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景気後退か、あるいは底堅い状況か?複雑な米国経済

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目次

〔要旨〕

米国経済:景気後退入りではないが、減速しているもよう。消費者の痛みは確実に存在

英国のインフレーション:イングランド銀行は、景気を悪化させることなくインフレを抑制することを目指して、綱渡りの政策を遂行している

中国の不動産市場:中国経済は新型コロナ関連のロックダウンからの回復期にあるものの、不動産セクターからの逆風にさらされている

米国は景気後退ではないが、景気減速に直面しているもよう

米国景気がどの程度減速するかは、FRBの動向に大きく左右される

カナダ銀行(中央銀行)は、利上げを継続する可能性

カナダでは、底堅い雇用状況を背景に、利上げが継続する見込み

イングランド銀行はインフレの高騰を予想

高インフレの継続が予想される中、イングランド銀行は約30年ぶりとなる0.5%の利上げを実施

圧力にさらされているユーロ圏経済

ユーロ圏では、インフレ率の高騰、金利の上昇、供給不安(特にエネルギー)により、7月にほぼ10年ぶりとなる生産と需要の大幅な落ち込みを記録

不動産市場の沈静化を図る中国

中国政府は、不動産市場のリスクが金融システムに波及しないようにするための手段を備えている

終わりに:長期的な視野に立つ

投資家は長期的な視点を持ち、株式、債券、オルタナティブ資産に十分に分散して投資することが重要に

私の16歳の娘がクラブ活動でバスケットボールをやっていますが、ここ数年、7月は多くの州で開催されるさまざまな大会に足を運びました(途中、ビーチにも立ち寄りました)。ケンタッキー州ルイビル、インディアナ州ミシガンシティ、イリノイ州シカゴ、コネチカット州アンカスビル(途中、他の場所にも立ち寄りました)などを訪れましたが、米国経済は非常に好調な様子でした。ガソリン価格の高騰、食費の値上げ、そして消費者心理の悪化が伝えられているにもかかわらず、多くの消費者が食事や買い物に出掛け、「求人」の看板も数多く見かけられました。

7月の米雇用統計では、米国経済の力強さが如実に示されました。非農業部門の雇用者数は市場予想をはるかに上回りました。また、前月に上昇ペースが落ち着いていた賃金は、今月は前月比0.5%増と予想を上回り、前年比でも5.2%増となりました 1 。雇用統計が発表されると、ツイッターの世界では、多くのエコノミスト、ストラテジスト、評論家が、FRBの積極的な引き締めにもかかわらず、米国景気が好調を維持していると伝えました。私の頭の中では英国のロック・グループ、クイーンの「Don’t Stop Me Now」の歌詞が何度も流れ、まるでクイーンのコンサートに行っているような気分でした。

米国は景気後退ではないが、景気減速に直面しているもよう

米国景気がどの程度減速するかは、FRBの動向に大きく左右される

しかし、現実はもっと複雑です。米国の雇用情勢を掘り下げてみると、正規雇用を希望するパートタイム雇用者数が30万3000件増加しました 1 。理想的な雇用状況とはいえませんが、決して悪い状況でもありません。米国供給管理協会(ISM)が発表した7月の購買担当者景気指数(PMI)は、製造業PMIが52.8、非製造業PMIが56.7となり、景気の拡大基調が続いていることを示す数値でした 2 。しかし、米国経済は決して楽観視できる状況ではありません。

そして、重要なポイントは、「米国景気は後退というほどではないものの、減速しているように感じられる。」というものです。米国には、消費者の痛みが確実に存在しています。例えば、食品価格の高騰により、食事を抜く米国人が増加していると言われています。また、生活費をまかなうことができないためか、家計におけるクレジットカードの負債が膨らんでいます。2022年に入って実質所得が大幅に減少していることを考えれば、このような事態は驚くにはあたらないでしょう。このような状況、つまり米国経済が大きな強みと弱みを併せ持つ状況は、先日の本リポートでご紹介したような、「断絶」の一つと言えるでしょう。

このように、FRBが非常に急速かつ大幅な引き締めを行ったにもかかわらず、米国経済はむしろ底堅いように見え、少なくとも現状は、景気後退入りしているようには感じられません。パウエルFRB議長が最近認めたように、FRBの引き締めの多くはまだ経済指標に表れていないのが現実です(もちろん時間的なラグがあります)。ですから、雇用統計などで景気減速の兆候が見られるのは単なる時間の問題でしょう。繰り返しになりますが、景気がどの程度減速するかは、FRBの動向に大きく左右されます。

こうしたぜい弱性、そして2四半期連続の国内総生産(GDP)の縮小にもかかわらず、雇用統計が堅調であることから、FRBは9月に0.75%の利上げを行う可能性が高いと私は考えています。しかし、その決定がなされる前に、8月10日公表の消費者物価指数(CPI)など、さらに多くの経済データが発表される予定となっています。

