退職金の平均額や相場はいくら?勤続年数や学歴、退職理由別のデータを紹介

退職時に受け取れる退職金は、会社の規模や業種、勤続年数などによって相場が異なります。老後資金や転職資金になる大切なお金なので、多くの人は「結局いくら受け取れるの?」と疑問に感じるでしょう。

本記事では、厚生労働省が公表しているデータをもとに、退職金の平均額・相場をまとめました。勤続年数別・学歴別・退職理由別の相場をチェックし、ライフプランの設計に役立てていきましょう。

退職金はどうやって計算される?

従来の年功序列型の企業では、「基本給連動型(※勤続年数に比例)」によって退職金を計算する方法が主流でした。しかし、基本給連動型は支給する企業の負担が増えるため、最近では以下の方法で退職金を計算するケースが増えています。

退職金の主な計算方法 概要
定額方式 あらかじめ、勤続年数に応じた支給額を決めておく方法。
別テーブル方式 給与などの賃金とは切り離す形で、勤続年数に応じた退職金を決定する方法。
ポイント制方式 昇進や年齢、資格などの加算ポイントを設定し、累積のポイントをもとに退職金支給額を計算する方法。

上記の方法で調整できない分については、「特別加算額(特別減算額)」として別途計算されることもあります。実際の方法は企業によって異なるため、退職前には就業規則等をチェックし、自身のケースに当てはめて退職金を計算しておきましょう。

勤続10年の退職金は平均いくら?

まずは、厚生労働省が実施した「賃金事情等総合調査(2019年)」のデータをもとに、勤続10年における退職金の平均額を見ていきましょう。

<勤続10年における退職金の平均額>

主な産業 会社都合退職 自己都合退職
鉱業 4,116万円 1,415万円
製造業 3,554万円 1,969万円
建設 1,440万円 744万円
銀行・保険 1,804万円 1,254万円
私鉄・バス 3,197万円 1,819万円
海運・倉庫 2,137万円 1,411万円
電力 2,599万円 2,460万円
新聞・放送 2,040万円 1,547万円
全産業 3,102万円 1,799万円

(参考:e-Stat「賃金事情等総合調査」

賃金事情等総合調査は資本金5億円以上、労働者1,000人以上を対象にしているため、上記はいずれも大企業のデータになります。業種による差はありますが、勤続10年における退職金平均額は会社都合退職で3,102万円、自己都合退職で1,799万円となりました。

勤続年数による退職金の違い

次は厚生労働省による「平成30年就労条件総合調査」をもとに、勤続年数による退職金の違いを紹介します。

<勤続年数別の1人あたり平均退職給付額(大学・大学院卒)>

勤続年数 退職給付合計額 退職一時金のみ
20~24年 1,267万円 1,058万円
25~29年 1,395万円 1,106万円
30~34年 1,794万円 1,658万円
35年以上 2,173万円 1,897万円
全勤続年数 1,983万円 1,678万円

(※「退職給付合計額」には退職年金制度も含む。)
(参考:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」

就労条件総合調査の対象は従業員30人以上の企業であるため、上記のデータには中小企業も含まれます(有効回答数3,697社)。前述の通り、基本給連動型で計算する企業は減っていますが、全体としては退職金と勤続年数は比例することが分かりました。

また、勤続年数が30年を超えると、退職金の増加幅が大きくなる傾向にあります。そのため、50歳前後での退職を考えている人は、勤め先の退職金規定をしっかりと確認して、数年後まで働き続けた場合の退職金をシミュレーションしておくと良いでしょう。

なお、勤続年数については、「いつから退職金を受け取れるか」も押さえておくことが重要です。

<退職金を受け取れる最低勤続年数の割合>

勤続年数 会社都合退職 自己都合退職
1年未満 8.5% 3.2%
1年~2年未満 21.8% 15.0%
2年~3年未満 8.7% 9.7%
3年~4年未満 42.2% 56.2%
4年~5年未満 1.1% 1.6%
5年以上 9.3% 10.9%

