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FRBは「バックグラウンド」でバランスシートを縮小できるか?

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〔要旨〕

米連邦準備理事会(FRB)の今後の道筋が明らかに:米連邦公開市場委員会(FOMC)から、今後の金融政策についてわずかながら手がかりを得る

FRBによるバランスシートの縮小は「バックグラウンド」で行われる方向:パウエルFRB議長は、フェデラルファンド金利の調整が主要なツールであることを明確にし、バランスシートの縮小は「バックグラウンド」で行われると示唆

今回の量的引き締め(QT)政策と2014年との違い:現在のFRBのバランスシートは、2014年のQT実施時よりも短期間ではるかに拡大しており、経済成長は高く、インフレも高水準に

FOMCから得られたこと

FRBは現状の米国経済環境を背景に、迅速かつ大幅な引き締めの実施できるとの見解を示す。「物価の安定」に焦点を当てていることも、近く利上げが実施されることを示唆

今回のバランスシートの縮小と前回との相違点

現状、FRBはバランスシートの正常化について、前回よりもはるかに早い段階でQT政策を開始する準備を進めている模様

FRBがデータに依存して政策を遂行するとしていることから、「バックグラウンドで(目立たたせずに)」QT政策を実施できるだろう

過去数週間、インフレの上昇を抑えるために米連邦準備理事会(FRB)が今年、どのような行動を取るのかに話題が集中していました。先週の連邦公開市場委員会(FOMC)から、今後のFRBの金融政策について、わずかながら手がかりを得ることができました。以下、FOMCでの決定事項と記者会見のハイライトをご紹介します。

FOMCから得られたこと

FRBは現状の米国経済環境を背景に、迅速かつ大幅な引き締めの実施できるとの見解を示す。「物価の安定」に焦点を当てていることも、近く利上げが実施されることを示唆

現状、FRBは、利上げについて、そのペースや規模などの詳細を明らかにしていません。これは、FRBはその決定をデータに依存することを意味していますが、FRBが今後のデータと見通しの変化に素早く反応し、対応することの重要性を理解していることを示しています。一方で、FRBは、現在の経済状況が前回利上げを開始した2015年とは大きく異なると認識しています。つまり、経済成長率が高く、インフレ率も高水準で、労働市場がはるかに良好であることから、FRBはより迅速かつ大幅に引き締めを実施することができます。先週のFOMC後の記者会見で、パウエルFRB議長は、労働市場を脅かしたり経済を失速させたりすることなく金利を引き上げることができる「かなりの余地」が存在するとの見解を示しました。パウエル議長の発言後、株式市場は下落に転じました。

FRBは物価の安定に焦点を当てています。FRBは「完全雇用」という目標を達成したとして満足しているように見えます。そして、インフレリスクが高まっているとの判断の下、「物価の安定」に焦点を当てています。実際、FOMC後の声明での最も重要な変更は、インフレ率に関するものであり、前回までの「しばらくの間2%を超えていた」に対して、今回は「2%をはるかに上回っている」と説明されました。これは、利上げが「近く」実施されることを示唆しています。

一方、バランスシートの縮小政策(QT政策:量的引き締め政策)について、詳細はまだ明らかではありません。FOMC後、FRBは声明とともに「バランスシート縮小に関する新たな基本方針」を公表しました。この基本方針は、2014年に発表された正常化に関する方針など、バランスシートについての過去のコミュニケーションに類似した内容になっています。今回の方針では、主として国債をバランスシートに保有するというFRBの意図など、幅広い目的を示しましたが、詳細は明らかになっていません。

QT政策は今夏に「バックグラウンド」で実施される可能性があると見込む

バランスシートの縮小は、今夏に「バックグラウンド」で開始される可能性があります。詳細はまだ分かりませんが、FRBは間もなく、バランスシートの縮小を開始すると予想されます。QT政策について、今後少なくとも2回のFOMCで議論する必要があるとしていることから、今夏にQT政策を開始すると考えられます。一方で、パウエル議長は、フェデラルファンド金利がFRBの主要なツールであることを明らかにしました。バランスシートの縮小は「バックグラウンド」で実施されます。

