブな見方が広がる一方で、法規制に代表される数々の課題も横たわります。最も議論されているのは、ワールドコインが未成年者を含む大量の個人データを収集・管理していることに対する、プライバシーおよびデータ保護への懸念です。
ワールドコイン側は「各国のデータ収集・保護規制および法律に100%準拠するよう設計されている」と主張していますが、スペイン、ポルトガル、フランス、ドイツ、ケニア、香港などの規制当局が捜査を進めています。ワールドIDの不正売買・盗難といったセキュリティー面での問題も報告されていることから、ネットワークの安全性確保も今後の焦点となるでしょう。
ワールドコインが真の金融インクルージョンを実現する上で重要な役割を担うポテンシャルを秘めています。将来的に幅広いサービスで普及すれば、日常使いできるAI・Web3.0時代のデジタルID・通貨としての価値が高まるかも知れません。Wealth Roadでは、今後もブロックチェーン技術関連・暗号資産に関する動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=153円
※上記は参考情報であり、特定の銘柄の売買および投資を推奨するものではありません。