(参考:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」

上記の通り、勤続3年を超えると半数以上の企業は退職金を支給しています。ただし、それ未満でも退職金を受け取れる可能性はあるため、勤続年数に関わらず退職金規定は必ずチェックしておきましょう。

学歴による退職金の違い

次は学歴による違いを見るために、退職金のデータを「勤続20~24年」と「勤続35年以上」に分けて紹介しましょう。

<勤続20~24年の平均退職給付額>

学歴 退職給付合計額 退職一時金のみ
大学・大学院卒
(管理・事務・技術職)
1,267万円 1,058万円
高校卒
(管理・事務・技術職)
525万円 462万円
高校卒
(現業職)
421万円 390万円

(参考:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」

<勤続35年以上の平均退職給付額>

学歴 退職給付合計額 退職一時金のみ
大学・大学院卒
(管理・事務・技術職)
2,173万円 1,897万円
高校卒
(管理・事務・技術職)
1,954万円 1,497万円
高校卒
(現業職)
1,629万円 1,080万円

(参考:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」

同じ勤続年数で比較すると、大卒者と高卒者の退職金は2倍ほど変わることが分かりました。また、同じ高卒者でも生産や販売などに関わる現業職は、退職金が少ない傾向にあります。

ただし、学歴による退職金の差は勤続年数が長いほど縮まっています。勤続35年以上のデータを見てみると、大卒者と高卒者(管理・事務・技術職)の差額は約200万円となりました。

つまり、高卒者でも勤続年数によっては多くの退職金を受け取れるケースがあるため、退職前には規定をしっかりと確認しておきましょう。

退職理由による退職金の違い

退職金の平均額は、以下の退職理由によっても異なります。

<退職理由の違い>
・会社都合による退職:倒産などの会社都合で労働契約を解除すること
・自己都合による退職:従業員本人の希望で退職をすること
・定年退職:定年制で定められた年齢に達したタイミングで退職をすること
・早期優遇退職:定年前の退職を促す代わりに、退職金などを上乗せする制度のこと

退職理由によって退職金がどれくらい変わるのか、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者のデータを見ていきましょう。

<退職理由別の平均退職給付額(勤続20年以上かつ45歳以上)>

退職理由 大学・大学院卒の平均額 高校卒の平均額
会社都合 2,156万円 1,969万円
自己都合 1,519万円 1,079万円
定年退職 1,983万円 1,618万円
早期優遇退職 2,326万円 2,094万円

(※上記はいずれも「管理・事務・技術職」を対象にしたもの。)
(参考:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」

上記の通り、最も退職金を多く受け取れるのは「早期優遇退職」です。上乗せ額は企業によりますが、大企業では数千万円の割増退職金を受け取れるケースもあります。

次に退職金が多いのは「会社都合」であり、業績不振やリストラなどを理由に退職した場合は、割増分を支給する企業が多く見られます。なお、会社都合の退職では給付制限期間なしで失業保険を受け取れるので、該当する人は手続きを忘れないようにしましょう。

一方で、自己都合の場合は退職金がやや少なく、特に勤続3年未満では退職金を受け取れないケースも増えてきます(※前述の表を参照)。そのため、転職やキャリアアップを目指して退職をする人は、早期優遇退職制度の有無を確認しておきましょう。

業種による退職金の違い

退職金の平均額は、業種によっても大きな違いが見られます。ここからは東京都産業労働局の「中小企業の賃金事情(令和2年版)」をもとに、業種別に退職金を比較したデータを紹介します。

<業種による退職金支給額の違い(勤続10年かつ自己都合退職)>

業種 高卒者の平均額 高専・短大卒者の平均額 大卒者の平均額
建設業 993万円 1,118万円 1,255万円
製造業 945万円 1,021万円 1,139万円
情報通信業 898万円 800万円 1,158万円
運輸業、郵便業 815万円 937万円 1,092万円
卸売業、小売業 881万円 934万円 1,085万円
金融業、保険業 1,125万円 1,153万円 1,189万円
不動産業、物品賃貸業 1,472万円
学術研究、専門・技術サービス業 778万円 1,002万円 1,206万円
宿泊業、飲食サービス業 487万円
生活関連サービス業娯楽業 947万円 931万円 1,001万円
教育、学習支援業 415万円 495万円 1,252万円
医療、福祉 576万円 585万円 644万円
サービス業(上記以外) 952万円 1,055万円 1,186万円
全業種 896万円 973万円 1,135万円

