〔要旨〕
異例の状況:市場は、世界の中央銀行による異例の引き締めの影響を懸念
急激な政策金利の引き上げ:利上げが急激に行われており、市場参加者は資産価値の再評価を早急に試みる状況に
潜在的な投資機会:市場の混迷時には大幅なミスプライスが発生し得る。このため、十分長期の時間軸で構え、潤沢な余剰資金がある投資家には、潜在的な投資機会となる可能性も
引き締めが市場へ与える影響
今後の投資計画
二週間前の本リポートでそうなるかもしれないとは言いましたが、結果的に私は「まぬけな楽観主義者」だったことになります。先週、米連邦準備理事会(FRB)から、私が期待していたような0.5%の利上げは発表されませんでした。それどころか、0.75%の利上げ決定後の記者会見では、ハト派的な要素の一端さえも見られませんでした。(小説「白鯨」の舞台となったピークォド号の)エイハブ船長が、白いマッコウクジラのモビー・ディックを執念深く追いかけるように、たとえそれが破壊的なプロセスになろうとも、パウエルFRB議長はインフレ抑制のみに集中しているように見えます。
FRBは「世界の中央銀行」と呼ばれてきました。少なくとも最近は、FRBにその自覚はないようですが、これだけ世界各地で多大な資産クラスに影響を与えていることを踏まえると、それは的確な表現と言わざるを得ません。もちろん、引き締めはFRBのみによるものではありません。先週は、イングランド銀行やスイス国立銀行(中央銀行、スイス中銀)を含む複数の中央銀行が利上げを決定しました(スイス中銀は二週間前の私のリポートで言及した「0.75%は新しい0.25%」を心に刻んだかのように、6月の予想外の0.75%の利上げに続いて、先週さらに0.75%の利上げを決定しました)。
数週間前に世界銀行も警告を発していましたが、早速、この異例の引き締めが引き起こす影響を見てみましょう。
引き締めが市場へ与える影響
株式 :先週、世界株式(MSCIワールド指数)は5%下落しました 1 が、8月中旬に付けた直近のピーク以降、下落が続いています。その主な要因は、FRBのタカ派的な発言と、依然として高止まりしているインフレ指標と考えられます。先週は、直近の米連邦公開市場委員会(FOMC)をきっかけに、株式市場では売りが加速しました。同会合で、FRBは0.75%の利上げを決定しただけでなく、「ドットプロット(FOMCメンバーによる金利予測分布図)」では2022年末(およびそれ以降)まで、予想されていた以上の利上げが行われるとの見通しが示されました。
債券:ここ数カ月、中央銀行の引き締め政策により利回りは上昇(債券価格は下落)しています。米10年国債利回りは、年初の1.51%から、23日(金)には一時、3.82%を記録しました 2 。世界債券(Bank of America Merrill Lynch Global Government Bond Index)は先週、2.3%下落しました 3 。英国では補正予算が発表され、英国債利回りが急上昇しました。その結果、世界中で債券利回りが上昇し、英国と欧州の債券市場が大きな損失を被っただけでなく、株価下落の憂き目にもあいました。以前にも述べたように、西欧はエネルギー危機に直面しており、特に困難な経済課題を抱えています。家計や企業がエネルギー価格の高騰を乗り切るために財政支援が必要になるかもしれませんが、それが状況を複雑にし、イングランド銀行や欧州中央銀行(ECB)が一層の金融引き締めを実施せざるをえないかもしれません。
米ドル:米国債と他の国債との金利差が縮小しているにもかかわらず、米ドル高が続いています。先週のFRBのタカ派的な発言は、米ドル高を助長しただけでしたが、特筆すべきは、英国の新補正予算に反応した英ポンド安でした。そこで発表された減税幅が予想を上回ったことから、このような大盤振る舞いのために発行しなければならない英国債の買い手が見つかるかどうかという懸念が生じました。少なくとも、英国政府は英ポンドをより安く、国債利回りをより高めて需要を喚起することで、なんとか収支のつじつまを合わせなければならないと考えています。為替市場の反応は、1980年代半ばの通貨危機を呼び覚ますものでした。英ポンド/米ドルレートは一時、1985年の安値1.05を下回り、1.03程度まで下落したものの、イングランド銀行が緊急声明を準備しているとの報道を受けて急反発しました 4 。英ポンドの防衛には外貨準備が十分ではないため、イングランド銀行が為替市場に直接介入する可能性は低いと考えられますが、より急速な利上げを実行する可能性はあります。
