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ベッドの下に潜む魔物

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〔要旨〕

市場関係者は米連邦準備理事会(FRB)の利上げを懸念:インフレが高進する中、FRBの2022年の利上げ回数に対する大きな不安が存在

FRBは利用できる複数のツールを保有:今年の利上げ回数は、市場が予想するよりも少ないと見込む

正常化への道を進む:パンデミック前の状況に近づいていることを示唆する、複数の兆候が存在。一方で、多くの障害も存在

確認されている「正常化」の兆候

①グローバル株式市場の急落、②「巣ごもり関連株」の急落、③需給状況の正常化、④中国の経済成長の改善―などの「正常化」の兆候が確認されている

注意すべき障害

新型コロナウイルスの感染者の急増やロシアのウクライナ侵攻のほか、労働市場の問題などがインフレ圧力を増大させる要因として存在しており、FRBの金融政策の行方が懸念される

今週の注目点

今週のFOMCに注目

私の子供たちが幼いとき、夜になると皆、ベッドの下に何かいるといってとても怖がっていました。子供たちは、夕暮れ後、ベッドの下に潜む最も恐ろしい存在―子供が大好物な、角と牙を持つモンスター―について、想像力を膨らませていました。朝、子供たちが一大決心をしてベッドの下を見ると、彼らはいつも、恐怖の現実がいくつかの汚れた靴下だったことに気づいたものでした。私は、子供たちの恐怖が、投資家が今年の米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めについて最悪のシナリオを想像しているのと同じようなものだと思います。現実は、投資家が想像する最悪の事態ほど悪くないものだと考えています。

今年のFRBに対する予想の変化は、非常にめまぐるしいものです。利上げに関する予想がいたるところで見られる中、過去数週間では、利上げ回数を多く予想する傾向にあり、株式やその他のリスク資産が下落していました。今週、米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催されますが、FRBが資産購入の終了を決定するという声も聞かれています。また、FRBが利上げを開始する可能性があるとの予想も存在します。そして、2022年は8回もの利上げを見込んでいる人もいます。これは、私の娘を人間の大きさほどの網に捕らえようとしている、ベッドの下の8本足の毛むくじゃらの巨大なクモよりも厄介な存在かもしれません。

FRBの金融引き締めについて考えてみましょう。インフレの高進により、FRBがより積極的に行動せざるをえなくなり、その中で政策ミスを犯すのではないかとの不安が、非常に多く見られています。しかし、私は、FRBによる2022年の利上げについて、市場は多くの回数を予想しすぎていると考えています。

確認されている「正常化」の兆候

①グローバル株式市場の急落、②「巣ごもり関連株」の急落、③需給状況の正常化、④中国の経済成長の改善―などの「正常化」の兆候が確認されている

FRBには、今年インフレに取り組む際に利用できる3つのツールがあります。それは、①資産購入額の段階的な削減(テーパリング)、②政策金利の引き上げ、③バランスシートの縮小―です。それらを考えると、FRBが伝統的なツールである大幅な利上げを実施することへの圧力は少ないと強く感じています。ただし、それは、FRBが迅速に行動しないという意味ではありません。一方で、前もって行動することは、必ずしも何度も行動することを意味するわけでもありません。言い換えれば、インフレ圧力はタイミングに影響を与える可能性がありますが、過去の利上げサイクルを見ると、FRBが利上げ開始するタイミングではなく、どこで終了するかが各資産に大きな影響を及ぼすと考えられます。

金融引き締めの初期段階において、今年発生することを考えるのは投資家にとっては当然、不安なものです。ただし、一歩引いて全体像を見ることが重要だと思います。私は、ここ数週間で確認されたことは、投資家に不安をもたらすものもあったものの、多くが世界経済と市場が「正常化」への道を進んでいることを示していると考えています。

1. 世界の株式市場の急落:過去22カ月において、株価の急落はほとんど見られませんでした。それらはほとんどが軽微なもので、その後、市場参加者がすぐに株式市場に戻り、株価は急速に回復しました。過去数週間に見られた投資家の動向が思い起こさせたのは、株価が急落してもすぐには回復しないという、正常な市場環境でした。

2. 「巣ごもり関連株」の急落:新型コロナウイルスの変異ウイルスであるオミクロン株は、世界の一部で猛威を振るっているものの、すでにピークアウトしている地域もあります。株価には明らかに、人々がジムに通ったり家の外での娯楽を楽しんだりするという、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)前の状況への回帰が織り込まれています。

