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世界の中央銀行の決定は、各国の明確な違いを映し出している

世界の中央銀行の決定は、各国の明確な違いを映し出している

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〔要旨〕

  • FRB:FRBは6月に政策金利を据え置く決定をしたが、年内にあと2回の利上げを見込んでいる
  • ECB:ECBは利上げを決定し、インフレ抑制に向けて、まだやるべきことがあると明言した
  • 日本および中国:日本は緩和的な政策を維持し、中国は景気を押し上げるため利下げを行った

FRBは、当面金利を据え置く

ECBは利上げを継続

日本銀行は粘り強い姿勢を保つ

中国人民銀行は経済成長の後押しを目指す

次は、イングランド銀行

投資家はこれらの動向に反応

先週は、4つの主要な中央銀行による政策決定が行われ、金融政策にとって重要な週となりました。これらの決定は、それぞれの国が全く異なる状況にあるという事実を映し出しています。

FRBは、当面金利を据え置く

今週は、米連邦準備制度理事会(FRB)が金利を現行水準に維持するとの決定から始まりました。しかし、それは明らかにタカ派的な一時停止にすぎず、FRBは、さらなる利上げが近いうちに行われる可能性を示唆しました。「ドットプロット(米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーによる金利予測分布図)」と呼ばれる経済予測サマリーは、FRBが今年あと2回の利上げを見込んでいることを示しました。これは、コアインフレ率の頑強な高止まりへの懸念に基づくもので、FRBはコアインフレ率の見通しを上方修正し、年末の失業率の見通しを下方修正しました。ドットプロットは、政策的対応について各FOMCメンバーの考え方を示すものであり、時には大きく間違えたり、時間の経過とともに変化することもあります。2021年12月に発表されたドットプロットで、2022年末のFF金利の中央値が0.9%と予測されたのを覚えておいででしょうか1。実際には、2022年末のFF金利は4.25%~4.5%のレンジとなり、結果的にFRBは大きく間違えました1

パウエルFRB議長が記者会見で、「ほぼすべての」FOMCメンバーが、インフレ抑制のために2023年の間にさらなる利上げが必要、と予想したことを明かしましたが、市場はこうした状況を受け流したようです。私は、このタカ派的なドットプロットとパウエル議長のタカ派的な発言は、市場が2023年中の利下げを予想するのを阻止し、金融環境を緩和させないようにとの意図で行われたものだと考えています。FRBはインフレの低下を維持し、再加速を防ぎたいと考えているでしょう。

FRBが対峙しているのは、積極的な引き締めサイクルに非常にうまく対応しているように見える、堅調な米国経済です。労働市場は驚くほどタイトなままとなっており、これはインフレが頑強に高止まりすることを示唆している可能性があります。そのため、FRBはタカ派的な利上げの一時停止を行いつつ、さらなる引き締めを行う可能性を「ダモクレスの剣」のように市場に突き付けている状況を、程良いと考えているようです。

とはいえ私は、もしFRBがあと2回の利上げを今年行うのであれば、それは本当に行き過ぎとなり、経済を大幅な景気後退に追い込むリスクがあると考えています。壊れたレコードのように聞こえるかもしれませんが、改めて言います: 金融政策の実行から、実際に実体経済のデータに現れるまでには、長いラグがあり、これはパウエル議長も記者会見で認めています。このラグがあるために、私たちはまだその影響のほとんどを目の当たりにしていません。だからこそ、行き過ぎには注意しなければならないのです。私は、現今のFOMCは、2006年5月のFOMCで次のように述べた、当時サンフランシスコ連銀総裁だったイエレン氏の言葉に耳を傾けるべきだと考えています2

「この会合後に発表されるデータに大きなアップサイド・サプライズがない限り、これまでの政策的対応の効果を見極めるために、このキャンペーンを一時停止することに強く賛成する。…経済が減速していると確信できるまで、会合のたびに利上げを続けたいとの気持ちは確かに理解できる。1994年の政策金利引き上げのエピソードは今でもよく覚えているが、当時も今も、経済には大きな勢いがあり、大きなインフレ上昇リスクがあるとの感覚があった。そのような状況では、引き締めを継続したい衝動に駆られるのは自然で、本能的なことだ。しかし残念ながら、政策のラグがある以上、このような戦略は確実にオーバーシュートを作り出すレシピとなってしまう。1995年に実際に行ったように、今回は運良くちょうどいいところで止めることができたとしても、止めた瞬間は危険だと感じ、振り返ってみて初めて、賢明だったと感じることになるのは確実だろう。私の見解では、今や政策のリスクには、二面性がある…」

ECBは利上げを継続

欧州中央銀行(ECB)は、先週利上げを決定しましたが、今後もさらなる利上げが予想されています。私は、これは適切な判断だと考えます。ユーロ圏経済は、米国経済とは異なる状況にあります。ECBは利上げを開始した時期がより遅く、またそれほど積極的に行ってはきませんでした。とりわけECBは、FRBやイングランド銀行よりも長く、「インフレが一過性のもの」との考え方に捉われてきました。

