人口増加や高齢社会化、医療機関における慢性的な人手不足、医療格差の拡大といったさまざまな課題を背景に、医療・ヘルスケアの持続可能性を見直す動きが世界中で加速しています。海外スタートアップの持続可能なヘルスケアに関する取り組みをレポートします。
目次
人と地球の健康を育む持続可能な医療・ヘルスケア
持続可能な医療・ヘルスケアとは「病気の予防」「医療・ヘルスケアへのアクセス」「環境負担の軽減」の3つのキーワードを柱に、「心身の健康」と「地球の健康」を育み、それを長期的に維持するためのシステムを指します。
医療機器の製造から廃棄物の生成・処理、病院の運営まで、医療・ヘルスケアシステムは長年にわたり、環境に大きな負荷をかけてきました。世界経済フォーラムによると、世界の医療システムのCO2排出量は全体の4%以上を占めています。
実際、気候変動は「21世紀最大の健康上の脅威」とされており、世界保健機構は年間1,300万人以上が「回避可能な環境原因」により死亡していると推定しています。
医療・ヘルスケアが直面している課題は、気候変動だけではありません。人口増加や少子高齢化による医療需要の拡大と現役世代の減少、経済成長の伸び悩みによる社会保障のひっ迫、医療格差など、既存の医療・ヘルスケアは根本的な改革を迫られています。
医療・ヘルスケアの変革を狙う海外スタートアップ3社
このような背景から、持続可能な医療・ヘルスケアは投資対象としても注目が高まっている領域です。近年はデジタルツールを活用し、システムの効率化・低コスト化を図る動きや、環境を配慮した医療・ヘルスケアを促進する動きが活発化しています。
持続可能な医療・ヘルスケアに挑む、海外スタートアップ3社の取り組みを見てみましょう。
処方箋サービス「Truepill」
医療従事者の負担を軽減し、患者がアクセスしやすい医療環境を作る上で、医療システムの効率化は重要な課題です。コロナ禍で医療システムのデジタル化が進んだとはいえ、まだまだマニュアルに依存している作業も多くあります。処方箋の手配・受取もその一つです。
2016年にカリフォルニアで設立されたTruepill(トゥルーピル)は国内のネットワークを活用し、処方箋の受注・決済・配送までを代行するサービスを提供しています。同社のソリューションを利用すると、オンライン医療の事業者は処方箋を手配し、薬局から直接患者に配送することが可能になります。
現在は世界の大手医療機関と提携しており、ユニコーン企業(※)へと成長を遂げています。
(※)時価総額が10億ドル(約1,390億円)以上の未上場企業のこと。
医療格差のない持続可能な医療を目指す「City Block」
特に医療保険や医療費の自己負担額が高い国においては、あらゆる層の人がアクセスしやすい高品質で安価な医療を求める声が高まっています。このような声に耳を傾け、「医療格差のない持続可能な医療システム」の構築を目指しているのは、ニューヨークを拠点とするCity Block(シティ・ブロック)です。
同社は保険会社と提携し、医療からメンタル、育児支援、安全な住宅へのアクセスまで、健康に影響を与える可能性のある広範囲なサービスを健康保険プランの特典として提供しています。加入者は提携している保険会社の保険プランを介し、必要なサービスを必要な時に受けることができます。
同社は2017年の設立以来、総額8億9,130万ドル(約1,238億9,070万円)を調達しました。
世界初の脱プラスチック医薬品システム「Cabinet Health」
薬剤に使用されている、使い捨てのプラスチック容器。そのうち、年間約1,900億個が海や埋め立て地に捨てられているといいます。
世界初のプラスチックフリーのオンライン薬局であるCabinet Health(キャビネット・ヘルス)は、詰め替え・堆肥化(※)ができる容器を開発・採用することにより、環境に優しい医薬品システムの構築を目指しています。
同社は2018年にニューヨークで設立されて以来、総額2,350万ドル(約32億6,650万円)を調達しました。
(※)微生物を活用して生ごみなどの有機物を発酵・分解させて有機肥料を作ること。
健全な経済発展を目指す上で欠かせない重要課題
心身の健康の維持・向上は、より良い社会を築き、健全な経済発展を目指す上で欠かせない重要課題でもあります。「持続可能な医療・ヘルスケア」への取り組みは今後も加速すると予想されていることから、投資の拡大も期待できるでしょう。Wealth Roadでは、引き続きサステナビリティと医療・ヘルスセクターの動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=139円
※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買及び投資を推奨するものではありません。