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下振れる中国経済と政策対応の方向性

下振れる中国経済と政策対応の方向性

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要旨

1-3月期に景気が上振れた反動が想定外に顕在化

中国景気の弱さが明確化してきました。4月に続き、5月の経済データも力強さに欠ける内容となりました。弱さが目立ったのが、輸出、投資、サービス生産(サービス業における付加価値)でした。

不動産投資の弱さが特に注目される

足元での中国の景気を見る上で波及効果などの点から特に注目されるのが、不動産投資のさらなる減少です。居住用不動産の着工面積が足元まで大きく減少していることを踏まえると、少なくとも年内いっぱいは不動産投資の低迷が続く可能性が高いとみられます。

政策対応は今のところ限定的。7月中旬のGDP統計に注目

直近で実施された利下げ策では、現在の中国景気が直面している問題を大きく改善させるほどの効果は期待できません。財政の健全性の維持を志向する中国当局は、現時点では、大規模な財政刺激策の実施や不動産分野での対策の実施に慎重です。ただし、7月17日に公表予定の4-6月期の実質GDP成長率が前期比でマイナス圏に陥る場合には、中国当局が政策対応のギアを上げると見込まれ、注目されます。

1-3月期に景気が上振れた反動が想定外に顕在化

中国景気の弱さが明確化してきました。4月に多くの経済データが下振れた後、5月の経済データに注目が集まっていましたが、先週公表された5月の経済データも力強さに欠ける内容となりました。5月は前年同期比での小売売上高伸び率が12.7%と高水準を記録したものの、これは、主として、上海市などでのロックダウンがまだ解除されていなかったことで前年の水準が高かったことによるものでした。

一方で、弱さが目立ったのが、輸出、投資、サービス生産(サービス業における付加価値)でした。まず、輸出については、ドルベースの前年同月比増加率が、4月の8.5%から、5月には-7.5%に沈みました。輸出の計数は市場予想を大きく下回りましたが、政府版製造業PMIにおける新規輸出受注指数が4、5月に連続して50ポイントを下回っていた点とは整合的であり、アジアの主要国のほぼ全てにおいて直近の輸出が前年の水準を割っていたことを踏まえると、輸出の弱さは驚くにはあたりません。次に、投資については、国家統計局が公表する実質ベースでの都市部固定資産投資統計をみると、経済再開の恩恵が強く顕在化した2023年1~2月までは2022年後半並みの水準を維持できていたものの、3月に弱含み、4~5月にはさらに落ち込みました(図表1)。一方、サービス生産については、インベスコが一定の前提を置いて独自に季節調整すると、経済再開による恩恵によって1~3月に上振れた後、4~5月にはやや減少したことが判明しました(図表1)。この動きは、経済再開によってサービス業の活動がいったんは活発化したものの、その勢いが長続きしなかったことを示唆しています。

当レポートの5月18日号(「中国:経済再開の恩恵が想定より早く剥落?」)では、ゼロコロナ政策の撤廃による経済再開の恩恵が、これまでの想定よりも早く剥落するリスクが高まっている点について指摘しましたが、5月分の経済データを見る限り、そのリスクが現実のものとなったようです。中国の家計は、コロナ禍において相当の超過貯蓄を蓄えるに至りましたが、可処分所得の伸び率がコロナ前に比べて鈍化し、先行きに対する不透明感が強まる中、超過貯蓄を使って消費する動きは弱く、一部で期待されたほどには需要は上振れなかったと言えます。住宅ローンなど家計債務の増加によって家計の元利払い負担が大きくなったことも消費者マインドへの悪影響を通じて内需の拡大を抑制したとみられます。

(図表1)中国:主要経済指標の水準の推移

不動産投資の弱さが特に注目される

足元での中国の景気を見る上で波及効果などの点から特に注目されるのが、不動産投資のさらなる減少です。インベスコが独自に季節調整した不動産投資額(名目ベース)は、1~2月に一時的に上向いたものの、その後減少し続けており、5月の水準は2017~2018年並みに落ち込みました(図表2)。中国の不動産投資は、居住用、商業用、オフィス用という主要3分野の全てで低迷していますが、不動産投資全体の約4分の3を占める居住用不動産の動きが特に重要です。居住用不動産の着工面積の動きをみると、今年5月の水準は、コロナ前の2019年の平均水準よりも61.9%低い水準にまで落ち込んでいました(図表3)。同期間における居住用不動産投資の落ち込み幅が16.6%であったことと、居住用不動産の着工から完工までに1年半程度を要することを踏まえると、少なくとも年内いっぱいは不動産投資の低迷が続く可能性が高いとみられます

(図表2)中国:不動産投資の水準

(図表3)中国:居住用不動産着工・販売面積の水準

政策対応は今のところ限定的。7月中旬のGDP統計に注目

景気が足踏み状態に陥ってきたことが明確になる中、中国当局は政策対応を徐々に積極化させてきました。6月15日に中国人民銀行が市中銀行向けに資金供給をする際の中期貸出ファシリティー(MLF)1年物金利を以前の2.75%から2.65%へと引き下げられ、これに続いて、6月20日には、1年物ローンプライム金利、5年物ローンプライム金利が共に0.1%引き下げられました。こうして実施された利下げ策は景気に対する一定の刺激効果を有するとみられるものの、現在の中国景気が直面している問題を大きく改善させるほどの効果は期待できません。政策に対する金融市場の反応もこれまでのところは限定的であり、CSI300指数でみた株価は4月中旬以降、軟調に推移しています。

一方、中国政府は、6月16日に開催された国務院常務会議において、有効需要の拡大や実体経済の強化に注力する方針を打ち出すとともに、「科学技術型企業の資金調達支援強化行動プラン」と「プライベート投資ファンド監督管理条例」を審議、採択しました。不動産分野で対策が打ち出されていない点は重要です。これは、過去に不動産業が不振に陥った際のように大規模な不動産刺激政策を打ち出す場合、不動産価格が大きく上昇し、現政権が政策目標として注力する「共同富裕」の考え方と辻褄が合わなくなる恐れがあるためとみられます。今後、不動産市場がさらに低迷すれば本格的な不動産刺激策が実施される可能性はあるものの、現時点ではその可能性は低いと考えられます

1-3月期の経済成長が大きく上振れたことで、中国当局が掲げている「5%程度」という成長率目標の達成に向けてのハードルは大きく下がりました。昨年まで大規模な財政政策面での対応を続けた中国当局は、政府債務の増加に対してこれまでよりも警戒感を強めているとみられます。現時点では、大規模な追加的財政刺激策が実施される可能性は低いとみられます。ただ、今年の実質GDP成長率が5%を割るような可能性が強まる場合には、比較的大きな対策が打ち出される可能性があります。7月17日には、6月の主要統計とともに4-6月期のGDP統計が公表される予定です。4-6月期の実質GDP成長率が前期比でマイナス圏に陥る場合には、中国当局が政策対応のギアを上げてくるとみられることから、注目したいと思います

木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト

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