確定拠出年金のメリットとは?退職金との違いを解説

確定拠出年金が退職金の代わりになる人には、自営業・フリーランスが考えられます。iDeCoや企業型DCの運用期間や運用方法によっては、退職金とほぼ同等の金額を貯めることも可能です。実際、どのような制度なのか確認して、資産形成に役立てていきましょう。

確定拠出年金は2001年に創設されて以来、加入者や運用資産額が増え続けています。個人型・企業型のいずれも老後資産の形成につながりますが、退職金の代わりにはなるのでしょうか。

本記事では老後が不安な人に向けて、確定拠出年金と退職金制度を分かりやすく比較しました。両制度の違いを確認して、ご自身に合った資産形成を考えてみましょう。

確定拠出年金が退職金の代わりになる人もいる

会社で導入されている制度や勤続状況によっては、確定拠出年金(企業型DC)が退職金の代わりになることもあります。企業型DCで毎月多くの掛金を拠出した場合や、運用で年金資産を増やすことができる場合は、退職金に相当する金額を定年退職後に得られるケースがあります。

また、転職が多い人は退職金の基準となる勤続年数が伸びづらいため、確定拠出年金のほうが有利かもしれません。実際にどちらが有利になりやすいのか、ここからは両制度の特徴を細かく見ていきましょう。

確定拠出年金が退職金の代わりになる状況

確定拠出年金で掛金を運用した結果、退職金と遜色ない金額の運用益を出せると、退職金の代わりになったといえるのではないでしょうか。

大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の人が35年以上働いた場合の退職金は平均1,897万円であるため、この金額分の運用益を出す必要があります。

例えば、毎月4万円を30年間、年利5%で運用できた場合(※1)、運用益は約1,889万円(※2)となります。毎月掛金を拠出することで1,440万円の元本が貯まり、合計で約3,329万円の老後資金が貯まる想定です。

(※1)実際の値動きは日々変動、各種手数料・税金を考慮せずに計算。
(※2)金融庁「資産運用シミュレーション」を活用して計算。

iDeCoが退職金の代わりになる人

自営業やフリーランスの人は、退職金の代わりになる老後資金を手に入れる方法を用意しておくこと大切です。その際に、iDeCo(個人型確定拠出年金)が役立ちます。この制度で資産を運用することで、最終的に十分な老後資金を貯められる可能性があります。

仕事を辞めるタイミングでiDeCoで運用していた資金を引き出せば、会社員の退職金と同じような形式で老後資金が手元に入ってきます。

確定拠出年金には「個人型」と「企業型」がある

確定拠出年金は、毎月拠出した掛金で金融商品を運用し、積み立てた資産を年金または一時金として受け取れる制度です。原則60歳までは資産を受け取れませんが、確定拠出年金では以下の節税効果を得られます。

<確定拠出年金の節税効果>
・拠出した全ての掛金が所得控除の対象になる
・全ての運用益が非課税になる
・給付時にも控除が適用される

確定拠出年金には個人で加入する「個人型(iDeCo)」と、事業主が掛金を負担する「企業型(企業型DC)」があります。両制度の違いも簡単に確認しておきましょう。

主な違い 個人型(iDeCo) 企業型(企業型DC)
加入対象者 国民年金の被保険者 導入している会社の従業員
掛金 加入する個人が負担 事業主が負担
拠出限度額
(月額)
1万2,000円~6万8,000円
(※1)
2万7,500円または5万5,000円
(※2)
掛金の扱い 全額が所得控除の対象 全額を損金算入できる
運用商品 口座開設した金融機関の取扱商品 会社が委託した金融機関の取扱商品

企業型DCは、会社が運営主体となる制度です。原則として会社が掛金を負担しますが、「マッチング拠出す(※3)」と呼ばれる制度が導入されている場合は、上乗せする形で従業員個人も掛金を拠出できます。

(※1)職業や企業年金の加入状況で異なる。
(※2)確定給付型年金の実施状況で異なる。
(※3)事業主分の掛金は損金、従業員分の掛金は所得控除の対象になる。

なお、企業型DCに加入できるのは、制度として導入されている会社の従業員のみです。制度自体が存在しない場合は、マッチング拠出も含めて利用できません。

退職金は約9割の会社が支給している

会社から支払われる退職金(退職給付)には、一括で受け取れる「退職一時金」と、年金形式で受け取る「退職年金(企業年金)」があります。このうち退職一時金が、一般的に退職金と呼ばれるものです。

