新しい旅行・観光のカタチ 急成長を遂げる「エコツーリズム」とは?

サステナビリティ(持続可能性)やESG(環境・社会・ガバナンス)に対する消費者意識が高まっている近年、「エコツーリズム(Ecotourism)」の市場が急成長を遂げています。今後5年間で約49兆円規模に達すると予想されているサステナビリティ時代のツーリズムと、その成長の可能性に迫ります。

広範囲な持続可能性を支援する「エコツーリズム」

自然環境保全(Ecological)×観光旅行(Tourism)の造語であるエコツーリズムの起源は、世界的なエコ活動が本格化した1970~1980 年代に遡ります。当時は野生生物やサンゴ礁、人里離れた自然地域の探索など、「自然の生息地を破壊することなく、自然環境の中で過ごす旅行」と定義付けられていました。

近年はサステナビリティ意識の高まりを受け、環境面だけでなく地域経済の活性化やコミュニティの促進、文化交流など、広範囲な分野で持続可能性を支援する「サステナブルな観光モデル」へと定義が広がっています。そのため、「サステナブル・ツーリズム(Sustainable Tourism)」と呼ばれることもあります。

利用者は年々増加傾向にあり、米市場調査企業アライド・マーケット・リサーチの調査で、世界のエコツーリズム市場が2019 年に 922 億ドル(約13兆3,690億円)を突破したことが明らかになりました。新型コロナウイルス感染症の影響から観光業が息を吹き返しつつある現在、2027年までに3,338 億ドル(約48兆4,010億円)規模の市場に成長すると予想されています。

エコツーリズムのメリット・デメリット

エコツーリズムのメリットは、自然の探索からポジティブな体験を得ると同時に、地域社会の文化や環境への知見を養う「学びの旅」である点です。

観光地にとっては自然・動物保護の意識を高められるだけではなく、観光客の消費支出が地域経済の活性化につながります。さまざまな文化を持つ観光客を受け入れることにより、多様性に富んだコミュニケーションを深められるというメリットもあります。

一方で、観光客の増加がさまざまな軋轢を引き起こすデメリットが指摘されています。

多くのエコツーリズム先は遠隔地にあることから、移動に飛行機や船、車などを必要とします。統計サイト「アワ・ワールド・データ(Our World Data)」によると、2019年の世界の温室効果ガス排出量において航空産業が占める割合は1.9%、CO2排出量は2.5%に達しました。

観光客が増えると地域の自然や穏やかな雰囲気が壊されるだけではなく、ポイ捨てを含むゴミの増加や外来植物の持ち込みが、地域の生態系の破壊につながる可能性も懸念されます。観光客用の宿泊施設を建設するために、地域の部族が住み慣れた土地からの移動を余儀なくされたなど、地域社会に及ぼす弊害も報告されています。

「中米髄一のエコツーリズム国」コスタリカ

エコツーリズムがどのようなものなのか、エコツーリズムのホットスポットの一つとして世界的に評価の高いコスタリカの例を見てみましょう。

土地の25%を熱帯雨林が占める南米コスタリカは、国を挙げてエコツーリズムの推進に積極的に取り組んでいる国の一つです。国土の4分の1 は国立公園や野生動物保護区、海洋保護区、保護区として保護されており、美しい自然と生物の多様性や火山エネルギーを利用した温泉・プールなど、「中米髄一のエコツーリズム国」の名に相応しい名所が多数存在します。

一方で、同国は供給電力の99.98%を再生可能エネルギーで賄っており、環境にやさしい建物や宿泊施設が多数立ち並んでいます。「環境にやさしい」とは、「サステナビリティの5R原則」である廃棄物の軽減・回収・転用・再利用・再生(Reduce・Refuse・Repurpose・Reuse・Recycle)という廃棄物管理プロセスを遵守し、有機的な土地の自然保護を推進することを指します。

他にもハワイやパラオ、ブータン、ニカラグア、エクアドル領のガラパゴス諸島、フィリピンのソルソゴンなどが、エコツーリズム先として人気があります。

さらなる市場成長に向けた課題

今後も成長を続ける上で、取り組みが必要な課題もあります。

観光客の増加が温暖化の悪化や自然破壊の原因にならないように、観光地への交通アクセスの向上やより環境に優しく効率的な移動手段を確立することが求められています。地域文化を損なわないために、地元のコミュニティへの敬意や理解も必要です。

一方で、多くのエコツーリズム先で衛生的かつ質の高いサービスを提供する宿泊施設や飲食店が不足している現状が、市場の成長を抑制しているとの指摘があります。

サステナブルなエコツーリズムは、環境保護に向けた経済的インセンティブを提供すると同時に、地域社会における生活の質の向上にも貢献すると言われています。このような取り組みは、国連で採択された「SDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)」の達成にも役立つでしょう。Wealth Roadでは投資のチャンスとともに、今後もエコツーリズム市場の動向をレポートします。

※為替レート:1ドル=145円
※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買及び投資を推奨するものではありません。

Recent Posts

  • マーケットビュー

弱含みか正常化か?大局的な視点で見る世界経済

※インベスコ・アセット・マネジ…

1か月 ago
  • マーケットビュー

FRBは景気後退を回避するために金融政策を再調整

※インベスコ・アセット・マネジ…

1か月 ago
  • マーケットビュー

日本:金融市場から見た石破新政権

※インベスコ・アセット・マネジ…

1か月 ago
  • マーケットビュー

中国:広範囲の金融緩和政策とその評価

※インベスコ・アセット・マネジ…

1か月 ago
  • お金の使い方

S&P500に100万円を投資! 10~30年後をシミュレーション

S&P500と連動する…

2か月 ago
  • 資産管理

新NISAのつみたて投資枠は貯金代わりになる? 5つの違いを解説

新NISAで安定運用を目指すと…

2か月 ago