3. 需給状況の正常化:ペントアップ需要が剥落し、供給が改善し始めています。例えば、1月のニューヨーク連銀製造業景気指数では、新規受注の減少、未処理注文の減少、納期期間の短縮が示されました 1 。さらに、在庫の増加が明らかになりました。直近、中国とベトナムでは、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぎ、サプライチェーン問題を悪化させるような労働力不足を起こさないようにするため、旧正月に旅行しないよう労働者に求めていることが明らかになりました 2 。これは、インフレ圧力を緩和するのに役立つはずです。

4. 中国の経済成長の改善:私たちは、財政および金融刺激策は、中国の経済成長を後押しし、潜在成長率並みに近づくのに役立つと考えます。企業収益は好調な模様であり、コンセンサス予想では、2022年の中国株の1株当たり利益成長率は13%増となっています 3

金利の上昇を恐れないでください。このように、パンデミック前の状態に近づいていることを示唆する複数の正常化の兆候が確認されているのです。

注意すべき障害

新型コロナウイルスの感染者の急増やロシアのウクライナ侵攻のほか、労働市場の問題などがインフレ圧力を増大させる要因として存在しており、FRBの金融政策の行方が懸念される

ただし、正常化への過程において、いくつかの障害も見込まれます。

• 世界の新型コロナウイルス感染者の急増:世界の各地域では、いまだ急速に新型コロナウイルスの感染が拡大しています。そして、ユーロ圏、日本、米国の直近の購買担当者景気指数(PMI、速報値)からも明らかなように 4 、新型コロナは経済成長に悪影響を与えています。また、オミクロン変異株のまん延はサプライチェーンの混乱を増大させる可能性が高いことを認識する必要があります。これにより、物価の正常化が少し遅れると見込まれます。

• ロシアによるウクライナ侵攻:今週、ロシアがウクライナを侵攻することが懸念されます。ウクライナ侵攻に対するロシアへの制裁は、石油価格を押し上げる可能性があり、それが短期的にはインフレ圧力を高めると見込まれます。

このように、事態はすぐには正常な状況に戻りません。そして、現状は、人手不足や賃金の伸びなど、より持続するとみられる問題がいくつか存在します。2021年10-12月期決算を見ると、1月14日時点で、S&P500種指数に上場する企業の60%が、人件費への悪影響を指摘しました 5 。こうしたインフレの状況は、FRBの今後の行動についての大きな懸念を市場参加者にもたらしています。ベッドの下の魔物が日を追うごとに大きく、醜くなるように、インフレの上昇が続き、その圧力も増しています。

今週の注目点

今週のFOMCに注目

今週は、以下の経済指標を特に注視しようと考えています。

• 12月の米個人消費支出(PCE)デフレータ:私たちは、FRBが注目するインフレ指標に常に注意を払いたいと思っていますが、その結果は予想範囲内になると考えます。

• ミシガン大消費者信頼感指数の期待インフレ率:消費者による長期の期待インフレ率が相対的に安定している(アンカーされている)かどうかを確認する上で重要であり、FRBが注視している経済指標です。

そして、今週は、カナダ銀行などいくつかの中央銀行が金融政策決定会合を開催します。しかし、市場関係者の注目は、FRBに集中しています。パウエルFRB議長は、FOMC後の記者会見で、強気の発言をする一方で、ベッドの下の魔物に光を当てるのに十分な明晰(めいせき)さと落ち着きを提供するという難事を成し遂げることで、市場参加者の最悪の恐怖を取り除くと思います。ただし、パウエルFRB議長の発言によって、株式市場のボラティリティ(価格の変動性)や急落が終わることはなく、私は、少なくとも最初の利上げが実施されるまで、不安定な市場環境が続くと予想しています。

  1. 出所:ニューヨーク連邦準備銀行。エンパイア・ステート指数(ニューヨーク連銀製造業景気指数)は、ニューヨーク連邦準備銀行が毎月に発表する、ニューヨーク州の製造業の景況感を示す経済指標
  2. 出所:Nikkei Asia、“China, Vietnam urge workers to hunker down over Lunar New Year”、2022年1月24日
  3. 出所:Bloomberg、2022年1月24日時点
  4. 出所:IHSマークイット、2022年1月24日。景況感指数(PMI)は、企業の購買担当者らの景況感を集計した景気指標のひとつで、国別や、製造業、サービス業ごとに集計される
  5. 出所:FactSet Earnings Insights、2022年1月14日

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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