日本円:日本銀行が金融引き締めを行わないことを明確に示し続けたことから、先週は円安がさらに進みました。そこで、日本の財務省は為替介入を決め、数十年ぶりに円買いを実施しました。これは、”trust but verify(信ぜよ、されど確認せよ)”という古い格言の金融政策版と言えるでしょう。多くの市場参加者は介入当日まで、日本当局が円を防衛すると言ったものの、実際には行わないと高をくくっていたのではないかと思います。証明されなければ信じられない、といったところです。しかし、当局が実際に介入し、それが比較的功を奏して円安一服になると、こうした見方は一変しました。したがって、当局が必要に応じて介入する意思を証明してみせたことで、今後は円ショートの動きはあまり見られなくなるように思います。円の買い支えは、円に対してより双方向の動きを生み出すことを意図しており、そうなれば円ショートは一方的な取引ではなくなるのではないでしょうか。とは言え、こうした信頼がそう長く続くとは限りません。結局のところ、日本銀行は金融引き締めを行っていない数少ない中央銀行の1つであり、国債利回りの上限を維持することで緩和的な金融政策を続けているため、円ショートはかなり魅力的な取引には違いありません。つまり今後も、日本政府は必要に応じて時には介入することで、介入の意思への信頼を証明する必要がありそうです。
コモディティ:先週、コモディティ価格は、継続する経済成長への不安と米ドル高を背景に下落しました。銅やその他の工業用金属が下落しましたが、最も注目すべきは原油価格の急落で、エネルギー関連株のパフォーマンスにも影響を与えました。ウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)原油は、週初の1バレル=85.10米ドルから、週の終わりには78.70米ドルまで下落しました 5 。
金:金価格も先週、下落しました。今年の状況から分かった興味深いひとつの特徴は、金がリスクヘッジ資産としてそれほど有効でないことが証明されたことです。これは、金利上昇局面において、利子を生まない資産クラスである金を保有することの機会費用に起因していると考えられます。加えて、米ドル高も大きく影響しました。
今後の投資計画
一歩引いて考えると、ここ1カ月ほどの株式市場の下落は、6月中旬に始まったリバウンド(これはますます「デッドキャットバウンス(株式市場が大きく下げた後の一時的な反発)」のようです)の巻き返しであり、年初に見られた状況の延長線上にあるように思います。問題は、今後どうすべきかです。
VIX指数(ボラティリティ指数)が底入れの目安とされる40に達するなど、典型的な投げ売りの兆候が見られないことから、もう一段下落する可能性がありますが、底入れには近づいていると考えます。私たちは、現在、ピークよりも底値にはるかに近いのではないでしょうか。業績の下方修正が相次ぎ、株価の下押し圧力となる可能性がかなり高いものの、こうした失望感は、一部、すでに織り込み済みと考えられます。
また、中央銀行による発言のトーンに反して、利上げが開始されてから今までの時間よりも、これから利上げが打ち止めになるまでの時間の方が短いと考えています。特に、主要な中央銀行は利上げを「前倒し」で行っており、近いうちに比較的小規模な利上げが実施される可能性が高いと考えます。これまでの引き締め策を、懸命に時間をかけて消化しようとしている金融市場にとって、こうした対応により、今後の利上げが飲み込みやすい大きさになるのであれば、歓迎すべきことではないでしょうか。こうした中で、カナダ銀行(中央銀行)の状況は1つの希望の光と言えるでしょう。カナダ中央銀行は、8月のヘッドライン・インフレ率とコアインフレ率がともに市場予想を下回り、インフレとの闘いが進捗していることに満足しているようです。特に消費者需要が低迷していることから、10月下旬の金融政策決定会合では、0.25%の利上げに軸足を移す可能性は十分にありそうです。
まとめると、先週は、ロシア・ウクライナ紛争によって生じた問題に加え、過去数カ月にわたって経験した引き締めの累積的な影響が象徴的に表れた週でした。しかし、市場の混乱時には大幅なミスプライスが発生しうる点は、好材料にもなりえます。利上げが急速に進む中、市場参加者は資産価値の再評価を急いでおり、しばしば見誤ることがあります。十分に長期の時間軸を持ち、かつ潤沢な余裕資金があれば、十分に分散されたポートフォリオを戦術的に変更できる投資家にとって、今回の株価の大幅下落は潜在的な投資機会になりうると、私は考えています。
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
- 出所:MSCI World Index、2022年9月23日
- 出所:ブルームバーグ、2022年9月23日
- 出所:Bank of America Merrill Lynch Global Government Bond Index、2022年9月23日
- 出所:ブルームバーグ、2022年9月23日
- 出所:ブルームバーグ、2022年9月23日
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MC2022-139