企業型確定拠出年金(企業型DC)は、毎月の掛金を用いて金融商品を運用し、将来の年金資産を積み立てる制度です。従業員に代わって会社が掛金を拠出する制度になっているため、その掛金の決め方が分かりにくくなっています。
本記事では、企業型確定拠出年金における掛金の決め方やルールをまとめました。
目次
一般的に、企業型確定拠出年金の掛金は役職などに応じて決められます。ただし、マッチング拠出が導入されている企業では、企業の掛金に上乗せする形で従業員自らが掛金を拠出できます。
実際にはどのように掛金を決めるのか、まずは基本的な考え方から紹介します。
企業型確定拠出年金で効率的に年金資産を貯めるには、継続して掛金を拠出する必要があります。基本的には脱退が認められない制度なので、中断のリスクがない掛金にすることを意識しましょう。
<企業型確定拠出年金の脱退要件>
要件1.企業型確定拠出年金の加入者や運用指図者(※)に該当しない
要件2.資格喪失日の翌月から6ヵ月を経過していない
要件3.個人別管理資産額が1万5,000円を超える場合は、以下の条件を全て満たしている
(※)新たな掛金の拠出が行われず、運用のみを行っている者のこと。
<要件3の条件>
条件1.60歳未満である
条件2.個人型確定拠出年金に加入していない
条件3.海外移住者に該当しない
条件4.障害給付金を受け取る権利がない
条件5.確定拠出年金の拠出期間が5年以内または個人別管理資産額(※)が25万円以下
(※)確定拠出年金の加入者が拠出して運用している資産のこと。
マッチング拠出は所定の手続きで脱退・再開できますが、会社からの拠出は原則として停止できません。家計の負担とならないように、特にマッチング拠出の掛金は慎重に設定してください。
企業型確定拠出年金の掛金は、会社によって決め方のルールが異なります。2つ以上の選択肢があれば、従業員が掛金を決められるので、会社のルールを確認しておきましょう。
<掛金の選択肢(例)>
・「月額5,000円」「月額1万円」のうちいずれかを選択する
・月額1~2万円の範囲内で掛金を決める
・上限額の範囲内で、1,000円単位で掛金を決める
マッチング拠出についても、会社によって導入の有無が異なります。
企業型確定拠出年金では毎月の掛金を増やすほど、多くの金融商品を運用できます。また、従業員が負担した掛金(マッチング拠出分)は全て所得控除の対象になるので、「上限額まで拠出したい」と考えている方もいるでしょう。
積み立てた資産は原則60歳まで引き出せないため、掛金を増やすと家計を長期に渡って圧迫するリスクがあります。例えば、給与の手取りが減ることで生活水準が下がったり、大きな買い物(マイホームや自動車など)が難しくなったりする可能性があるので、掛金は無理のない範囲で設定することが重要です。
企業型確定拠出年金のマッチング拠出と、個人型確定拠出年金(iDeCo)は併用できません。いずれの制度も利用できる場合は、両制度を比較した上で加入するものを選ぶ必要があります。
<マッチング拠出の掛金のルール>
【1】加入者(従業員)の掛金が、企業の拠出分を超えない
【2】「加入者の掛金+企業の掛金」が月額5万5,000円を超えない
<iDeCoの掛金のルール>
【1】iDeCoの掛金が月額2万円を超えない
【2】「iDeCoの掛金+企業の掛金」が月額5万5,000円を超えない
いずれの制度も、他の企業年金に加入している場合は月額27,500円が上限となります。
上記【2】は共通しているため、【1】のルールを比較することが重要です。できるだけ掛金を増やしたい人は、会社が拠出している掛金を確認した上で、マッチング拠出とiDeCoの上限額を比較しておきましょう。
企業型確定拠出年金の掛金は、全員一律にすることは認められていません。法令に則って会社が複数のプランを提示し、その範囲内で加入者(従業員)が掛金を選択する決め方になっています。
ここからは、企業型確定拠出年金における掛金のルールを3つに分けて解説します。
企業型確定拠出年金の掛金は、以下のいずれかの方法で決まります。
・定額の場合
「月額1万円」のように、加入者(従業員)の掛金が同一に設定されている方法です。
会社側は業務負担を軽減できますが、マッチング拠出の場合は少なくとも2つ以上の選択肢を提示しなければなりません。また、選択肢が2つの場合は、一方を「0円」に設定できない決まりになっています。
年齢差や貢献度が反映されにくい方法なので、退職金などで調整をしている会社もあります。掛金が定額で決められている場合は、他の退職給付制度も確認した上で加入や拠出額を判断しましょう。
・定率の場合
給料や退職金などに、規定に記載した定率を乗じて掛金を決める方法です。以下のようにさまざまな制度設計が見られます。
<定率による掛金(例)>
・「基本給の〇%」「給与総額の△%」のように、給料規定を基準に決める
・「退職金ポイントの〇%」のように、退職金規定を基準に決める
・役職を考慮して、職階級が上がるほど掛金が増える仕組みにする
定率による計算では、基準となる金額や割合によって掛金が変動します。定額に比べると仕組みが複雑なので、勤め先のルールは細かく確認しておきましょう。
・定額+定率の場合
企業型確定拠出年金の掛金は、「定額+定率」による計算も認められています。具体例としては、「月額5,000円+基本給×○%」のような仕組みがあります。
掛金の上限額は、会社が導入している企業年金制度によって異なります。