ユーロ圏経済が再開すると、需要が非常に力強いことがわかりました。加えて、英国などの欧州各国の政府は、価格統制や補助金により自国経済をエネルギー価格ショックから守ることで、事実上、家計と企業両方の支出を支援しました。その結果、ユーロ圏(および英国)の消費、企業支出は予想以上に好調となり、インフレ率も予想以上に高くなりました。従って、ラガルドECB総裁が「まだやるべきことがある」と明言したことは、驚きではありません。

日本銀行は粘り強い姿勢を保つ

日本銀行は先週の金融政策決定会合で、超緩和的な金融政策を維持し、今後も「粘り強く」この政策を継続すると述べました。一部では、日本が過去1年間に予想を上回るインフレを経験し、日銀が雇用と家計収入の見通しを上方修正したことを踏まえて、これに驚く向きもみられました。

日本は主要先進国の中では異例となっています。ここ数十年で最も力強い経済成長を遂げており、日銀はこの成長を早々に終わらせたくはないのでしょう。これに対し、日本円が下落したのは驚くにはあたりません。日銀は今後数カ月または数四半期で、イールドカーブ・コントロール政策に若干の調整を加える必要があると思われますが、主要政策金利をより長く低い水準に保ち、(数十年間低迷してきた経済にとっては幾分歓迎すべき面もあることから、)インフレ率の上昇リスクを容認する意向のようです。

中国人民銀行は経済成長の後押しを目指す

そして中国人民銀行は、世界の多くが金融引き締めを行う中、実際に緩和的な金融政策を拡大しました。これは理にかなっていると思います。私は、景気回復の足取りは長いと考えています。しかしまた、最近の経済データへの失望をきっかけに、中国は他の主要国と比べて、パンデミック時に十分な景気刺激策を取らなかったのではないか、今そうした施策がもっとあれば、経済がより潤うのではないかとの見方が広がっていることも認識しています。中国人民銀行は政策金利を引き下げ、始まったばかりの景気回復を後押ししようとしています。

次は、イングランド銀行

今週は、もう一つの主要な政策決定である、イングランド銀行(BOE)の金融政策決定が控えています。英国は高インフレに悩まされる弱含んだ経済状況にあり、BOEは厳しい状況に置かれています。ただし、英国の成長は、(BOE自身を含む)ほとんどの人々が予想したよりも堅調となっていることは、言っておかねばなりません。

私は、住宅ローン金利の上昇で既に苦しんでいる英国の家計に打撃を与えることになったとしても、BOEは利上げを行うと予想しています。スナク首相は、こうした家計への財政支援は行わないとしており、BOEは、今月初めに利上げを行ったカナダ銀行と同様に、インフレに対抗しようとして、経済を助ける以上に傷つけてしまうリスクがあります。

とはいえ、BOEはおそらく、主要先進国市場の中央銀行の中でも最も、予想以上に積極的かつ長期の引き締めを行うべき状況にあるといえるでしょう。インフレは高く、BOEはこれを制御しなければなりません。インフレと金利の高騰により、英国の消費者が、実質所得と住宅ローン返済の両面でピンチだと感じる可能性が高いことから、短期的には英国株式よりも、英国債とポンドに有利に働くと考えられます。

投資家はこれらの動向に反応

一歩引いて見ると、米国の投資家の一般的なムードはよりポジティブになりつつあります。米国が引き締めサイクルの終わりに既に到達している、またはそれに非常に近づきつつあること、経済(特に労働市場)が底堅く推移していることなどが認識されつつあります。

米国のハイイールド社債のスプレッドはここ数カ月縮小しており、米国経済がソフトランディングする可能性が高いことを示唆しています。これは世界経済にもプラスに働くと思われます。また、FOMO(Fear of Miss Out:投資機会を逸することへの恐怖)による投資機運の高まりを受けて、最新の米個人投資家協会の調査では、2021年11月以来最も広いブルベアスプレッドが示されました3 。金融政策も重要であり、一般的に、リスク資産により有利となってきています。

他の地域では、投資家のセンチメントはそれほどポジティブではありません。例えば、ユーロ圏センティックス投資家信頼感指数は以前から悲観的で、ここ2週間低下しています4 。その一因は、ECBのタカ派的な金融政策スタンスでしょう。さらに、金融・財政刺激策の強化が予定されているにもかかわらず、中国株には既に多くのネガティブなセンチメントが織り込まれているとみられ、過去の評価レンジの下限で取引されています。

ネガティブなセンチメントは、チャンスにもなります。日本銀行や中国人民銀行が緩和的な金融政策を維持、または拡大する一方で、他の主要な欧米先進国の中央銀行が引き締めサイクルの終わり、またはそれに近いところにいるのは米国だけではないだとの認識が、広がっていくでしょう。今こそ、来年以降に上昇する可能性のある、魅力的なバリュエーションを有する資産を探すべき時だと私は考えています。

(執筆協力:アーナブ・ダス、デイビッド・チャオ)

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

1.出所:FRB
2.出所:FOMC議事要旨、2006年5月10日
3.出所:米個人投資家協会(AAII)、2023年6月15日。AAIIの投資家センチメント調査は、株式に対してブル、ベア、ニュートラルの投資家の割合を示す。
4.出所:センティックス、2023年6月5日

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