低コストで安全かつ迅速な国際決済を実現する手段として、ブロックチェーン技術を活用した次世代クロスボーダー決済システムの開発が、世界中の中央銀行や金融機関で加速しています。
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グローバル化が加速している近年、世界のクロスボーダー(国際間)決済額は年間5%のペースで急成長し、2022年には156兆ドル(約2京1,216兆円)に達すると国際コンサル企業EY(アーンスト・アンド・ヤング)は予想しています。
クロスボーダー決済市場をリードしているのは、1973年に設立され、現在世界200ヵ国以上で事業を展開する国際銀行間送金・決済ネットワーク「SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication/国際銀行間通信協会)」です。
SWIFTの決済ネットワークにおいては、コルレス銀行(Correspondent Bank)と呼ばれる金融機関が海外送金する側の銀行と受け取る側の銀行をつなぐ、通貨の中継地点の役割を果たしています。しかし、一部においては非効率なシステムやサイバー攻撃に対する脆弱性などの問題点が指摘されており、現代の需要にマッチした近代的なシステムを求める声が高まっています。
既存のクロスボーダー決済が直面している課題のソリューションとして注目されているのが、ブロックチェーン技術を基盤とする次世代決済ネットワークです。
分散型台帳技術の一種であるブロックチェーン技術には「中央管理者なしで信頼性の高い取引を成立できる」「管理・運用コストが低い」「システムの安定性が高い」「外貨両替が不要(複数の通貨に対応できる)」といった特徴があります。
このような特徴をさまざまな金融取引に活かすことで取引の透明性が向上し、取引プロセスに要する時間やコストも大幅に短縮されることが期待されています。
その一方で、「記録したデータを修正・削除できない」「処理速度が遅い」「誰でも参加できるオープンネットワークであるため、ハッカーなどの悪意をもつ参加者がネットワークに入り込むリスクがある」といったデメリットも指摘されています。
そのため、取引金額が大きくスピードが求められる銀行間決済には不向きとされていました。
しかし、特に企業間(B2B)の国際取引が急増している近年は、デメリットを克服し、次世代クロスボーダー決済プラットフォームの実用化プロジェクトを進める動きが加速しています。世界各国の中央銀行や銀行と提携し、ホールセール・バンキング(大手法人向け銀行業務)専用分散型金融市場インフラ・ネットワークの構築を目指す2つの事例を見てみましょう。
Partior(パーティアー)はJPモルガン・チェースのブロックチェーン子会社Onyx(オニクス)とシンガポールのDBSグループ、シンガポールの国営投資企業Temasek(テマセク)が2021年に設立した合併企業です。
同社は「DLT(分散型台帳技術)とスマートコントラクト、分散型アプリケーションを駆使し、あらゆる資産をスピーディーにクロスボーダー決済できるプラットフォームを構築する」という目標に向け、複数のプロジェクトを進めています。
現在は米ドルや英ポンド、ユーロを含む複数の通貨に対応可能なブロックチェーン決済サービスの他、FX(外国為替証拠金取引)のPvP(Payment Versus Payment/多通貨同時決済)やDVP(Delivery Versus Payment/証券の受け渡しと決済を同時に行う仕組み)といった金融サービス・ネットワークにリテール(個人)向け決済アプリケーションを追加するネットワークの開発に取り組んでいます。
最近では2021年11月、複数の中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)を利用したクロスボーダー・プラットフォームのプロトタイプを開発しました。
2019年に設立されたFnality International(ファナリテ・インターナショナル)は、ドイツ銀行や国際決済銀行 (BIS)を含む国際金融機関の元エクゼクティブが首脳陣を務めるイニシアティブです。
Partiorとの大きな違いは、全ての送金・決済が中央銀行の法定通貨資金にペッグされており、CBDCの構想と技術により近いことです。
ブロックチェーンとDLTを基盤とする同社のプラットフォーム「Sterling Fnality Payment System(FnPS)」は、トークン化された資産の決済をサポートするよう設計されており、ホールセール市場におけるCBDCの利用を促進する役割を担っています。
同社のプラットフォームは2023年第3四半期にローンチが予定されていますが、すでに2022年8月に英国財務省から「システム上重要な決済システム」として認定されており、10月には英FinTechスタートアップFinteum(フィンテム)のFXスワップ ・プラットフォームとの相互運用性の概念実証に成功しました。将来実用化された場合、各国の銀行はFinteum のプラットフォーム上でFnPSを利用し、わずか数秒でPvPを決済することが可能になります。
実用化プロジェクトが活発に進められる中、クロスボーダー決済の巨匠SWIFTもブロックチェーン決済の可能性を模索しています。
現在は分散型オラクル・ネットワークであるChainlink(チェーンリンク)と提携し、従来の金融会社がデジタル資産と従来の資産の両方にアクセスできる単一のブロックチェーン・ネットワークの概念実証に取り組んでいます。
これは、Chainlinkのクロスチェーン相互運用性プロトコル(CCIP)を利用し、SWIFTの銀行間メッセージ・システムがブロックチェーン・ネットワーク上でトークンの転送を指示できるようにするという試みです。
その一方で、CBDCサンドボックスを中央銀行や金融機関に提供するなど、複数のプロジェクトに参加しています。
広範囲な実用化に向けてはまだ課題が山積みですが、このような取り組みは国際金融市場が目指すブロックチェーン決済システムの実現を確実に後押ししています。「ブロックチェーン技術で老朽化した伝統的な決済システムに変革を起こす」という金融機関のグローバルな野望は、今後さらに加速していくでしょう。Wealth Roadでは今後も、ブロックチェーン決済システムの開発動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=136円
※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買及び投資を推奨するものではありません。