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グローバル市場の楽観論に揺らぎ

グローバル市場の楽観論に揺らぎ

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要旨

年初からの株高・ドル安基調の背景=FRBのハト派化期待

年初来の米国では、金融政策のハト派化への期待にともなうプラス効果が、景気・企業業績の悪化への懸念に伴うマイナス効果を凌駕(りょうが)する形で株価が上昇してきました。これがグローバルに株価上昇の連鎖をもたらすとともに、新興国・地域の通貨にも好影響をもたらしています。

1月分米雇用統計の衝撃

こうした中で2月3日に公表された米国の1月分雇用統計は、米国の労働市場が再びタイト化してきたことを示す衝撃的な内容となりました。1月分の雇用統計の結果、FRBは今後の利上げの打ち止めや利下げの開始についてこれまでよりも態度を慎重化させていると考えるべきでしょう。金融市場で織り込まれる年内の利上げ幅が拡大し、米10年金利も上昇しました。ただ、「景気後退が回避できるのでは」という金融市場の期待が強まった結果、株式市場の反応は抑制的でした。

グローバル市場の行方は今後もインフレ次第

グローバル市場の今後の行方は、引き続き米国のインフレ次第です。足元で賃金の伸びが減速してきた点はインフレが抑制につながるはずです。2月14日に公表予定の米国の1月分CPI統計、3月14日公表予定の2月分CPI統計に引き続き注目したいと思います。

年初からの株高・ドル安基調の背景=FRBのハト派化期待

今週号では、2023年に入ってからのグローバル金融市場の動きの背景について整理するとともに、今後の注目点について考えてみたいと思います。

グローバル市場では、2023年に入って株価が上昇する基調が続いてきました。株価回復をけん引してきたのは、米国の株式市場であり、欧州や日本の株価も上昇基調となっています(図表1)。米国ではインフレ指標が12月分まで3カ月連続で落ち着きをみせてきたことで、FRB(米連邦準備理事会)が年央までに利上げを停止し、年内に利下げを始めるとの見方が強まりました。

FRBのハト派化が織り込まれたことで、1月半ばまで米長期金利が低下基調で推移し、その後も2月3日に1月分の雇用統計が発表されるまでの間はほぼ横ばい圏で推移しました。FRBのハト派化期待と米長期金利の低下がグロース株を始めとする米国株式の堅調さをリードしたと言えます。米国では景気後退への懸念が強く、株価を抑える要因になってきましたが、金融政策のハト派化への期待にともなうプラス効果が、景気・企業業績の悪化への懸念に伴うマイナス効果を凌駕(りょうが)する形で株価が上昇してきたと判断できます。企業業績に対する懸念が強い中でも、S&P500種指数に含まれる企業の中で既に業績を公表した250社のうち、市場予想を上回った企業の比率は69.6%と、この比率の長期的な平均値である66.3%をなお上回っていました(2月3日時点でリフィニティブの調べに基づく)。

FRBによる利上げ停止観測が強まったことは、新興国・地域の株価や通貨にも好影響をもたらしました主要新興国・地域の多くでは、年初来の株価が上昇するか、通貨が対ドルで上昇するかどちらかを記録しました(図表1)。FRBのハト派化期待に加えて、中国のゼロコロナ政策の事実上の撤廃に伴う経済再開への期待感の高まりも、年初来のグローバル市場での明るい動きをサポートしたと考えられます。なお、対ドルでの為替レートが年初来で増価せず、株価も下落した例外的な主要新興国・地域としてはインドを挙げることができますが、これはアダニ・グループの不正会計疑惑を発端とした市場の動揺という特殊要因によるところが大きいと考えられ、必ずしもファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)を反映したものではありません。

(図表1)主要国・地域:株価と通貨の対ドルレートの騰落率

1月分米雇用統計の衝撃

こうした中で2月3日に公表された米国の1月分雇用統計は、米国の労働市場が金融市場の想定を超える形で再びタイト化してきたことを示す内容となりました。非農業部門の雇用者増加数は51.7万人と、市場予想の18.9万人を大きく上回りました。失業率も3.4%と市場予想に反して改善し、53年ぶりの低水準となりました。同じく2月3日に公表された1月分のISMサービス業景況指数も、55.2ポイントと、前月の49.2ポイントから市場予想をはるかに上回って改善しました。先週のFOMC(米連邦公開市場委員会)後に開催された記者会見(2月1日)においてパウエルFRB議長はサービス分野のインフレ率が落ち着いてこないリスクへの懸念を表明しましたが、今回の雇用統計のISMサービス業景況指数の結果は、このリスクを増幅させる内容であったと言えます。

米国の金利先物市場では、これら雇用統計等の公表を受けて、2023年内の利上げの織り込み幅が、雇用統計前の7bpから49bpへと大きく上昇しました(2月7日時点、以下同様)(図表2)。2023年の前後半別にみると、年前半の利上げの織り込み幅が57bpから81bpへと拡大したのに対して、年後半の利下げの織り込み幅は50bpから32bpへと縮小しました(図表3)。スワップ市場で織り込まれる2年先、3年先のFF金利も上昇しており、これが米10年金利の上昇につながりました(図表4)。

(図表2)米国:金利先物市場が織り込む、2023年中のFF金利引き上げ幅

(図表3)米国:金利先物市場が織り込む2023年前半・後半のFF金利引き上げ幅

(図表4)米国:スワップ市場が織り込む2年先、3年先のFF金利と10年国債利回りの推移

一方、米国での金利先物・スワップ市場や債券市場の反応に比べると、米国株式市場の反応はどちらかというと抑制されたものとなりました。これは非常に強かった1月分の雇用統計が、「景気後退が回避できるのでは」という金融市場の期待を強めたことが大きいと思われます。当レポート先々週号(「FRBのハト派化期待」と「景気悪化」の綱引き、1月26日発行)では、今後の米国株式市場においては、①「FRBのハト派化期待」という株価押し上げ材料と、➁「景気悪化」とそれに伴う企業業績の悪化という株価押し下げ材料—の2つの材料が綱引きをするような形で株価が形成されていくのではないかとの見通しをご紹介しました。先週末以降、執筆時点(日本時間で2月8日)までの動きをこの図式でとらえるなら、「FRBのハト派化期待」が後退して株価押し下げ材料になったものの、雇用統計等の経済指標の改善によって「景気悪化」という株価下押し材料が和らぎ、株価の安定につながった、と判断されます。

グローバル市場の行方は今後もインフレ次第

米国労働市場でみられる雇用者数の増加や失業率の低下は賃金の上昇を通じてサービス分野のインフレの上振れをもたらしかねません。労働市場のタイト化とサービスインフレの上振れの時期にはある程度のラグ(時間差)が存在することをふまえると、1月分の雇用統計の結果、FRBは今後の利上げの打ち止めや利下げの開始についてこれまでよりも態度を慎重化させていると考えるべきでしょう。

とは言え、グローバル市場の今後の行方は、引き続き米国のインフレ次第です。1月分の雇用統計では賃金の伸びが鈍化したことが明らかとなりました。平均賃金の伸びは前月比で0.3%と、2022年10月から12月まで3カ月連続で記録した0.4%を下回りました。賃金の伸びが抑えられている限りはインフレへの押し上げ効果は限られるはずです。インフレの状況を把握する上で、2月14日に公表予定の米国の1月分CPI統計、3月14日公表予定の2月分CPI統計は非常に重要です。また、雇用統計や他の景気指標にも引き続き注目したいと思います。

木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト

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