つみたてNISA(積立NISA)は、非課税投資枠内の投資で得た利益に対して税金がかかりません。この節税効果によって手元に資産が残りやすくなり、効率的に資産を増やしやすくなることから、つみたてNISAは投資初心者に人気があります。
しかし、すべての人にメリットがあるわけではありません。つみたてNISAに向いていない人や、やめたほうがいい人もいます。つみたてNISAを始める前に、自分が「やめたほうがいい人」ではないか確認しておきましょう。
目次
最初につみたてNISAの仕組みと、利用するメリット・デメリットを簡単に解説します。
つみたてNISAは、国が用意した税金の優遇制度です。通常、投資で得た利益には20.315%の税金がかかります。しかし、つみたてNISAの口座で積立投資をすれば、非課税投資枠内までの投資で得た利益に対して税金がかかりません。最大で「年間40万円×20年間=合計800万円」の非課税投資枠があります。
つみたてNISAの投資対象は、国が長期の積立・分散投資に適していると判断した一定の投資信託です。
投資信託とは、投資家から集めた資金を運用のプロが投資家に代わって運用してくれる金融商品のことです。投資信託を保有することで、さまざまな国・地域の株式や債券などに間接的に投資できます。
株式投資などでは、どの銘柄に、どのタイミングで、どのくらい投資するのか、いつ手放すのかを自分で判断しなければなりません。そのため、企業情報や世界情勢など多方面から情報を収集して、分析する必要があります。
投資信託なら運用をプロに任せられるため、投資初心者でも安心です。
つみたてNISAの投資対象は、国の基準に適合した投資信託(ETFを含む)だけです。つみたてNISAの口座で、株式など他の金融商品に投資することはできません。投資対象が限られることは、デメリットといえます。
しかし、投資対象が一定の基準で限定されていることは、初心者にとっては安心材料でもあります。リスクが低く初心者向けといわれる投資信託の中から、さらに国が銘柄を厳選してくれているからです。
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初心者から人気があるつみたてNISAですが、ネット上の記事やSNSなどで「やめたほうがいい」と書かれていることもあります。効率的な資産運用にならないケースはありますが、これは全ての人に当てはまるわけではありません。
つみたてNISAを上手に活用しながら着実に資産形成をしている人も見られます。向いているかどうかは人によるため、以下の内容も踏まえて判断するようにしましょう。
メリットの多いつみたてNISAですが、人によってはつみたてNISAを有効活用できず、デメリットが大きくなってしまうケースがあります。
ここからは、つみたてNISAをやめたほうがいい人の5つの特徴を見ていきましょう。
投資の鉄則は、「余裕資金で行うこと」です。余裕資金がまったくないなら、つみたてNISAを始めるのはリスクが高いのでやめたほうがいいでしょう。
余裕資金がないと、病気や交通事故、冠婚葬祭などで突然の出費が必要になった時、積み立てた資金を取り崩さざるを得ません。その時にたまたま景気が悪く、保有中の投資信託が購入時の基準価額より下がっていたら、損をしてしまうことになります。
当面の生活費や臨時支出に備えるためのお金は預貯金などで確保しておき、余裕資金でつみたてNISAを始めましょう。
手元にあるまとまった資金を一括で投資したい人にも、つみたてNISAは向いていません。
つみたてNISAで積み立てられる金額は、毎年40万円までです。最大で毎月3万3,333円をコツコツと長期的に積み立てていくのが、つみたてNISAの運用スタイルです。
例えば「手元にある100万円を一括で投資したい」と考えているなら、つみたてNISAより一般NISAが適しています。一般NISAなら毎年120万円までが非課税となり、一括投資もできるからです。
つみたてNISAと一般NISAの違いについては、後半で詳しく解説します。
つみたてNISAの投資対象は、投資信託だけです。株式投資やFXをしたいなら、つみたてNISAを利用することはできません。
株式投資なら、一般NISAを利用すれば年間120万円までの投資で得た利益が非課税になるため、効率的に資産を形成できます。
FXは税制優遇制度の対象となっていないため、通常のFX口座を開設し、取引をスタートすることになります。デモトレードがあるFX会社もあるので、試してみるとよいでしょう。
