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条件付き一時停止の例
FRBは次にどう動くか?
市場の反応は?
相次ぐ中央銀行会合後の展望
親にとって、条件を付けるのは強力なツールとなります。家事をしたらお小遣いがもらえる。宿題を終わらせないと友達と遊べない、などです。ティーンエイジャーの母親である私の個人的なお気に入りは、きれいに使わないと車を運転させてあげない、という条件です。娘の車は、時にゴミ箱のような状態になり、ファーストフードの容器、スポーツ用品、無造作に捨てられた衣類や化粧品などのゴミを選り分けるのは、精神的に参る、吐き気をもよおす作業です(最悪なのはカップホルダーに放置された飲み物で、それはまるで各季節のスターバックスのドリンクがホットチョコレートと化学反応を起こしたかのような有様です)。しかし、我々親がルールを決め、車の使い方について条件を付けてからは、かなりましになりました((映画「おかしな二人」に出てくる綺麗好きのカメラマンの)フェリックス・アンガーほどの綺麗さではありませんが)。
条件付け-より具体的には、政策金利引き上げの条件付き一時停止-は、中央銀行にとっても強力なツールになり得ます。これにより中央銀行が一息ついて、各国経済にこれまでの利上げを消化する時間をもたらすのを、ハト派的とみなされることなく行うことができます(ハト派的とみなされた場合、金融条件の性急な緩和につながりかねません)。中央銀行は、政策を実行してから経済への影響が出るまでに大きなタイムラグがあることの危険性についても認識しています。一時停止により中央銀行には、データを分析し、今後の政策を熟慮する時間が与えられます。また中央銀行は、インフレが定着する危険性についても認識していますが、条件付き一時停止には、必要に応じて利上げを再開する力があります。利上げが終わったわけではなく、中央銀行がインフレリスクへの警戒を怠っていないとのメッセージを発することで、市場の上にぶら下がる「ダモクレスの剣(古代ギリシャの故事に由来し、栄華の最中にも危険が迫っていることを伝える例え)」のような役割を果たすのです。
最近の条件付き一時停止の例としては、4月にこれを導入したオーストラリア準備銀行(RBA)と、1月に発表を行ったカナダ銀行(BOC)が挙げられます。
比較的短期間に劇的な数の利上げが行われた一方で、サービスインフレの粘着性に対して非常に現実的な懸念があることから、私は、これらの一時停止が条件付きで行われたことは理にかなっていると考えます。条件付き一時停止により、より多くのデータを吟味する時間を稼ぎつつ、インフレ及びインフレ期待のコントロールを継続するという、2つの目標が達成できます。BOCは1月に、次のように説明しました:「今回の小幅な利上げ決定をもって、利上げをいったん停止し、これまで行ってきた大幅な金融引き締めの影響の評価を行う。正確に言えば、これは条件付きの一時停止であり、経済情勢がおおむね我々の(金融政策報告書の)見通しに沿って展開することがその条件となる。インフレ率を目標の2%に戻すために必要な場合は、さらに政策金利を引き上げることもありうる。」1。
先週は、RBAとBOCがともに、条件付き一時停止の導入後に利上げを再開した、きわめて重要な週でした。カナダは、金融政策に関してファーストムーバーとして動いてきたことから、BOCが政策金利を22年ぶりの高水準となる4.75%に引き上げたことは、特に重要だったと考えます。RBAの決定はサプライズでしたが、カナダでは、直近の消費者物価指数(CPI)が予想を上回る上昇率となり、月次では10カ月ぶりの上昇となったことから、BOCの利上げは非常にあり得ることとして予想されていました。
先週の利上げは、中央銀行の政策決定が連鎖的となり、他の中央銀行の利上げにもつながりうることから、重要だったと考えています。実際にBOCは、「主要な中央銀行は、物価安定の回復のため、さらなる利上げが必要かもしれないとのシグナルを発している」と述べ、金融政策の決定において、他の中央銀行の動きに注目していることを明らかにしました2 。
これら全てが、米連邦準備制度理事会(FRB)が今週利上げを行う可能性が高まっていることを示唆していると考えられます。それでも私は、必要であれば利上げを続ける、との(「タカ派的な一時停止」と呼ばれる)断固とした表現を用いた上で、実際にはFRBは動かないと信じています。こうした見方には、多くの方が賛同してくれているようです。先週、私がLinkedInで実施した意見調査では、今週の金融政策決定会合について、55%がFRBが利上げを一時停止するだろうと回答し、43%が利上げを行うだろうと回答しました。
