「どうしてもお金が貯まらない」という人は、脳に浪費癖がついているのかもしれません。浪費も貯蓄も、毎日の習慣の積み重ねです。浪費と貯蓄のメカニズムを心理学や脳科学の観点で理解し、貯蓄できる脳に切り替えてみませんか。
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なぜ、人は浪費に走るのか?
たとえば100万円をもらい、自由に使えるとします。「貯蓄するのとショッピングやグルメ、旅行などに散財するのと、どちらが楽しいと思うか」と聞かれたら、「散財」と答える人が圧倒的に多いでしょう。
これは、貯蓄するとお金が単なる「数字」となってしまうのに対し、散在し、お金を商品やサービスに交換することで、喜びや楽しみ、満足感を実感として人間にもたらしてくれるからです。
人間の心と体は、一体になってはじめて有益な行動を起こすように設計されています。人間には感情があるので、喜びや楽しみ、快感といった「満足感」につながる要素がなければ、何かを選択し行動するモチベーションは生まれないのです。
そもそも心とは、人間の感情や理性、意思などの働きの源となるものです。そして、実際の感情を作り出すのは脳の中の扁桃体という部分で、感じた内容に合わせて体全体に信号を送り出します。嬉しい時には体が弾むように軽かったり、悲しい時には鉛を引きずるように重くなったりするのは、このように心と体がつながっているからです。何かを選ぶとき、人が嬉しくて体が弾むように感じる選択をしてしまうのは自明の理といえるでしょう。
銀行に預けたお金は「数字」となってしまいます。数字では、喜びや満足感が実感としてわかりにくいのです。多くの人が貯蓄よりもお金を使うことを選び、いつしか浪費に走ってしまうのは、この貯蓄におけるお金への実感不足が理由となっています。
「貯蓄プロセスを楽しむ」思考転換
貯蓄ができないのは、貯蓄という行為を楽しんでいないから、と言うこともできます。確かに通帳に並んだ金額を単なる「数字」として眺めているだけでは、楽しみは感じられないでしょう。
しかし貯めたお金で実現できることを想像し、貯蓄という行為を「より大きな満足感を手に入れるためのもの」と考えると、貯める楽しみが生まれるのではないでしょうか。これが「貯蓄や投資には目的が大切」と言われる理由です。
「貯蓄脳」へ切り替える3つの方法
この他、「浪費脳」から「貯蓄脳」に切り替える方法には、アメリカ心理学会などが提案する以下のようなものがあります。
「貯蓄脳」への切り替え方1:支出・収入を視覚化する
デジタルキャッシュ化が急速に進み、現金を手にする機会が減ることで、お金はますます単なる「数字」になりつつあります。「デジタルキャッシュ化が浪費に拍車をかける」という指摘もありますが、一方、テクノロジーの進化をポジティブに生かし、お金を視覚化することができます。
テクノロジーを活用した情報の視覚化は、広範囲な分野において問題点の特定や分析、改善などに役立てられています。こうした発想を取り入れ、家計簿アプリなどを利用し、支出と収入の流れをひと目でわかるようすることで、無駄な浪費や節約できることが目につきやすくなります。ある程度続けていくと、節約ポイントを見つけるのが速くなり、お金を貯めることにも楽しさを感じられるようになるでしょう。
最近は「家計簿が続かない」という人でも続けられるようにレシートをスキャンするだけのアプリや、お金の流れを記録するだけでなく、予算や貯蓄目標に合わせて最適なアドバイスをしてくれるアプリもあります。
「貯蓄脳」への切り替え方2:「毎月○○円」ではなく、毎日少額を貯蓄する
「人間はストレスなどが原因で意思が弱くなっている時、浪費に走る傾向がある」ことが、アメリカ心理学会(APA)の調査で明らかになっています。つまり「浪費癖がある人は、意思が弱い傾向がある」ということです。
意思の弱い人にとって、長期的な貯蓄計画は気の遠くなるようなプロセスに感じられるため、貯蓄を始める気が起きないかもしれません。
しかし、「貯蓄計画を細分化し、1回の貯蓄額を減らして貯蓄の回数を増やす」という手法に切り替えると、上手くいくことがあります。たとえば「2年間で50万円貯める」と決めた場合、1年約25万円、1ヵ月約2万円と考えるとプレッシャーに感じますが、日割り計算をすると約650円です。毎日のランチを少し節約し、貯蓄に回すだけで、2年後には50万円が貯まっているのです。
こまめに貯蓄を管理するのが苦手な人は、お釣り貯金アプリなどを利用するのも一案です。「気づかないうちに目標金額に達していた」ということも、十分に有り得ます。
「貯蓄脳」への切り替え方3: 一定程度のウェイティング・タイムを持つ
「〇〇が欲しい」と思ったら、一定のウェイティング・タイム(待ち時間)を持つと、「欲しい」という気持ちが不思議なくらい収まります。特に衝動買いの欲求に対しては効果的です。たとえば24時間待ってみて、あらためて欲しい気持ちを確認してみるのです。
ウェイティング・タイムの間に、「本当に必要なものか」「なぜ欲しいのか」「手に入れたとして、満足感はどれくらい続くのか」など、様々な質問を自分に投げかけてみましょう。
誘惑に打ち勝つ習慣を身に着けるのも、貯蓄の醍醐味の1つです。この衝動買い防止策を利用して誘惑に打ち勝った時は、欲しかったものの金額の〇%かを貯蓄に回せば、節約と貯蓄が同時にできて一石二鳥です。
脳を鍛えて「浪費したい」心を制御する
医療の専門家によると、脳は心にとってのCPU(中央処理システム)であると考えられるそうです。脳は、感情や思考、創造力といった「心の中身」を表面化させるCPUの役割を果たしているのです。ですから、脳を鍛えることで「浪費したい」という感情を抑えることができ、貯蓄を楽しめる脳に切り替えていくことも可能です。
ハーバード大学 メディカル・スクールのレポートによれば、脳は定期的に鍛えることにより、何歳になっても学習・成長する能力があります。貯蓄脳への転換を新しいチャレンジにしてみると、日々のお金の使い方にもメリハリが出てくるかもしれません。