(※「─」は集計データなしを示す。)
(参考:東京都産業労働局「中小企業の賃金事情(令和2年版)」

飲食や生活関連などのサービス業は、全体的に退職金が少ない傾向にあります。一方で、建設業や金融業、専門・技術サービス業などは、高専・短大卒者でも退職金支給額の平均が1,000万円を超える結果となりました。

ただし、教育または学習支援業のように、大卒者になると退職金が急増するサービス業も見られます。特に中小企業については、中退共(※)に加入している企業も多いため、一概に業種で比較することは難しいでしょう。

(※)従業員の退職金を積み立てる制度。正式名称は「中小企業退職金共済制度」。

そもそも退職金がない場合も?会社規模別のデータ

退職金制度には導入義務がないため、そもそも退職金を支給していない企業もあります。どれくらいの企業が導入しているのか、以下では会社規模別のデータを紹介しましょう。

<退職給付制度の導入企業割合>

企業規模(従業員数) 退職給付制度あり 退職一時金のみ 退職年金制度のみ 両制度併用
1,000人以上 92.3% 27.6% 24.8% 47.6%
300~999人 91.8% 44.4% 18.1% 37.5%
100~299人 84.9% 63.4% 12.5% 24.1%
30~99人 77.6% 82.1% 5.4% 12.5%
全規模 80.5% 73.3% 8.6% 18.1%

(※「退職給付制度」には退職一時金と退職年金制度が含まれる。)
(※参考:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」)

一般的に「退職金」と呼ばれる一時金を支給している企業は、全体の7割ほどです。約3割の企業には退職金制度がないため、一時金を受け取れないケースは珍しくありません。また、企業規模が大きいほど、一時金と年金を併用する企業が増える傾向にあります。

<退職年金制度とは?>
退職をした従業員本人や遺族が、分割して年金を受け取れる制度のこと。代表的な制度として、次のようなものある。

・企業型確定拠出年金(企業型DC)
・厚生年金基金
・中小企業退職金共済制度(中退共)
・特定退職金共済制度
・確定給付企業年金(DB)

なお、一時金とは受け取り方や仕組みが異なるため、一般的に「退職金」という場合は一時金を指すことも多い。

特に両制度が併用されている場合は、退職金の仕組みが複雑になっている場合もあるので、疑問点が生じたら総務担当や人事に確認を取ってみましょう。

退職金に上乗せや減額はある?

退職金は原則として規定通りに支給されますが、場合によっては上乗せや減額されることもあります。

退職金が上乗せされるケース

退職金が上乗せされるケースとしては、前述の早期優遇退職が挙げられます。早期優遇退職は、主に財務体質の改善を目的として行われることが多く、この制度で退職した従業員には「特別加算金(割増退職金)」が支払われます。

特別加算金の決め方は企業によって異なりますが、以下では一例を紹介しましょう。

<特別加算金の例>
・40代の課長職以上は賃金の20ヵ月分
・非管理職は賃金の40ヵ月分
・募集1回目は賃金の30ヵ月分、募集2回目は賃金の20ヵ月分

なお、リストラなどの会社都合であっても、特別加算金の支給は義務ではありません。あくまで各企業が独自に支給するものなので、支給されないケースも多く存在しています。

退職金が減額されるケース

基本給をもとに退職金が計算されている企業では、昇給・降給が退職金に影響します。

例えば、採用企業が多い最終給与比例方式では、「通常基本給×勤続年数別支給率」の式で退職金が計算されます。このうち、降給をすると「通常基本給」の金額が下がるため、受け取れる退職金も減ることになってしまいます。

また、勤続年数を基準に計算される企業では、休業・休職によって退職金が減ることもあります。実際にどれくらいの企業が減額扱いにしているのか、以下ではニュートン・コンサルティング株式会社によるデータを紹介しましょう。