ただし株式投資やFXは、一般的にハイリスク・ハイリターンの投資といわれています。どちらも知名度が高いため、気軽に始めてしまう初心者が増えていますが、大きく損をして資金を失ってしまう人が後を絶ちません。
ゆくゆくは株式投資やFXを始めるにしても、最初はつみたてNISAを利用して投資信託を保有し、投資経験を積むとよいでしょう。
つみたてNISAは、長期投資を前提にした制度です。そのため短期的に商品を売買し、すぐに利益を得たい人には向いていません。
短期投資では、値動きが大きい商品を短期間で売買し、差額による利益を狙います。しかし、つみたてNISA対象銘柄は長期運用に適した投資信託で、短期の値動きは大きくありません。また非課税枠の制限があるため、頻繁に売買を繰り返す手法にも向きません。
短期投資ですぐに利益を得たいなら、通常の証券口座を開設しましょう。
ただし、短期投資はすぐに利益を得られる可能性がある一方で、すぐに損失が拡大して資金を失ってしまうリスクもあります。長期投資のほうが収益率は安定しやすく、大きな損失が発生しにくいという傾向があります。
短期投資か長期投資か、メリット・デメリットを比較してしっかり検討してください。
比較的リスクが低いとはいえ、つみたてNISA対象銘柄も金融商品です。よって、運用成果に応じて保有中の資産の評価額が変動します。
時には購入時より評価額が下がり、評価上のマイナスが発生することもあるでしょう。そんな時、耐えられずに売却してしまうと損失を確定させることになります。これを繰り返すと、資産は目減りする一方です。
「少しでも値下がりするのは嫌だ!耐えられない!」という人は、つみたてNISAでの投資には向いていません。
評価上マイナスになっても、その理由を冷静に分析し、再び価格が上昇するまでじっくり待てる人がつみたてNISAでの長期投資に向いています。
つみたてNISAを適切に活用するには、制度の仕組みを理解した上で投資の計画を立てる必要があります。そこで以下では、つみたてNISAの有効的な活用方法をまとめました。資産運用の目的やスタイルを意識しながら、「自分でも実践できるか」を判断していきましょう。
つみたてNISAは長期積立や分散投資を支援する制度であり、その点を踏まえて対象商品が選ばれています。購入時手数料は無料(ノーロード)ですが、全体として短期売買には向いていません。
仮にまとまった利益を狙えそうであっても、短期売買を繰り返すと非課税投資枠が減ってしまいます。一般NISAに比べると年間の非課税投資枠が少ないため(40万円)、基本的には長期目線の投資を意識しましょう。
ドルコスト平均法とは、常に一定金額の金融商品を定期的に購入することで、平均購入単価を平準化する投資手法のことです。例えば、毎月10,000円分の商品Aを購入すると、以下のような取引を実現できるため、高値づかみのリスクを抑えられます。
・商品Aの取引価格が高いとき:購入口数が減少する
・商品Aの取引価格が安いとき:購入口数が増加する
ただし、一度でも積立をやめると効果が薄れてしまうので、継続的かつ定期的に同じ金額を投資するようにしましょう。
つみたてNISAの口座開設先は、「銀行・総合証券会社・ネット証券」の3つに分けられます。このうちネット証券は、クレカ積立やポイントプログラムを通してコストを抑えやすくなるため、効率的に資産運用をしたい人に向いています。
<ネット証券を利用するメリット>
・クレカ積立やポイントプログラムを利用できる
・対象商品が多い
・毎月100円から始められる証券会社が多い
多くのネット証券では、クレカ積立や金融商品の保有によってポイントが貯まるので、信託報酬などのコストと相殺しながら効率的な資産形成を目指せます。
つみたてNISAの対象商品は厳選されていますが、必ずしも利益が出るわけではありません。運用成績がマイナスの投資信託もあるため、購入後には定期的な情報収集と分析が必要です。
特に投資信託の基準価額や純資産額は、こまめに確認しておきたいポイントでしょう。これらのデータは、ファンドの運用成績や規模を表すものなので、売却をする際の価格や分配金に影響します。
また、分配金はわかりやすいリターンですが、支払われる度に基準価額・純資産額は減少するため注意しましょう。
つみたてNISAは、毎月100円から厳選された商品に長期積立投資ができるので、以下の人に向いている制度といえます。
