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(画像=Joyseulay/Shutterstock.com)

ラーニング・アナリティクスと未来の教育像

教育のデジタル化が加速するなか、ラーニング・アナリティクス(Learning Analytics)という新たな領域の研究が進んでいます。近年集積されつつある学習にかかわるビッグデータを分析、活用するアプローチで、その手法も進化しつつあります。このラーニング・アナリティクスは教育現場で実際にどのように活用され、影響を与えているのでしょうか?理解を深め、未来の教育像を予想してみましょう。

教育の価値を最大限に引き出す「ラーニング・アナリティクス」

ラーニング・アナリティクスは「学習分析」を意味します。学習者と学習に関するデータを収集・分析し、学習と学習環境の最適化に役立てるためのアプローチです。近年はインターネットに接続されたデバイスやアプリを授業や学習法に取り入れる教育機関が増えており、学習履歴やプロセス、行動などを容易に記録・保管可能な環境が整備されています。

ラーニング・アナリティクスはこれらの蓄積されたビッグデータから「教育の価値」を最大限に引き出すための手法です。近年はデータの収集や分析だけではなく、結果を把握しやすいよう「表やグラフなど可視化できるもの」「結果に基づき自動的に提案を行うもの」など、さまざまなラーニング・アナリティクスサービスが生まれています。

学習からマーケティングまで 多様な目的に活用

ラーニング・アナリティクスにはさまざまな手法があり、目的に合わせて適切なものを選択できるようになってきています。例えば学習者の学習状況に焦点を当てる場合、特定の学習者グループの学習パターンと成果を分析し「どのような学習者が優れた成果を出しているか」「どのような学習者がサポートを必要としているか」といった分析・予想を得ることが可能です。

さらに「プログラムを受講した学習者のパフォーマンスに改善が見られるか」「どのような学習方法論がより効果的か」など学習プログラムの効果に焦点を当てる活用法もあります。そのためラーニング・アナリティクスは、学習者や教育機関から、商品・サービスの展開およびマーケティングを目的とする教育関連企業まで、広範囲に活用されているのです。

スタートアップが変える教育の未来

IBMなど大手企業もラーニング・アナリティクスツールを開発していますが、画期的なアイデアで教育構造の革命を目指すスタートアップの活動も活発化しています。これらのスタートアップのサービスは、単に成績アップや学習プロセスの効率化を図るだけではありません。生徒1人ひとりの学習能力やペース、パターンの違いを理解し、それぞれの能力を最大限に引き出す手法を特定することに重点を置いている点が特徴的です。ここでは3つのスタートアップについて例を挙げてみましょう。

Panorama Education

全米数百の学区で使用されているSaaSプラットフォームを通じて学生の学習に関するデータをモニタリングし、個々の生徒に合わせた学習や行動のサポートを提案する教育機関向けサービスを提供しています。モニタリングするデータは成績、出席率、行動、社会性と情動の学習(Social-emotional Learning)、カレッジレディネス(大学に進学する学力があるかの測定)など多岐にわたります。

Civitas Learning

過去10年にわたり、米国の大学生の卒業率が60%前後に停滞していると指摘されています。ここに着目し、南フロリダ大学を含む多数の教育機関と提携して収集したデータから問題点を特定し、学生の在籍率、卒業率の向上に役立てるクラウドベースのマネジメント・ソリューションプラットフォーム「Illume」や、学習分析・予想ソリューション「Student Success Intelligence Platform」を提供しています。単に大量のデータを収集するのではなく、学習プロセスや成果の向上に必要なデータに焦点を当てることにより、学校側は学生に最適なサポートを特定し、提供できます。卒業率が34%アップしたというデル・マー大学を筆頭に、既に多数の教育機関が同社のサービスを通し、在学率と卒業率の向上を報告しています。

Knewton

日本にも進出を果たしているKnewtonは、幅広い学習目的や言語、年齢層に対応するラーニング・アナリティクス市場のリーダー的存在です。学習状況の分析に加え膨大な実証研究に基づくアダプティブ・ラーニング(適応学習)を提案しており、世界中の教育機関から評価をされ、すでに4000万人以上の利用実績がある、としています。

同社の提供するアダプティブ・ラーニング・プラットフォームは、心理学統計や項目応答理論(評価項目に対する応答に基づき、認知能力や知識、人格特徴などを測定する手法)などに関する長年の研究成果を元に、学生の理解度を学習目的別に測定します。複数の学習目的の関連性を定義し、個々の学生に最適な学習プロフラムを提案できるよう設計されています。

現在は200年以上の歴史をもつ米学術出版社John Wiley&Sonsの傘下企業としてさらなる教育の価値の追求と向上に挑んでいます。

教育の未来はデータを基にした「個人重視型」に

上記のスタートアップ企業群に見られるように、昨今の教育に対するアプローチは、テストの点数や学習時間に焦点を置く「成果重視型」から、生徒の学習能力や関心に焦点を置いて得意分野を伸ばし不得意分野を克服する「個人重視型」へと変化しつつあります。学習に影響を与える多様な要因との関係性を明らかにすることにより学習能力の向上を阻む潜在的な問題点を特定することが可能です。

個人の教育的な成長は長い年月が必要であり、かつ、その時々で問題点は変わります。これまで、学校教育はカリキュラムに沿って教師が行い、家庭教育はそれぞれの家庭方針に沿って親が行うなど、異なる目的や役割がありました。

しかし、個人重視型のアプローチは、継続的かつ客観的で、効果の大きい学習の解決策を提供し、成果をモニタリングすると同時に、学習意欲の維持・向上をサポートすることにより、ベストな結果へ導くことが目的です。ラーニング・アナリティクスのさらなる進化と普及により、子どもを個別にサポートする、教師と親の二役を担える教育スタイルが、近い未来に実現するのかも知れません。

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