S&P500種指数は、オーストラリアとカナダの利上げにも動じませんでした。おそらく、先週の米新規失業保険申請件数が3週連続で増加し、予想を大きく上回る26万1000件となったこともあるのでしょう3。実際、S&P500種指数は先週、2022年10月12日の底値だった3577.03ドルから20%以上上昇し、新たなブル相場に突入しました4。しかしながら、ひと握りのハイテク株など非常に絞り込まれた銘柄群が市場の盛り上がりをもたらしました。FOMO(Fear of Miss Out:投資機会を逸することへの恐怖)が多くの投資家を株式投資に向かわせていると考えられることから、この盛り上がりは多少続くでしょうが、FRBの政策の不確実性から、短期的に窪みが待ち構えている可能性もあると考えています。
また、日本株の強力なパフォーマンスも注目に値します。先週、日経平均株価は1990年以来の高値で取引を終え、年初来で20%以上も上昇しました4。新型コロナウイルス後の日本の経済成長が予想を上回り、金融政策がこれを下支えしていることと相まって、こうした上昇が後押しされたと考えられます。これが、投資家が米国以外の投資機会について思い起こすきっかけとなれば良いと思います。
今週は数々の重要なデータが発表される、忙しい1週間となるでしょう。しかし、中でも最も重要なデータは米国のCPIです。インフレはもちろんFRBにとって最大の懸念ですが、CPIは、FRBの金融政策決定会合前に出る指標の中で、一番最後のものです。2022年6月、金融政策決定会合の直前に出されたCPIが高かったことが、FRBが、事前に予想されていた0.5%ではなく、0.75%の利上げを行った理由の1つとなったことを思い出してください。あのような転換は再び起こらないとは思いますが、私がこの仕事から学んだことの一つは、絶対にない、とは言い切れないということです。
また今週は、FRB、欧州中央銀行(ECB)、日本銀行という3つの主要な中央銀行の金融政策決定会合があり、その次は6月22日に、イングランド銀行(BOE)の同会合が予定されています。
ECBとBOEは利上げを実施し、ECBは少なくともあと1回、BOEはおそらくそれ以上の回数の追加利上げを示唆する可能性が非常に高いでしょう。これらの中央銀行はより高いインフレ率に直面しており、BOCやFRBなどの中央銀行に比べて後手に回っているため、条件付き一時停止の導入はまだ先になる可能性が高いでしょう。英国もユーロ圏も、ヘッドラインインフレ率は急速に低下していますが、両者ともに、特に英国において、コアインフレ率が上昇し続けるリスクがあります。
日本銀行については、現時点では、植田総裁がまだインフレについて心配していないことは明らかなようです。ですから、日銀は現状維持する可能性がかなり高いと思われます。イールドカーブ・コントロール政策に手を加える可能性はまだ低そうですが、繰り返しになりますが、絶対にない、とは言い切れません。
従って、これから開催される4つの主要な中央銀行の会合のうち、不確実性が他よりもやや高いという点で、FRBの会合が最も重要となるでしょう。現在、市場は利上げの可能性を比較的低く(私たちの意見調査に参加された皆さんよりも更に低く)織り込んでいます。最終的な政策金利の決定がどうであれ、当面の金融政策についてより明確な示唆を得ることができるでしょう。私は、FRBメンバーによるターミナルレート(政策金利の最終到達点)の予想や、FRBの利下げ開始のタイミングについての洞察を得るために、経済見通し(Summary of Economic Projections)に大きく注目する予定です。そしてもちろん、今回の金融政策決定会合終了後の記者会見は、あたかも「必見のテレビ番組 」となることでしょう。そこでパウエルFRB議長から、FRBにおける議論や考え方に関する有益な情報が明らかになることがよくあります。またパウエル議長はこの機会に、FRBが金融政策のアプローチにおいて非常に「条件付き」であるとの姿勢を強調し、「ダモクレスの剣」を市場の上にぶら下げたままにしておく可能性が高いと考えられます。
(執筆協力:アーナブ・ダス)
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
1.出所:カナダ銀行マックレム総裁 金融政策報告書 記者会見冒頭発言、2023年1月25日
2.出所:カナダ銀行声明、2023年6月7日
3.出所:米労働統計局、2023年6月7日
4.出所:ブルームバーグL.P.、2023年6月9日
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MC2023-089