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市場が信頼感の危機に直面する中で政策当局が安心感をもたらす

市場が信頼感の危機に直面する中で政策当局が安心感をもたらす

※インベスコ・アセット・マネジメント株式会社が提供するコンテンツです。

〔要旨〕

  • 迅速な対応をとる政策当局:先週私にとって大きな収穫だったのは、政策当局が引き続き問題の兆候を敏感にとらえ、対応するのを目の当たりにしたこと
  • ハト派的な利上げ:FRBとイングランド銀行が0.25%の利上げを決定したのは、妥当な判断だったと考えられる
  • 災い転じて福となす?:銀行セクターのミニ危機は、中央銀行の過度な引き締めによる幅広い景気後退を防ぐことに役立つ可能性

月曜日・火曜日:政策当局が投資家・預金者に安心感をもたらす

水曜日:FRBによるハト派的な利上げ

木曜日:イングランド銀行が楽観的なトーンを打ち出す

主な収穫

ここからどこへ向かうのか?

先週は、2つの主要な中央銀行がハト派的な利上げを決定し、政策当局が銀行セクターの難局を食い止めるべくいくつか重要な発言を行ったなかで、市場はジェットコースターのような展開を見せました。これらを受けて、今後はどうなっていくでしょうか?私自身は、経済のソフトランディングへの道筋は狭まった可能性はあるものの、銀行セクターのミニ危機は、利上げをより早期に停止させることで、中央銀行の過度な引き締めと幅広い景気後退を防ぐ効果をもたらすという、災い転じて福となす出来事かもしれないと考えています。

それでは、先週の出来事を精査していきましょう。

月曜日・火曜日:政策当局が投資家・預金者に安心感をもたらす

今週は、スイス国立銀行が仲介する形でクレディ・スイスとUBSが必要に迫られて統合するとのニュースで幕を開けました。債権者順位において株式保有者をAT1債保有者より優位に位置づける驚きの決定に、市場は当然ながら動揺しました。しかし、英国や欧州連合(EU)の政策当局は、いちはやく自国の銀行とスイスの銀行とを明確に区別し、一般的な債権者順位を尊重し、破綻に際して最初に損失を被るのは株式保有者であると強調しました。

火曜日に、イエレン米財務長官は米銀行協会のイベントで、米国の銀行システムは強靭だと安心させるようなトーンで語りました。また、米国のすべての銀行の預金を全額保護する方法について、政府関係者とともに検討していることを明らかにしました。こうした発言は、市場の安心感を高めるのに役立ちました。(ただし後述するように、イエレン長官がこの問題に関して先週行った発言は、これが最後ではありませんでした。)

水曜日:FRBによるハト派的な利上げ

水曜日には、米連邦公開市場委員会(FOMC)の会合が開催されました。大方の予想通り、米連邦準備制度理事会(FRB)は0.25%の利上げを行いましたが、私はこれが適切だったと考えています。先週のレポートで述べたように、中道を行くのが最良のアプローチと考えているためです。利上げを行わなかったり、逆に利下げを行ったりしていれば、現在の状況が危機的だとFRBが考えていると示すことになったでしょう。直近の銀行セクターの問題がまさに、主にここ1年の積極的な利上げにより引き起こされたことを考えると、0.5%の利上げは過剰となったと考えられます。0.25%の利上げを行ったことにより、FRBが「平常運転」モードであり、インフレ対応が依然として重要と考えていることを示しつつ、FRBには問題が発生した場合に対応する他の手段もあると示すことができたと考えています。

要するに、これはハト派的な利上げだったと言えます。FOMC声明におけるガイダンスに関連する文言が変わり、「継続的な引き上げ」との文言が削除されました。またパウエルFRB議長は記者会見で、3月の利上げが当面最後の利上げとなる可能性を認めました。今回の利上げに関する決定がFRBの全会一致でなされたことも、そうした見方への自信を深めることにつながったようです。他方でFRBは引き続き経済は堅調に推移しているとみており、驚きはないものの、ドットプロット(FOMCメンバーによる金利予測分布図)からは、今年中の利下げの見込みはないとみられていることがわかりました。パウエル議長も記者会見で、2023年のFRBの基本シナリオに利下げは含まれていないと強調しました。これは、FRBは引き続きデータに基づいて判断を行うが、その上でさらに、より慎重に対応していく必要があるとのメッセージだと考えます。シンプルに言えば、私はFRBが今回妥当な判断を下したと考えています。

しかし、FOMCによる決定と記者会見は、水曜日の午後に行われたイエレン財務長官の発言のインパクトの影に隠れる形となりました。イエレン長官は、銀行預金への広範な保証を提供する方法に取り組んでいないと述べ、前日の発言を覆したようです。米国政府が3月初旬に地方銀行への支援を実施し、銀行向けの新しい信用枠を創設した際、そういった保証が示唆されたにもかかわらず、イエレン長官はそのような幅広い保証の提供には立法が必要になるという実態に敏感に応じたようです。しかし、こうした発言は市場心理に冷や水を浴びせ、株価の下落につながりました。(再び後述するように、これもまだ、この問題に関する先週のイエレン長官の最後の発言ではありませんでした。)

