投資信託で確定申告が必要になるケースは?手間や税金を抑えよう!

投資信託の運用に成功すると、保有中や売却のタイミングで利益を受け取れます。この利益は所得として扱われ、少額でも確定申告を行う必要があるのでしょうか。本記事では、投資信託で確定申告が必要になるケースに加えて、手間や税金を抑える方法をまとめました。

投資信託の利益は2種類

投資信託で得られる利益は、「譲渡益」と「普通分配金」に大きく分けられます。確定申告の前に、まずは各利益の概要を押さえておきましょう。

譲渡益

譲渡益は、投資信託の売買によって得られる利益です。「売却益」とも呼ばれており、購入時より高い基準価額(※)で投資信託を売却したときに得られます。

(※)投資信託の値段のこと。

また、投資信託の基準価額は1日1回の頻度で公表されるため、購入・売却のタイミングで正確な基準価額を知ることはできません。基準価額の公表は、投資信託の取引の申し込みが締め切られた後の時間帯になっているからです。

これは投資信託ならではの仕組み(※ブラインド方式と呼ばれる)なので、取引の前に理解しておきましょう。

普通分配金

普通分配金は、個別元本(※)を上回った分の利益を投資家に分配するものです。通常は決算ごとに分配金を支払うかを決めており、投資家から見ると利益にあたるため、課税対象として扱われます。

(※)お客様が購入した際の販売価額(基準価額)のこと。

一方で、投資信託では個別元本を下回った場合にも分配金が支払われることがあります。このときに支払われるお金は「特別分配金」と呼ばれ、実質的には元本の一部が戻されるだけなので、課税対象にはなりません。

同じ分配金でも仕組みが異なるため、普通分配金・特別分配金は区別しておきましょう。

投資信託で確定申告が不要になる5つのケース

譲渡益や普通分配金によって利益が出た場合は、原則として確定申告が必要です。ただし、利益の金額や口座の種類によっては、確定申告が不要になることもあります。ここからは、投資信託で確定申告が不要になるケースを見てきましょう。

ケース1.源泉徴収ありの特定口座を利用している

投資信託を取引する口座には、主に以下の3種類があります。

<金融商品を取引できる課税口座>
・一般口座:1年間の損益を投資家が計算し、さらに確定申告もご自身で行う口座
・特定口座(源泉徴収なし):簡易な手続きで納税申告を済ませられる口座
・特定口座(源泉徴収あり):金融機関が運用益から源泉徴収をする口座

上記について、それぞれ解説します。

・一般口座の場合

他の口座と異なり、ご自身で取引ごとの利益や損失を計算する必要があります。実際に1年間の損益を計算する前には、取引ごとに書類が送られてくる、取引ごとに結果だけを記載してある「取引報告書」を整理しておきましょう。

・特定口座(源泉徴収なし)の場合

特定口座内で譲渡益や普通分配金があっても源泉徴収されないため、ご自身で確定申告を行わなければなりません。ただし、損益を計算する必要はなく、証券会社から発行される「特定口座年間取引報告書」を添付して確定申告ができます。

・特定口座(源泉徴収あり)の場合

原則として確定申告が必要ありません。必要な金額を証券会社などが徴収し、代わりに納税まで行ってくれるので、運用益が出ても申告漏れのリスクを防げます。

ただし、特定口座(源泉徴収あり)での取引において損失が発生した場合、確定申告を行うことですでに源泉徴収された税金の中から「払い過ぎ」となった分が戻ってくるケースがあります。

ケース2.1年間に運用益が出ていない

所得税などの税金は、所得(収入)に対して課されるものです。そのため、1年間を通して運用益が出ていない場合は、普通分配金などを受け取っても確定申告をする必要はありません。

ここで注意しておきたいのは、課税は1月~12月が一区切りになる点です。

<1年間の運用成績による課税例>
・2022年1月に30万円の譲渡益、2022年12月に50万円の譲渡損失が出た場合
30万円-50万円=-20万円(年間成績がマイナスなので確定申告は不要)