カナダ銀行(中央銀行)は、利上げを継続する可能性

カナダでは、底堅い雇用状況を背景に、利上げが継続する見込み

カナダ銀行(中央銀行)は、FRBと比べると、経済を減速させることがもう少し得意のようです。7月の雇用統計での雇用の減少は、まだ小幅ではあるものの、市場予想を上回りました。また、平均時給は依然として高いものの、7月は6月よりも上昇幅が小さくなっています。しかし、この結果は、カナダ銀行にはまだ高すぎる水準のようであり、ほんの数週間前に1%の大幅利上げを行ったにもかかわらず、カナダ銀行は利上げを続ける可能性が高いと考えられます。カナダ銀行は利上げを止める態勢にないようです。

イングランド銀行はインフレの高騰を予想

高インフレの継続が予想される中、イングランド銀行は約30年ぶりとなる0.5%の利上げを実施

イングランド銀行(BOE)は、最新のインフレ予測で一部の人々を驚かせ、落胆させました。BOEの予測では、インフレ率が10月に13.3%でピークに達し、2023年後半まで2ケタ台が続くとなっています 3 。BOEは、英国が景気後退に陥っているにもかかわらず、インフレ率が高止まりすると予想しているのです。

そのため、イングランド銀行は巨大サイズの大槌を持ち出す必要があったのです。イングランド銀行は、8月4日、約30年ぶりに0.50%の利上げを実施しました。9月に追加の0.50%の利上げを行うことは妥当と考えられますが、需要の見通しによっては、次回の利上げ幅は0.25%に縮小されるかもしれません。

FRBや欧州中央銀行(ECB)など他の中央銀行と同様、BOEは自国経済を衰退させることなくインフレを抑制することを目指して綱渡りをしています。そして、中央銀行を最近批判したトラス外相が次期英首相になった場合には、イングランド銀行は厳しい監視の中でこの綱渡りを行わなければならないかもしれません。

圧力にさらされているユーロ圏経済

ユーロ圏では、インフレ率の高騰、金利の上昇、供給不安(特にエネルギー)により、7月にほぼ10年ぶりとなる生産と需要の大幅な落ち込みを記録

ユーロ圏ではインフレが高騰しており、ユーロ圏経済は非常に大きな圧力にさらされているにもかかわらず、インフレ率の上昇はとどまる様子を見せません。ユーロ圏のインフレのほとんどは需要が主導したものではないため、ユーロ圏のインフレを収めることは難しく、ECBはインフレを「止める」前に経済を「止めて」しまう恐れもあります。

直近では、サービス業PMIは依然として好不況の分かれ目となる50を上回っているものの、製造業PMIは50をやや下回りました。しかし、S&Pグローバルのクリス・ウィリアムソンは、以下のように指摘しています:「ユーロ圏の経済見通しは7-9月期に入ってから悪化しており、最新の調査データでは7月における域内総生産(GDP)の縮小が示された。インフレ率の高騰、金利の上昇、供給不安(特にエネルギー)により、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)による都市封鎖の期間を除き、ほぼ10年ぶりの生産と需要の大幅な落ち込みを記録した 4 。」

不動産市場の沈静化を図る中国

中国政府は、不動産市場のリスクが金融システムに波及しないようにするための手段を備えている

中国では、デベロッパーがプロジェクトの建設を中止したという理由で、かなり多くの家計が建設中の不動産にかかる住宅ローンを支払わなくなりました。中国経済は新型コロナの流行に対処するための厳格な行動制限(ロックダウン)により受けた悪影響から回復しつつありますが、現在は不動産セクターからの逆風にさらされているため、これが早期に解決されることが望まれます。政策当局は、消費者が銀行による法的措置のリスクを回避できるように、消費者に対して住宅ローンを期限通りに支払うよう強く促すと同時に、デベロッパーには休止中のプロジェクトを再開するための流動性をより多く提供することになるでしょう。中国政府は、こうしたリスクが金融システムに波及しないようにするための手段を備えていると考えています。

終わりに:長期的な視野に立つ

投資家は長期的な視点を持ち、株式、債券、オルタナティブ資産に十分に分散して投資することが重要に

多くの中央銀行は行動を開始しており、国によって経済指標がかなり重要となります。特に地政学的緊張の高まりや業績の下方修正の可能性を考えると、市場のボラティリティはより高まる可能性が高いでしょう。投資家としてできることは、長期的な視野を持つことだと考えます。すなわち、株式、債券、オルタナティブ資産に十分に分散して投資し、余裕があれば機動的な投資を行うことだと考えています。

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

  1. 出所:米国労働省労働統計局、2022年8月5日
  2. 出所:米国供給管理協会、2022年7月
  3. 出所:イングランド銀行、2022年8月
  4. 出所:S&Pグローバル、2022年8月3日

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