デジタル社会への移行は消費者の生活の向上や行政の効率化、新たなビジネスモデルの構築などのメリットをもたらす反面、「e-waste(電気電子機器廃棄物)」の増加という深刻な問題の原因にもなっています。
この問題の解決に向けて、世界中でさまざまな取り組みが行われており、それに伴って新たな投資のチャンスが生まれています。
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「Electric Waste=電気電子機器廃棄物・電子ゴミ」とは、スマホやパソコン、タブレット、ゲーム機、家電製品などのバッテリーやプラグを含む廃棄物のことです。一般家庭やオフィス、工場、小売店など、あらゆる場所で毎日大量のe-wasteが発生しています。
生活が豊かになった現代では、まだ使用できる状態であるにも関わらず、より優れた性能のものや最新モデルに買い替える人が少なくありません。また「コロナ禍で電子機器の消費や廃棄が増加した」という報告もあります。このような風潮が、e-wasteの増加をさらに後押ししています。
国連(UN)の発表によると、2019年の世界のe-wasteは過去最多の5,360万トン。わずか5年間で20%以上増え、2030年までに7,470万トンに達すると予想されています。
地域別の発生量を比較すると、アジアでは全体の半分以上にあたる2,490万トンと最も多いe-wasteが発生しました。これは欧米のほぼ2倍、アフリカやオセアニアの約9~35倍にあたります。
これほど大量のe-wasteが発生しているにも関わらず、回収・リサイクル量は発生量のわずか17.4%です。そのほとんどが廃棄・焼却処分されており、効率的に資源が再生されているとは言い難い状況です。
回収・リサイクル量は年々増加していますが、それを上回る勢いで発生量が増えていることも指摘されています。
一部のe-wasteは水銀や臭素系難燃剤(BFR)、クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)といった有害物質を含んでおり、発生量や廃棄量が増加するほど環境や生物に悪影響を及ぼすリスクが高まります。
現在のペースでe-wasteが増え続けた場合は、世界が廃棄物の山に埋もれ、環境汚染がさらに悪化する恐れがあります。そのような事態を回避するためには、効率的かつ適切に処理する方法を模索すると同時に、問題の原因であるe-wasteの発生量を減らす必要があります。
環境問題への取り組みで世界をリードする欧州連合(EU)では、電子機器メーカーに対して生産・販売だけではなく、不要になった商品の処分に対応することを義務付ける「WEEE指令」が2003年に導入されました。現在は「1つの商品を可能な限り長く使用する」という目標に基づき、家電製品の修理保証期間を最長10年まで延長することを義務付ける「修理する権利(Right To Repair)」も確立されています。
世界4位のe-waste大国である日本においても、循環型社会の実現に向けた各種法律が制定されているほか、コロナ禍を機にe-wasteの方針の導入やコンプライアンスの確保に踏み切る企業が増加するなど、e-waste問題に対する具体的な動きが見られるようになりました。
2017~2019年に実施された「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」では、消費者から寄付されたスマホや家電製品をリサイクルして、2021年の東京オリンピック・パラリンピックに必要な5,000個のメダルを作ることに成功しました。
このような取り組みを加速させているのが「Enviro Tech(エンバイロテック/環境テック)」「E-waste Management Tech(電気電子機器廃棄物管理テック)」などと呼ばれるスタートアップの存在です。
リチウム電池のリサイクルや電気自動車・電気貯蔵システム用の電池材料の製造を手掛ける米Redwood Materials(レッドウッド・マテリアルズ)は、米フォードモーターと共同でリチウム電池の循環サプライチェーンの構築を目指しています。設立からわずか4年間で、ゴールドマンサックスやフォードモーターなどから総額7億9,200万ドル(約904億 6,363万 円)を調達した期待の新星です。
また、500万人を超える顧客を有する電子製品のリコマースマーケットプレイス、仏Back Market(バックマーケット)は総額3億3,500万ドル(約382億6,668万円)を調達し、企業評価額が30億ドル(約3,426億9,041万円)を超えるユニコーンに成長しています。
そのほか、電子回路の土台となる板プリント回路基板(PCB)の環境に優しいリサイクルプロセスに取り組むカナダのEnviroLeach Technologies(エンバイロリーチ・テクノロジーズ)、e-Wasteの回収・再生・低価格販売を手掛ける英国のRECONO.ME(リコノ・ミー)、安全で信頼できる中古電子製品のトレーディングプラットフォームを提供する中国の愛回収(Aihuishou)、消費者が自分で壊れた部品を交換できるように設計されたスマホを開発するオランダのFairphone(フェアフォン)など、多数のスタートアップが市場で注目を浴びています。
国連の分析によると、廃棄・焼却処分されているe-wasteの中には、推定570億ドル(約6兆5,104億円)相当のリサイクル可能な金属資源などが含まれています。つまり、廃棄物を活かせる効率的なe-wasteのエコシステムを確立することで570億ドル規模、あるいはその何倍もの価値がある巨大市場へと成長するポテンシャルを秘めているのです。
近年は環境投資の対象として再生可能エネルギーや電気自動車(EV)が注目を浴びていますが、サーキュラーエコノミー(循環経済)の拡大に伴い、今後はe-waste管理分野への投資も活発化することが予想されます。
国際的な開発目標「SDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)」の一つである「つくる責任 つかう責任」を達成するためには、効率的なソリューションだけでなく、企業や消費者の意識改革も不可欠です。「買い替える」のではなく、「できるだけ長く使う」ことを促すための取り組みも重要になるでしょう。Wealth Roadでは、今後もe-waste市場の動向をレポートします。
※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買及び投資を推奨するものではありません。