ただし、損益通算や繰越控除を行って税金を抑えられるケースもあるので、必ずしも確定申告が不要になるわけではない点については注意しましょう。

ケース3.NISA口座

NISAとは、非課税投資枠の範囲内で運用益が非課税になる税制優遇制度のことです。成人向けとしては、次の2つが用意されています。

NISAの種類 一般NISA つみたてNISA
非課税投資枠 年間120万円 年間40万円
非課税期間 最長5年 最長20年
対象商品 株式、投資信託、ETFなど 投資信託(ETFを含む)
買付方法 通常の購入、積立投資 積立投資

NISA口座から購入した投資信託については、確定申告をする必要がありません。ただし、年間の非課税投資枠を超えた購入分は、課税口座(特定口座・一般口座)での取り扱いとなります。後述の「損益通算」や「繰越控除」を利用できない点にも注意しておきましょう。

また、2023年末には一般NISAは廃止され、2024年からは新NISA(※)と呼ばれる制度がスタート予定になっています。この他にも、2022年12月16日時点で、2024年以降につみたてNISAの上限1,500万円、年間の積立額は3倍の120万円、非課税となる期間は無期限になる新制度を設ける方針になっています。

(※)非課税期間は5年、年間投資上限金額は122万円。1階と2階に投資上限金額と投資対象が分かれている。1階は投資上限20万円まで、投資対象は投資信託など。2階は投資上限102万円、投資対象は上場株式や投資信託などになっている。

ケース4.給与所得が2,000万円以下かつ運用益が20万円以下

以下の条件を全て満たしている給与所得者(サラリーマンなど)は、年末調整によって申告や納税が完了するため、確定申告の必要はありません。

<確定申告が不要になる条件(給与所得者)>
【条件1】その年(1月~12月)の給与が2,000万円を超えていない
【条件2】給与所得や退職所得以外の所得が年間20万円を超えていない

仕組みがやや複雑なので、分かりやすい例をいくつか紹介しましょう。

<給与所得者の確定申告の例>

・1年間に給与2,500万円、投資信託の普通分配金を5万円受け取った場合
条件1:満たしていない
条件2:満たしている
確定申告:必要

・1年間に給与2,000万円、株式の配当金を20万円、投資信託の普通分配金を5万円受け取った場合
条件1:満たしている
条件2:満たしていない
確定申告:必要

・1年間に給与2,000万円、投資信託の普通分配金を5万円受け取った場合
条件1:満たしている
条件2:満たしている
確定申告:不要

上記の条件を満たしていても、所得控除や税額控除、損益通算などで税金が安くなる場合は、確定申告によって還付金を受け取れる可能性があります。また、元本の払戻しに相当する部分として分配される特別分配金は非課税になるため、所得としてカウントされることはありません。

ケース5.iDeCo口座

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、あらかじめ決めた掛金を毎月拠出し、その資金で投資信託などを運用できる年金制度です。NISAと同じく、iDeCoも全ての運用益が非課税となるため、原則として確定申告は必要ありません。

ただし、iDeCoであっても確定申告が必要になるケースがあります。例えば、年末調整で所得控除を受けられなかった方や、掛金払込証明書が年末調整に間に合わなかった方などが該当します。実際にiDeCoを利用している方は、本当に確定申告が不要なのかを確かめましょう。

投資信託にかかる税金はどれくらい?

投資信託の利益にかかる税金は、一律で20.315%と定められています。本来は所得税と住民税を合わせて20%ですが、2037年までは復興特別所得税として0.315%が上乗せされています。

実際にはどれくらいの税金がかかるのか、いくつか例を挙げて計算してみましょう。

<投資信託の税金例>

例1.1年間に譲渡益10万円、普通分配金6万円を受け取った場合
譲渡益+普通分配金=16万円(1年間の利益)
通常は32,504円(16万円×20.315%)の税金がかかりますが、給与所得が2,000万円以下かつ他の所得がない場合は、確定申告が不要になります。

例2.1年間に譲渡益20万円、普通分配金10万円を受け取った場合
20万円+10万円=30万円(1年間の利益)
30万円×20.315%=60,945円(利益にかかる税金)

例3.1年間に普通分配金30万円を受け取り、50万円の譲渡損失が出た場合
30万円-50万円=-20万円(1年間の利益)
1年間の運用益がマイナスなので、確定申告は不要になります。