木曜日:イングランド銀行が楽観的なトーンを打ち出す

木曜日には、イングランド銀行(BOE)の金融政策決定会合が行われました。ここでは追加の利上げが決定されましたが、0.25%の利上げにとどまりました(うち2名の委員が利上げなしを支持)。BOEのガイダンスは変更され、11回連続で実施されてきた利上げのサイクルが終わりに近づいていることを示唆しました。BOEは楽観的なトーンを打ち出し、賃金圧力の緩和によるインフレの低下を予想しました。私は、これは適切な判断だと考えます。FRBと同様、小幅な利上げを行いつつガイダンスを変更することで、より慎重な姿勢をとる必要はあるものの、これがBOEにとって平常運転であり、依然としてインフレ対応が重要であるとのメッセージとなっているためです。

また木曜日にイエレン財務長官は、自身の行った水曜日の発言への反応を受けて、信頼感を高めようとする行動に出ました。イエレン長官は、「…私たちは、悪影響の波及を防ぐために迅速に行動する上で重要な手段を用いた。こうした手段は、私たちが再び活用する可能性があるものだ。私たちがとった力強い行動により、米国民の預金の安全性が確保される。もちろん、認められれば追加的な対応を行う用意はあるだろう」1 と述べ、週末の市場の雰囲気を好転させました。

主な収穫

先週私にとって大きな収穫だったのは、政策当局が引き続き問題の兆候を敏感にとらえ、対応するのを目の当たりにしたことでした。

  • 英国やEUの政策当局は、スイスにおけるAT1債の取扱いをめぐる懸念に応え、それと自身のAT1債の取扱いとをいち早く区別する対応を取りました。
  • イエレン長官は、水曜日に行った発言が米国の銀行システムに対する信頼を損ねたことに気づき、広範な預金保証に関する発言を素早く明確化/変更する対応を取りました。
  • 金融政策当局は、依然として「本業」であるインフレ対応に集中しつつも、今後の引き締めにはより慎重かつ繊細でなければならないと理解しています。今週末、ドイツ連邦銀行のナーゲル総裁は、欧州中央銀行は依然インフレ対応を行っているが、それと同時に潜在的な金融ストレスにも反応できるよう、警戒態勢をとっている、と改めて述べました。

政策当局はきちんとトーンを感じ取っており、金融システムに対する信頼を構築し、維持するために果たす重要な役割を理解しています。私にとってこれは、非常に重要な収穫でした。

ここからどこへ向かうのか?

エコノミストやストラテジストたちは、今後起こりうるシナリオについて仮説を立てています。冒頭で述べたように、私自身は、経済のソフトランディングへの道筋は狭まった可能性はあるものの、銀行セクターのミニ危機は、利上げをより早期に停止させることで、中央銀行の過度な引き締めと幅広い景気後退を防ぐ効果をもたらすという、災い転じて福となす出来事かもしれないと考えています。確かに信用状況は引き締まり、景気減速を悪化させるでしょうが、そう劇的に引き締まることはないだろう―中央銀行が自分たちのなすべき仕事をしつつも、決して広範囲に深刻な不況を引き起こすほどにはならない程度―と楽観的にみています。

結局のところ、金融政策は金融環境に帰着します。引き締め政策を取ることで、企業や個人消費に行きつく資本、信用、株式の流れが引き締められることになります。一般的にはその結果、金融ボラティリティの高まりやショックの発生につながります。そしてこうしたショックが金融環境の深刻なタイト化をもたらし、結果として消費、雇用、成長、インフレの急速な低下を引き起こす可能性があります。そのため、政策金利の設定プロセスにおいて、しばしば緩和のサイクルは引き締めサイクルに比べ、早期かつ急速に行われます。

しかし、直近の銀行危機も含め、あらゆる何らかの金融ショックが全て、2008年のようなシステミックな危機を意味するわけではないと念頭に置くことが重要です。実際、これまでシステミックな危機の発生は非常に稀でした:米国で利上げ後にシステミックな金融危機が発生したのは、1934年から2022年の間でわずか3回にすぎません 2

とはいえ、地方銀行に端を発する信用引き締めにより、商業用不動産や建設業への資金流入が減少し、雇用の伸びが鈍る可能性があります。結果として景気後退に陥る可能性もありますが、その場合でも私は、それは浅く短いものになると予想しています。FRBが引き締めを停止する用意があり、歴史的に見てそうした場合FRBは急速に緩和的となる場合が多いこと、また金融関連の問題が収束可能なものである兆候がみられることから、2008年とは異なり、景気後退が起こったとしても、それが比較的緩やかなものとなると予想する十分な理由があります。

また引き締めが終了すれば、市場環境の改善、特にボラティリティの低下につながると考えられます。私は、FRBが正式に利上げの一時停止ボタンを押し、銀行のストレスが緩和されるという2つの条件が揃えば、市場は景気回復を織り込み始めると予想しています。それまでは、投資家はよりディフェンシブなポジションをとる方がよいでしょう。

今後私は、ユーロ圏のインフレ率、中国の購買担当者指数、そしてFRBがインフレを見通すうえで重視する指標である米個人消費支出に注目するつもりです。また、FRBが情勢を判断するうえで重要な要素と考えられる、ミシガン大学の消費者調査による期待インフレ率にも注目していきます。最も重要なのは、政策当局がいかなる問題にも迅速かつ効果的に対応し続けることができるかどうかで、これを注視していきます。結局のところこれは信頼感に関する危機の側面が大きいことから、金融市場の命運は、少なくとも部分的には政策当局の手に委ねられていると私は考えています。

1.出所:米財務省、2023年3月23日
2.出所:連邦預金保険公社、Global Financial Data、Refinitiv Datastream、インベスコ

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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