今回のバランスシートの縮小と前回との相違点

現状、FRBはバランスシートの正常化について、前回よりもはるかに早い段階でQT政策を開始する準備を進めている模様

2022年にFRBによるバランスシートの縮小が開始されるとの計画が、直近公表された2021年のFOMC議事要旨で明らかになったという事実を看過することはできません。前回のQT政策でバランスシートの縮小がかなり後の段階で開始されたことを考えると、2021年12月のFOMCでバランスシートの縮小が議論されたことは、市場に驚きを与えました。

私たちは、一歩引いて、FRBが今回の正常化プロセスにおいて、はるかに早い段階でQT政策を開始する準備をしているだけでなく、現在のFRBのバランスシートが、世界金融危機の対応のために実施していた資産購入策を終了した2014年のものよりも大きく拡大していることを認識しなければなりません。FRBが2014年に量的緩和(QE)策を終了したとき、そのバランスシートは約4.5兆米ドルでした 1 。その後、FRBは2017年秋にQT政策を開始し、2019年9月に計画よりも早期に終了しました。終了時のFRBのバランスシートは3.8兆米ドルとなっており、大きく削減することができませんでした 1 。それ以降、FRBのバランスシートは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に対応するため前例のない水準に拡大し、現在は8.8兆米ドルに達しています。これは、世界金融危機の量的緩和後と比べると約2倍の規模になります 1

パウエル議長は先週、バランスシートの縮小を予測可能な方法で減らしていくと述べたとき、前FRB議長のイエレン氏の言葉を繰り返していました。イエレン氏がFRB議長を務めていた2017年、同氏もバランスシートの削減が「バックグラウンド」で行われると想定していました。しかし、2016年、QT政策が開始される前に、イエレン前FRB議長は「バランスシートの変化が経済に与える影響を予測することは、フェデラルファンド金利の変化に関連する変化を予測するよりも難しい」として、市場をやきもきさせました。また、同氏は、「資産があまりにも積極的に売却された場合、金融市場と経済が不安定になる可能性がある」として懸念を示しました 2

前回、QT政策はほとんどが予測可能なものでしたが、重要な例外がありました。2019年7-9月期に短期金利が高騰し、FRBが行動する必要が生じました。FRBのQTによって銀行の準備預金が減少する中の2019年9月、米財務省による米国債の競売と法人税の支払いが重なることになりました。これら3つの要因が重なって、市場は流動性の不足に陥り、銀行は資金需要を賄うために翌日物取引を通じた資金調達に走ることになりました。(ただし、2021年にFRBが導入したスタンディング・レポ・ファシリティー(SRF)がこうした摩擦を緩和するとみられることから、今後はよりスムーズなQT政策が可能となり、短期金融市場の引き締めが広範囲な金融市場に波及するリスクは軽減されるはずです)。2019年、FRBは短期流動性の不足に対応するために介入しました。株価への影響という点については、問題が株価の下落につながるという懸念があったにもかかわらず、バランスシートの縮小は「バックグラウンド」で(訳者注:ここでは「目立たたせずに」の意味で使われている)行われたと言えます。

前回のQT政策では、FRBは2017年9月末に開始し、2019年8月1日に終了しました。その期間(2017年9月29日-2019年8月1日)の世界の株式市場の推移を見ると、MSCIワールドインデックスは8.63%上昇し、S&P500種指数は17.23%上昇しました 3

今回は、FRBのバランスシートの規模は短期間ではるかに拡大し、経済成長は高く、インフレも高水準なため、先週の記者会見で、パウエル議長はFRBがより力強く迅速に対応すると示唆しました。「バランスシートの縮小はバックグラウンドで実施することができるのか?」との問題はどうなるのでしょうか。

FRBがデータに依存して政策を遂行するとしていることから、「バックグラウンドで(目立たたせずに)」QT政策を実施できるだろう

前回のQT政策を踏まえると、私は、バックグラウンドで(目立たたせずに)QT政策を実施できると考えます。FRBがデータに依存して政策を遂行することにコミットしている点は、安心材料です。これは、入手可能なデータと金融市場の安定性に応じて、FRBが毎月の資産削減額を調整することに抵抗がないことを示唆しています。ただし、状況を注視していくことが重要であり、その行方を綿密に追っていこうと考えています。

  1. 出所:米連邦準備制度
  2. 出所:マーケットウォッチ、“Yellen explains why the Fed did not reduce balance sheet to tighten policy”、2016年8月26日
  3. 出所:ブルームバーグ。過去の実績は将来のリターンを保証するものではありません。インデックスに直接投資することはできません。

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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