厚生労働省の「就労条件総合調査(平成30年)」によると、2018年時点では9割以上の会社が退職一時金を導入しています。

会社の規模 退職一時金の導入割合
1,000人以上 75.2%
300~999人 81.9%
100~299人 87.5%
30~99人 94.6%
全体 91.4%
(参考:厚生労働省「3_退職給付(一時金・年金)制度」)

退職給付には導入義務がないため、退職一時金の計算方法は会社によって異なります。参考として、以下では2018年時点での平均額を紹介します。

勤続年数 大学・大学院卒
(管理・事務・技術職)
20~24年 1,058万円
25~29年 1,106万円
30~34年 1,658万円
35年以上 1,897万円
平均 1,678万円
勤続年数 高校卒
(管理・事務・技術職)
20~24年 462万円
25~29年 618万円
30~34年 850万円
35年以上 1,497万円
平均 1,163万円
勤続年数 高校卒(現業職)
20~24年 390万円
25~29年 527万円
30~34年 645万円
35年以上 1,080万円
平均 717万円
(参考:厚生労働省「4_退職給付(一時金・年金)の支給実態」)

退職一時金は勤続年数や歴、職種によっても傾向が異なります。上記のデータはあくまで目安なので、将来受け取れる金額を知りたい人は、勤務先の就業規則などを確認しましょう。

確定拠出年金が退職金の代わりになるか徹底比較

企業型DCと退職金には、どのような違いがあるのでしょうか。ここからは五つの点に絞って、両制度の仕組みや特徴を比較しました。

比較項目 企業型DC 退職金
資金の積立方法 原則として会社側が負担(※) 会社が用意する
節税の対象 拠出時・運用時・給付時 退職所得控除
受け取れる金額 積み立てた掛金+運用益 勤続年数や退職事由、会社への貢献度などが反映される
受給方法 原則60歳~75歳に受給
受け取り方は一時金または年金
退職から1~2ヵ月後に受給
受け取り方は一時金のみ
転職後の影響 転職先の企業型DCやiDeCoに資産を移管できる 勤続年数が基準の場合は受給額が減る

具体的な違いを一つずつ確認していきましょう。

(※)マッチング拠出では従業員も上乗せできる。

比較1.資金の積立方法

企業型DCの掛金は、原則として会社側が負担します。マッチング拠出を利用する場合は従業員個人も拠出できますが、そのケースでも会社が一定額を負担することは変わりません。

一方で、退職金については制度の仕組みに関わらず、全ての資金を会社側が用意します。計算方法は退職金規定で定められており、従業員自らが積立をして金額を増やすことはできません。

比較2.節税のしやすさ

退職金に適用される控除は、退職所得控除のみです。従業員が資金を積み立てることはなく、金融商品などの運用もできないため、給付時にしか節税効果はありません。

一方で、企業型DCでは三つのタイミングで節税効果があります。

<企業型DCの節税効果>
拠出時:マッチング拠出分が所得控除の対象になる
運用時:全ての運用益(投資信託や預貯金などの利益)が非課税になる
給付時:一時金には退職所得控除、年金には公的年金等控除が適用される

所得控除とは、対象となる金額を課税所得から差し引ける制度です。例えば、一般的なサラリーマンがマッチング拠出で月2万円を拠出した場合は、年収などの課税所得から年24万円(2万円×12ヵ月)を差し引けるため、その分の税金を抑えられます。

また、通常の投資では運用益に対して20.315%(所得税+住民税)の税金が課されますが、企業型DCではこの税金もかかりません。

比較3.受け取れる金額

企業型DCの受給額は、「積み立てた掛金+運用益」で決まります。そのため、毎月同じ金額を拠出していた場合でも、金融商品の運用状況によって受給額が変動します。

一方で、退職金は会社によって計算方法が異なります。

以前は「退職時の基本給×勤続年数による係数×退職事由別の係数」で計算する基本給連動型が多く見られましたが、支給総額が増加しやすいため、近年では以下のような方式が増えています。

<別テーブル方式>
退職金の計算要素に、退職時の基本給を含めない方法です。勤続年数や退職事由などを基準にテーブル(表)を作成し、そのテーブルに沿って退職金が計算されます。変動する基本給の影響を受けないため、将来の受給額・支給額を把握しやすい特徴があります。