上記の通り、投資信託では譲渡金や普通分配金を受け取っても、その合計金額によっては非課税となります。また、【例2】のように1年間の利益が20万円を超えても、NISAやiDeCo、源泉徴収ありの特定口座を利用している場合は、確定申告をする必要がありません。

投資信託の利益を確定申告する手順

投資信託で確定申告が必要になった場合は、どのような手順で作業を進めれば良いのでしょうか。ここからは初心者に向けて、確定申告の手順を分かりやすく解説します。

STEP1.年間の取引状況をチェックする

源泉徴収なしの特定口座を利用する場合は、金融機関が「特定口座年間取引報告書」を発行・交付します。この報告書から年間の取引状況が分かるので、まずは取引をした金融機関に郵送を請求するか、またはオンライン上の電子交付サービスなどを利用しましょう。

一方で、一般口座では上記のような取引報告書が発行されません。金融機関の取引履歴などから、自身で1年間の利益を計算する必要があります。

STEP2.その他の所得を確認する

投資信託の譲渡益は「譲渡所得」、分配金は「配当所得」にあたりますが、税金はその他の所得にも左右されます。確定申告が必要になるかを判断する基準にもなるため、以下の所得がどれくらいあるかは必ず確認しておきましょう。

<所得の種類>
・給与所得
・事業所得
・利子所得
・不動産所得
・一時所得
・退職所得
・山林所得
・雑所得

また、株式の譲渡益や配当金も、譲渡所得や配当所得として計算されます。投資信託の利益と通算する必要があるので、複数の金融商品を取引している人は注意してください。

STEP3.適用される控除を確認する

控除とは、特定の条件を満たした場合に、所得金額から一定額を差し引くことが認められている制度です。一般的な所得控除や税額控除など、資産運用ではさまざまな控除が適用される可能性があります。

<資産運用に関わる控除制度の例>
損益通算:複数口座の損益を通算できる制度のこと
繰越控除:本年分で控除しきれない損失分を、翌年以降に持ち越す制度のこと
エンジェル税制:特定中小企業の株式を取引した場合に、その取得金額が控除される制度

投資信託や株式投資の所得を計算する場合は、国税庁が公表する「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」を活用すると便利です。国税庁の確定申告書等作成コーナーからでも自動作成できるので、計算が苦手な方は活用しましょう。

STEP4.申告書に記入する

ここまで進んだら、提出用の申告書を税務署などから入手して、必要事項を記入します。申告書は国税庁の「確定申告書等作成コーナー」でも作成できるので、パソコンなどで作成したい方は活用しましょう。

なお、投資信託で利益が生じた場合は、「申告書B」と「申告書第三表(分離課税用)」を作成する必要があります。各記入項目については、国税庁の公式サイトで手引きが紹介されています。特に控除関係は仕組みが複雑なので、記入例も確認しながら作業を進めていきましょう。

STEP5.添付書類を貼って提出

郵送や持参によって申告書を提出する場合は、「特定口座年間取引報告書」の添付が必要になります。一般口座で取引をした場合も、税務署から内容の説明を求められる可能性があるので、金融機関のマイページなどから取引残高報告書や取引報告書などを入手しておきましょう。

なお、源泉徴収なしの特定口座を利用している方は、オンライン申告をすると添付書類が不要になります。

確定申告の手間や税金を抑える方法

投資信託の確定申告は仕組みが複雑であり、知らないと損をする知識もあります。ここからは、確定申告の手間や税金を抑える4つの方法を紹介します。

1.損益通算を利用する

損益通算とは、株式と投資信託などの損益や、複数口座の損益を通算できる制度です。申告分離課税では、譲渡所得と配当所得の通算も認められているため、いずれかの取引で損をした場合は利益と相殺することができます。

<損益通算の例>

例1.株式で100万円の利益、投資信託で80万円の損失が出た場合
100万円-80万円=20万円(課税対象になる利益)

例2.証券口座Aで80万円の利益、証券口座Bで50万円の損失がでた場合
80万円-50万円=30万円(課税対象になる利益)

例3.株式で50万円の利益、投資信託で60万円の損失がでた場合
50万円-60万円=-10円(課税対象になる利益なし)

