世界経済に不安定な見通しが強まる中、欧米や日本のREIT市場では住宅やオフィスビルに代わる投資対象として、「データセンター」や「物流施設・倉庫」が注目を浴びています。世界規模でのデジタル通信量の拡大や持続的なEC(電子商取引)市場の成長を追い風に、今後さらなる成長が見込まれている2つのセクターについてレポートします。
世界のREIT動向
REIT(Real Estate Investment Trust)は、投資家から集めた資金を使い、投資法人が不動産に対して投資を行う金融商品です。投資家には不動産から得られた売却益や賃貸収入などから、管理手数料などを差し引いた収益が配当金として支払われます。
パンデミックからの回復が期待されていたREIT市場ですが、2022年は世界的な金利上昇や景気減退の懸念、地政学的リスクの高まりなどが、不安材料として重くのしかかっています。
2022年10月28日時点で、グローバルREITの過去3ヵ月の騰落率は-11.8%、過去1年間では-17.9%とマイナス成長を記録しました。
しかし、REITは株式投資と比べると「インフレや景気後退局面での耐性がある」とされており、次第に底堅さを取り戻すと予想されています。
6月からは米REITが力強いパフォーマンスを見せ、9月までダウ・ジョーンズ工業株平均を上回り、+16%になっていました。国内REITも同時期に+6%のパフォーマンスになっています。
注目を浴びる2つの「REIT」セクター
不動産投資にも大きな変化の波が押し寄せている現在、REIT市場で特に将来性を期待されているセクターとしては「データセンター」と「産業施設(物流・倉庫)」が挙げられます。その理由を見てみましょう。
データセンターREIT
データセンターとは、インターネット用のサーバーやデータ通信、固定・携帯・IP電話などのサービス提供に必要な装置を設置・運用するための施設です。データセンターに特化したREITは施設内のスペースを顧客である企業に貸し出します。
データセンターREITが注目されている理由の一つはその「成長性」と「継続性」です。
世界のデジタルデータ量は年々増加しており、米国のREIT市場においては2020年時点でデータセンター銘柄の時価総額がオフィス銘柄を上回りました。インターネット・データセンター(IDC)の予想によると、データ利用量は2025年まで年平均24%のペースで増加し続けるため、データセンターの容量を増やすなど、データを転送・保存するためのインフラを追加する必要が生じるでしょう。
日本においても、シンガポールのプリンストン・デジタル・グループが10億ドル(約1,450億円)規模のデータセンターの建築計画を発表したほか、大和ハウスやGLPなどの大手不動産が続々とデータセンタービジネスに参入しています。
投資家にとってのもう一つの期待材料は、データセンターREITが比較的不況に強い点です。通常、データセンターの顧客(テナント)は長期契約を結ぶため、継続的な収益を上げることが期待できます。
物流施設・倉庫REIT
物流施設・倉庫セクターも、EC市場拡大の恩恵を大いに受けている分野の一つです。近年は需要の多様化に伴い、業務の効率化を図る高機能物流施設への移行が進んでいます。
その一方で、EC市場の巨大企業であるAmazonが2022年4月、パンデミック中の過剰投資を理由に、米国で少なくとも1,000 万平方フィート(約929平方キロメートル)相当の倉庫スペースを縮小する計画を明らかにしました。また、多くの企業がコスト削減とオフィスへの復帰を理由に倉庫スペースを削減しています。
このような潮流を受け、産業施設(物流倉庫)REITは現在も下落しているものの、EC市場の持続的な成長と慢性的な物流施設・倉庫不足を背景に、市況の回復が期待されています。
すでに一部のREITでは、追加投資する動きが見られます。
最近では、米国のREITのプロロジスが欧州の物流施設などを15億8,000万(約2,291億円)で取得しました。その内訳は、物流施設が128件、物流施設の新規開発が6件となっています。
潜在的リスクも念頭に!
緩やかな回復と持続的な成長が期待されているREITですが、金利上昇による借入コストの増加や過剰供給による賃貸料の低下など、REITに影響を与えるさまざまな潜在的リスクも把握しておく必要があります。
データセンターにおいては、サーバーやネットワーク機器の動作と冷却を維持するために、大量のエネルギーと水が使用されます。そのため、気候変動や暴風雨、干ばつなどが、データセンターの能力に影響を与える可能性も念頭に置くべきでしょう。Wealth Roadでは、今後もREIT市場の動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=145円、1ポンド=164円
※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買及び投資を推奨するものではありません。