<退職一時金における休業・休職の扱い方>

休業・休職の扱い方 割合
どのような休業・休職であるかにかかわらず一律的に全てを勤続期間から除算している 42.3%
どのような休業・休職であるかにかかわらず一律的に通常勤務の期間と同様に扱っている 24.0%
どのような休業・休職であるかにかかわらず一律的に一定割合に相当する期間を勤続期間から除算している 2.8%
それぞれの休業・休職により異なる 26.6%
その他 4.3%

(参考:ニュートン・コンサルティング株式会社「民間企業における退職給付制度の実態に関する調査研究報告書」

上記の通り、4割以上の企業は休業・休職を勤続期間から除算していることが分かりました。育児休暇や介護休暇も除算対象に含まれる可能性があるので、長期休暇の前には退職金規定をチェックしておきましょう。

退職金を受け取る際のポイント

ここまでの内容を踏まえて、以下では退職金を受け取る際のポイントをまとめました。気になる税金についても解説しているので、最後までしっかりと確認していきましょう。

退職金の有無や計算方法は就業規則をチェック

退職金の有無や計算方法は、会社の就業規則に記載されています。就業規則は社内への周知が義務化されていますが、見当たらない場合は以下の場所を探してみましょう。

<就業規則の閲覧方法>
・入社時に受け取った冊子
・パソコンの共有フォルダ
・会社のポータルサイト など

なお、従業員数10人未満の企業については、就業規則の作成・掲示が義務ではありません。退職金規定をどうしても確認したい場合は、総務や人事などに問い合わせましょう。

税金がかかることを忘れない

通常の賃金と同じように、退職金にも税金がかかります。以下の退職所得控除は適用されますが、控除しきれない金額分には所得税または住民税が課されます。

勤続年数 退職所得控除額の計算方法
20年以下 40万円×勤続年数(※80万円が下限)
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

<退職金にかかる税金の例>

・勤続10年の従業員が1,000万円を受け取った場合
40万円×10万円=400万円(退職所得控除額)
受給金額-退職所得控除額=課税対象になる退職金
1,000万円-400万円=600万円

・勤続年数25年の従業員が5,000万円を受け取った場合
800万円+70万円×(25年-20年)=4,350万円(退職所得控除額)
5,000万円-4,350万円=650万円(課税対象になる退職金)

住民税は一律10%ですが、所得税については課税所得金額(※退職金以外も含む)によって税率が変わります。

課税所得金額 税率 控除額
1,000円~1,949,000円 5% なし
1,950,000円~3,299,000円 10% 97,500円
3,300,000円~6,949,000円 20% 427,500円
6,950,000円~8,999,000円 23% 636,000円
9,000,000円~17,999,000円 33% 1,536,000円
18,000,000円~39,999,000円 40% 2,796,000円
40,000,000円以上 45% 4,796,000円

(参考:国税庁「所得税の税率」

退職金を受け取る年は税負担が重くなりやすいので、事前にシミュレーションをしておきましょう。

確定拠出年金がある場合は受け取り方を工夫する

確定拠出年金の一時金と退職金には、いずれも退職所得控除が適用されます。つまり、両方を同一年内に受け取ると、その合計金額をもとに控除額が計算されるため、税負担が大きくなってしまう恐れがあります。

もし一時金と退職金を控除しきれない場合は、確定拠出年金の受け取り方を工夫してみましょう。例えば、受給方法を年金に変えたり、受給開始年齢を先延ばし(※)にしたりすると、節税効果を高められる可能性があります。

(※)2022年4月からは75歳までの先延ばしが可能。

退職前には就業規則で退職金規定を確認しよう

退職金の平均額は、勤続年数や学歴、業種などさまざまな要素によって変わります。実際の計算方法は退職金規定によるため、退職前には就業規則等をしっかりと確認し、大まかな金額をあらかじめ把握しておきましょう。

また、確定拠出年金に加入している場合は、受け取り方によって節税効果が変わってくるので、より細かくシミュレーションすることが大切です。

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