損益通算の適用を受けるには、特定口座年間取引報告書などの証明書を用意した上で確定申告が必要です。運用状況によってはその年の税金を大きく抑えられるので、毎年確認するようにしましょう。

2.繰越控除を利用する

繰越控除は、1年間に発生した損失分を翌年以降に繰り越せる制度です。翌年以降の利益と相殺できるため、投資信託などでは最長3年間の繰り越しが認められています。

<繰越控除の例>

例1.2020年に投資信託で30万円の損失、2021年に60万円の利益が生じた場合
60万円-30万円=30万円(課税対象になる利益)

例2.2020年に投資信託で100万円の損失、2021年に50万円の利益が生じた場合
50万円-100万円=-50円(課税対象になる利益なし)
※残りの50万円は2023年まで繰り越せる

前述の損益通算で損失になった場合も、最長3年の繰越控除を利用できます。ただし、損失を繰り越す間は取引の有無に関わらず、毎年の確定申告が必要です。

3.課税所得金額が330万円未満なら総合課税を選ぶ

配当所得にあたる投資信託の分配金は、税率20.315%が適用される「分離課税」と、他の所得と合わせて計算される「総合課税」のいずれかを選べます。総合課税になるとどれくらい税率が変わるのか、2022年12月時点での税率表を見てみましょう。

課税所得金額 税率 控除額
1,000円~195万円未満 5% 0円
195万円~330万円未満 10% 97,500円
330万円~695万円未満 20% 427,500円
695万円~900万円未満 23% 636,000円
900万円~1,800万円未満 33% 1,536,000円
1,800万円~4,000万円未満 40% 2,796,000円
4,000万円~ 45% 4,796,000円

上記を見ると分かるように、1年間の課税所得金額が330万円未満であれば、所得税の税率は5~10%になります。総合課税ではさらに配当控除も適用されるため、確定申告の前には細かく計算して比較することを検討しましょう。

4.分配金がないタイプの投資信託を選ぶ

投資信託には、運用益を普通分配金として支払わず、運用資産にそのまま組み込まれるファンドがあります。このような無分配型の投資信託を選べば、長期的に保有をしても税金はかかりません。

投資信託の確定申告に関する質問集

ここからは、投資信託の確定申告に関する質問をまとめました。

Q1.源泉徴収ありの特定口座でも確定申告をしたほうが良いケースとは?

源泉徴収ありの特定口座では、原則として確定申告をする必要はありません。ただし、損益通算や繰越控除を適用できる場合や、課税所得金額が330万円未満の場合は、確定申告によって還付金を受け取れる可能性があります。

Q2.NISA口座でも確定申告はしたほうが良い?

非課税投資枠の範囲内で取引をした場合は、確定申告をしなくても全ての運用益が非課税になります。ただし、非課税投資枠の超過分については、特定口座または一般口座での取り扱いとなるため、運用益によっては確定申告の義務が生じます。

Q3.iDeCoで投資信託を取引したときはどうなる?

サラリーマンなどの給与所得者がiDeCoの所得控除を受けるときには、年末調整による申告が必要です。iDeCoでは運用益が出なくても、毎月の掛金が所得控除の対象になるため、毎年の手続きを忘れないようにしましょう。

Q4.投資信託で償還されたときの利益はどうなる?

償還とは、投資信託の運用が終わるタイミングで信託財産の清算が行われることです。保有している投資信託が償還を迎えると、保有口数に応じた償還金が支払われるため、運用成績によっては利益(償還差益)が出ることもあります。償還差益は譲渡益と同じく、譲渡所得として20.315%の税金が課されます。

Q5.オンライン申告で必要になるものは?

e-Taxによるオンライン申告では、マイナンバーカードやICカードリーダーライタが必要です。また、税務署から発行されるIDやパスワードも必要になるため、余裕をもって準備しておきましょう。

特定口座でも確定申告が必要なケースはある

源泉徴収ありの特定口座を利用している方は、譲渡益や普通分配金を受け取っても確定申告が原則不要です。ただし、損益通算などを適用できる場合は、確定申告によって還付金を受け取れる可能性があります。

投資信託の税金の仕組みは複雑ですが、知らない知識があると損をしてしまうため、本記事の内容はしっかりと理解しておきましょう。

※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。

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