<定額方式>
勤続年数のみで退職金を計算する方法です。別テーブル方式よりも仕組みが簡単であり、勤続10年で300万円、勤続20年で500万円のように退職金が決められます。

<ポイント制方式>
特定の実績をポイント制にし、「ポイント単価×累積したポイント」で退職金を計算する方法です。ポイント加算の例としては、勤続25年や資格の取得、人事考課点などがあります。別テーブル方式や定額方式に比べると、個人の能力や貢献度が評価されやすい仕組みです。

企業型DCと退職金の受給額は状況次第で変わるため、一概に比較することはできません。まずは大まかな金額が分かりやすい退職金からチェックし、企業型DCでそれ以上の資産を積み立てられるかを慎重に判断しましょう。

比較4.受給方法

企業型DCの受給開始年齢は、以下のように細かく決められています。

<企業型DCの受給開始年齢>
・加入期間が10年に満たない場合は、61歳~65歳までの間で選択する
・加入期間が10年を超える場合は、60歳~75歳までの間で選択する
・60歳以降に加入した人は、加入5年後から積立金を受け取れる

受け取り方法には「一時金」と「年金」があり、まとめて受け取る一時金には退職所得控除、分割で受け取る年金には公的年金等控除が適用されます。

一方で、退職金の受給時期は退職から1~2ヵ月後が一般的です。受け取り方は一時金のみであり、年金形式のものは「退職年金(※)」として区別されています。

(※)企業型DCの他、確定給付企業年金や厚生年金基金がある。

<退職所得控除とは>
勤務先から退職金を受け取った場合に、その一部が課税所得から控除される制度です。適用後の退職所得については、以下の式と表を使って計算されます。

(収入金額-退職所得控除額×1/2)=適用後の退職所得

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数(※80万円が下限)
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

企業型DCの場合は、掛金の払い込み期間を「勤続年数」として計算します。

<公的年金等控除とは>

確定拠出年金やその他の企業年金、老齢基礎年金などを受け取った場合に、年金の収入金額から一定額を控除できる制度です。年齢や受け取った年金額、年金以外の合計所得金額によって控除される金額が変わります。

以下では参考として、年金以外の合計所得金額が年間1,000万円以下だった場合の控除額を紹介します。

<65歳未満の場合>

公的年金等の収入額 控除適用後の雑所得の計算方法
60万円以下 0円
60万円超~130万円未満 収入額-60万円
130万円以上~410万円未満 収入額×0.75-27万5,000円
410万円以上~770万円未満 収入額×0.85-68万5,000円
770万円以上~1,000万円未満 収入額×0.95-145万5,000円
1,000万円以上 収入額-195万5,000円

<65歳以上の場合>

公的年金等の収入額 控除適用後の雑所得の計算方法
110万円以下 0円
110万円超~330万円未満 収入額-110万円
330万円以上~410万円未満 収入額×0.75-27万5,000円
410万円以上~770万円未満 収入額×0.85-68万5,000円
770万円以上~1,000万円未満 収入額×0.95-145万5,000円
1,000万円以上 収入額-195万5,000円

比較5.転職後の影響

勤続年数によって退職金が決まる会社では、転職をすると受け取れる退職金が減ってしまいます。特に数年で転職を繰り返す場合は、受給条件を満たせなくなる可能性もあるので注意しましょう。企業型DCについては、転職先の状況によって継続できるかどうかが変わってきます。

<転職先に企業型DCがある場合>
転職先に企業型DCがある場合、転職先の企業型DCに加入することで、転職前に積み立てた資産に移管することができます。その際は、資格喪失月(退職月)の翌月から6ヵ月以内に移管手続きを済ませましょう。

<転職先に企業型DCがない場合>
転職先に企業型DCがない場合、次の選択肢があります。

・iDeCoに加入し、拠出や運用を継続する
・iDeCoに加入し、これまでの資産で運用だけを行う
・解約して脱退一時金を受け取る

iDeCoに資産を移したい場合は、退職から6ヵ月以内の手続きが必要です。いずれの手続きもせずに放置すると、積み立てた資産が国民年金基金連合会に自動移管されるため注意してください。

実際に資産が自動移管されると、退職所得控除に係る加入期間が加算されなかったり、手数料が発生したりします。

確定拠出年金と退職金は同時に受け取れる?