・企業型確定拠出年金のみを導入している場合
→月額5万5,000円が上限
・他の企業年金を導入している場合
→月額2万7,500円が上限
ただし、上記は2022年10月~2024年11月までのルールであり、2024年12月からは他の企業年金を導入していても掛金上限額が月額5万5,000円になります。
ここまでを踏まえて、以下では企業型確定拠出年金の掛金上限額をまとめました。
時期 | 導入している制度 (※企業型確定拠出年金以外) | 毎月の掛金上限額 |
---|---|---|
2024年11月30日以前 | なし | 5万5,000円(年間66万円) |
退職金や中退共 | 5万5,000円(年間66万円) | |
確定給付企業年金や厚生年金基金 | 2万7,500円(年間33万円) | |
2024年12月1日以降 | なし | 5万5,000円(年間66万円) |
退職金や中退共 | 5万5,000円(年間66万円) | |
確定給付企業年金や厚生年金基金 | 5万5,000円(年間66万円) |
上記の通り、退職一時金や中小企業退職金共済については、企業型確定拠出年金の掛金上限額に影響することはありません。実際の掛金は会社側が提示する形となるため、上限額まで拠出できるかは会社によって異なります。
マッチング拠出は、加入者個人(従業員)が上乗せして掛金を拠出できる制度です。前述でも触れましたが、マッチング拠出のルールについても改めて確認しておきましょう。
<マッチング拠出の主なルール>
・会社が導入していないと利用できない
・原則60歳までは資産を引き出せない
・掛金が全て所得控除の対象になる
・以下の範囲で掛金を設定する
1.加入者の掛金が企業の拠出分を超えていない
2.「加入者の掛金+企業の掛金」が月額5万5,000円を超えていない
他の企業年金がある場合は、月額2万7,500円が上限となります。掛金の仕組みが複雑なので、以下では3つのパターンに分けて掛金上限額をシミュレーションしてみます。
・パターン1.月額3万円を会社が拠出している場合
この場合、マッチング拠出の限度額は月額2万5,000円です。
<計算方法>
5万5,000円-会社の拠出分=マッチング拠出の限度額
5万5,000円-3万円=月額2万5,000円
ただし、他の企業年金に加入している場合は、会社の拠出分だけで月額2万7,500円を超えるため、マッチング拠出は利用できません。
・ターン2.月額2万円を会社が拠出している場合(他の企業年金なし)
この場合、マッチング拠出の限度額は月額2万円です。
<計算方法>
5万5,000円-会社の拠出分=マッチング拠出の限度額
5万5,000円-2万円=3万5,000円
計算上は月額3万5,000円ですが、加入者の掛金が企業の拠出分を超えることは認められないため、月額2万円が上限となります。
・ターン3.月額万円を会社が拠出+確定給付企業年金や厚生年金基金がある場合
この場合、マッチング拠出の限度額は月額7,500円です。
<計算方法>
2万7,500円-会社の拠出分=マッチング拠出の限度額
2万7,500円-2万円=月額7,500円
上記のように、マッチング拠出の限度額は会社の拠出分や企業年金によって異なります。
企業型確定拠出年金の掛金を変更できるかどうかは、会社のルールによって異なります。会社ごとに回数や手続きが異なるため、変更したい場合は勤め先の年金規約などを確認しましょう。
マッチング拠出の掛金については、年1回のみ変更が認められています。ただし、変更手続きの時期が決められている会社もあるので、担当部署などへの確認を行いましょう。
選択制DCとは、退職金などを前払いの給与として受け取るか、企業型確定拠出年金の掛金にするかを従業員自身が選択できる制度です。
選択制DCが導入されている場合は、将来のライフプランや現在の資産状況を踏まえて、それぞれのメリット・デメリットを比較してから活用することが大切です。
・一時的に給料が増える
・受け取った現金をすぐに使える
・将来受け取れる公的年金や割増賃金が減らない
・所得税や住民税、社会保険料の対象になる
・所得控除が適用されない
・将来の年金資産を積み立てられる
・給与扱いではないため、税金や社会保険料の負担が減る
・金融商品の運用益が全て非課税になる
・マッチング拠出を利用すると、全ての掛金に所得控除が適用される
・原則60歳までは資産を引き出せない
・社会保険の等級が下がると、将来受け取れる年金が減る
・給与の減額によって、残業代などが減ることもある
退職金などを前払いで受け取る場合は給与とみなされるため、税金や社会保険料の負担が増えてしまいます。
一方で、企業型確定拠出年金の掛金は給与から拠出されるため、税金や社会保険料の負担を減らせます。運用益が非課税になる点もメリットですが、仮に資産が増えても原則60歳までは引き出せないので、毎月の掛金が家計を圧迫しないか慎重に判断してください。
企業型確定拠出年金の掛金は、会社のルールの範囲内で決める必要があります。まずは会社の年金規約などを確認してから、無理なく拠出できる金額を設定しましょう。
従業員の年齢差や貢献度を考慮して、他の企業年金や選択制DCで拠出限度額のバランスを取っている会社も見られます。確定拠出年金以外の制度も確認した上で、資産運用の計画を立ててみてください。
※本記事は資産運用に関わる基礎知識を解説することを目的としており、資産運用を推奨するものではありません。