2020年4月から「同一労働同一賃金推進法」が施行され、安倍政権が推進する働き方改革の一環である「同一労働同一賃金制度」がついにスタートしました。これは、職務内容が同じであれば、正社員や非正規社員といった雇用形態の違いを問わず、同じ金額の賃金を支払うという制度です。
世界の先進国に目を向けると、そんなことは常識とも言えるのですが、ようやく日本でも大企業から順を追って導入されていきます。これまで非正社員として働いてきた人たちの待遇改善が期待されますが、一方で正社員の人たちには給与や待遇に影響がもたらされる可能性もありそうです。考察してみましょう。
企業が「同一労働同一賃金制度」を導入すると、そこで働く人たちにはどのような影響が及ぶのでしょうか。まず勤務先は、正社員と非正規社員の職務内容についてあらためて確認作業を行ったうえで、同様の待遇とすべき対象を絞り込むはずです。
同じ職務をこなしていた非正規社員の賃金が正社員よりも低かった場合は、それを是正するために、勤務先は新たな人件費負担を強いられることになります。新型コロナウイルスの影響で世界的に景気後退が懸念されていることもあり、多くの企業はこうしてコストが増えたままの状態を見過ごすことはないでしょう。
新たに増えた人件費の負担が経営を圧迫するなら、人員整理を検討する可能性も考えられます。しかも、いままでなら非正規社員から整理が進められていきましたが、「同一労働同一賃金制度」の導入を機にそのようなことをあからさまに行うと、企業は世間から批判を受ける恐れがあります。
場合によっては、企業側から見てコストパフォーマンスの低い(売上に対し生産性が伴っていない)正社員が整理の対象となってくるかもしれません。
これまで非正規社員を冷遇していた企業では、大幅な改善が求められてくることになるでしょう。かといって、正社員の賃金を引き下げることで帳尻を合わせるというのは乱暴すぎますし、現実的には難しいものです。
しかしながら、働き方改革(長時間労働の是正)を理由に残業時間を縮小し、正社員に対するトータルでの人件費のカットを行うことは考えられるでしょう。あるいは、月々の給与ではなく、賞与をカットして帳尻を合わせるということも起こってくるかもしれません。
もちろん、国はフェアな環境を求めて「同一労働同一賃金制度」を推進しているわけです。しかし結果的には、その導入を境に非正規社員の待遇改善が見込まれる一方で、人員整理の際には非正規社員ばかりではなく正社員もその対象になり得るというケースが出てくるかもしれません。そしてそういった動きがあった場合には、人材の流動化が促されるかもしれません。
非正規社員の賃金を引き上げることに起因して正社員の待遇が悪くなれば、当然ながらその企業の正社員の間では不満が募ることでしょう。そういった企業では、「同一労働同一賃金制度」の導入がきっかけとなり、正社員の中から転職しようと思う人が増えても不思議はなさそうです。
こうして転職希望者が増えれば、もともと人手不足が深刻であっただけに、優秀な人材を求める企業は獲得をめざして好待遇を提示してくることも期待されます。そういったチャンスを生かして転職に成功すれば、キャリアアップと収入アップの一挙両得もあり得るかもしれません。もちろんこの制度の導入で、非正規社員の待遇は改善していくことが見込まれます。
そして、転職での成功や待遇の改善などにより収入的にもゆとりが生じれば、おのずと資産形成も進めやすくなってきます。考え方や取り組み方次第では、「同一労働同一賃金制度」という国策がこのような好循環をもたらす可能性があるわけです。
このように働く人たちを取り巻く環境は、2020年4月から大きく変わっていくことになります。この機にあらためて、自分自身の働き方について考えてみてはいかがでしょうか。