退職金の受け取りが60~75歳の場合は、確定拠出年金の受給開始時期を調整することで、同じ年内に受け取ることができます。ただし、翌年に支払う税金を考えると、同一年内での受け取りは損になることがあります。

一時金で受け取ると退職所得控除が一本化される

確定拠出年金の一時金と退職金は、同じ退職所得として扱われます。そのため、同一年内に両方を受け取ると、退職所得控除が以下のように一本化されてしまいます。

<退職所得控除が一本化される例>

2023年に確定拠出年金を1,000万円、退職金を800万円受け取ったとします。勤続年数・加入年数を10年とすると(※実際には年数が長い方で判定)、その年の退職所得は以下のように計算されます。

40万円×勤続年数=退職所得控除額
40万円×10年=400万円

(収入金額-退職所得控除額)×1/2=適用後の退職所得
(1,000万円+800万円-400万円)×1/2=700万円

退職所得控除額は400万円でしたが、「確定拠出年金+退職金」がこの金額を超えたため、700万円に対して課税される結果となりました。税金面で損をしたくない人は、退職所得控除を計算した上で受け取り方を判断する必要があります。

企業型DCと退職金がない場合に代わりになる投資

勤務先に企業型DCや退職金がない場合は、どのような方法で老後資産を作れば良いのでしょうか。ここからは主な選択肢として、3つの代替手段を紹介します。

iDeCo(個人型確定拠出年金)

前述でも紹介したiDeCoは、国民年金の加入者を対象にした個人型の確定拠出年金です。掛金は加入者自身で負担しますが、毎月5,000円から1,000円単位で拠出できる仕組みになっています。

加入者の属性 毎月の拠出限度額
国民年金第1号被保険者
(自営業者やフリーランスなど)
6万8,000円
国民年金第2号被保険者
(厚生年金保険の加入者)
会社員:1万2,000円~2万3,000円(※)
公務員:1万2,000円
国民年金第3号被保険者
(専業主婦や専業主夫など)
2万3,000円
国民年金任意加入被保険者 6万8,000円
(※)勤務先が導入している年金制度や、事業主が拠出している掛金によって変動する。

iDeCoを利用する金融機関は加入者自身が決めるため、口座開設先によっては豊富な商品から運用するものを選べます。商品ラインナップや手数料などを比較した上で、ご自身に合った金融機関を選びましょう。

新NISA

2024年1月から始まる新NISAは、上場株式や投資信託、ETFなどの運用で得られた運用益が非課税になる制度です。NISA自体は2014年からありますが、新NISAでは年間投資枠の拡充が予定されています。

投資枠の種類 つみたて投資枠 成長投資枠
対象年齢 18歳以上
年間投資枠 120万円 240万円
対象商品 長期積立・分散投資に適した投資信託やETF 上場株式や投資信託など
非課税保有期間 無期限化
口座開設期間 恒久化
保有限度額(総枠) 1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで)
(※上記は2023年6月時点での概要。)

新たに金融商品の保有限度額は設けられますが、つみたて投資枠と成長投資枠を併用した場合は、最大で年間360万円までの商品を購入できます。

個人年金保険

個人年金保険は、公的年金とは別に年金資産を積み立てるための商品です。任意で加入することができ、決められた受給開始年齢に達すると、毎月の保険料や加入期間に応じた年金を受け取れます。

個人年金保険の特徴は商品によって異なり、定額型と呼ばれる商品では事前に決めた予定利率をもとに、支払った保険料(年金の原資)が運用されます。一方、変動型では加入者自身が金融商品(投資信託など)を選び、運用状況によって受け取れる年金が変動します。

なお、支払った保険料には生命保険料控除が適用されますが、払い込み期間や受取人などに関する要件があるため、加入前に確認しておきましょう。

退職金の代わりを準備しておこう

退職金規定がきちんとしている会社でも、制度変更や減額の可能性がないとは言い切れません。この他にも転職や経営悪化など、退職金が減るリスクはいくつか考えられます。

どのような状況になっても対応できるように、早いうちからさまざまな資産形成を検討し、退職金の代わりになる方法を用意しておきましょう。

※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。
※本記事は資産運用に関わる基礎知識を解説することを目的としており、資産運用を推奨するものではありません。

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