・すぐに用意できる投資資金が少ない人
・老後資金を貯めたい人
・低リスクでじっくりと資産運用をしたい人
・非課税や低コストなど、できるだけお得に投資したい人
・仕事などが忙しく、情報収集や分析の時間を取れない人
・教育資金や老後資金を作りたい人
つみたてNISAに向いているかどうかは、年齢やライフプランによっても変わります。
例えば、40~50歳からじっくりと老後資金を貯めたい人には、最長で20年間運用できるつみたてNISAが向いています。また、子どもの将来に向けて教育資金を貯めたい人、将来設計が曖昧な20~30代の人にもつみたてNISAが適しています。
つみたてNISAはNISA制度のひとつです。NISA制度にはつみたてNISA・一般NISA・ジュニアNISAの3つがあり、日本在住の成人ならつみたてNISAと一般NISAのどちらか一方を選んで口座を開設できます。
<つみたてNISAの概要>
非課税枠 | 新規投資枠:毎年最大40万円(20年で最大800万円) 期間:最長20年 非課税対象:分配金・譲渡益 |
投資方法 | 積立投資 |
投資対象商品 | 長期・積立・分散投資に適した一定の投資信託(金融庁への届出が必要) ※ラインナップは口座開設金融機関によって異なる |
口座開設可能数 | 1人1口座 (一般NISAとつみたてNISAどちらか一方を選択) |
<一般NISAの概要>
非課税枠 | 新規投資枠:毎年最大120万円(5年で最大600万円) 期間:最長5年(期間終了後、新たな非課税投資枠へのロールオーバーによる継続保有が可能) 非課税対象:配当金・分配金・譲渡益 |
投資方法 | 一括投資・積立投資 |
投資対象商品 | 投資信託・ETF・上場株式・REITなど ※ラインナップは口座開設金融機関によって異なる |
口座開設可能数 | 1人1口座 (一般NISAとつみたてNISAどちらか一方を選択) |
なお、2024年からは一般NISAは廃止となり、新NISAが始まります。ただし、つみたてNISAは変更がありません。
続いて、つみたてNISAを利用することで得られるメリットを詳しく見てみましょう。
・最低投資金額:100円/月~
つみたてNISAは、口座を開設した金融機関によって最低投資金額が異なります。月1,000~5,000円程度のところが多いのですが、中には100円から積み立てられるところもあります。
・販売手数料無料、低水準の信託報酬、低頻度の分配など
つみたてNISAで投資できる投資信託は、各種手数料が低水準もしくは無料など、厳しい条件を満たすものに限られています。手数料コストの軽減は、非課税措置とともにつみたてNISAの大きな魅力といえます。
投資にはリスクがつきものです。リスクとは、「利益になるかもしれないし、損失になるかもしれない」という振れ幅のことです。大きな利益を得られる可能性がある場合は、必ず同じくらい損失を被る可能性もあります。
リスクを完全になくすことは難しいですが、以下のような工夫によってリスクの分散を図れます。
・銘柄の分散
つみたてNISAの運用商品である「投資信託」は、国内外の株や債券などさまざまな金融商品を組み合わせたパッケージ商品です。そのため、投資先の国や地域、種類や銘柄の分散が可能です。
・時間の分散
毎月定額を積み立てることで、購入タイミングを分散することもできます。高値で多く買ってしまうことを避け、平均購入価格を低く抑えることも期待できるのです。
・複利効果
投資で得た利益を元本に組み込み、再度運用することを「複利」といいます。投資期間が長くなるほど、複利効果は大きくなります。
・価格変動リスクの低減
投資信託の価値は日々変動しますが、長期運用によってゆるやかな右肩上がりになることが期待できます。
メリットの多いつみたてNISAですが、注意すべきデメリットもあります。デメリットを知り、つみたてNISAが自分に合っているかどうかをしっかり確認しましょう。
つみたてNISAの投資商品は、投資信託のみです。株式や債券、外貨といった選択肢はありません。
つみたてNISAの非課税投資枠は、売却した分の枠を再利用したり、使わなかった分を翌年に持ち越したりすることができません。毎年付与される非課税投資枠は40万円分のみです。
つみたてNISAにおける投資方法は、「積立投資」のみです。積立投資は、毎月コツコツと元本を積み上げながら、時間をかけることで安定した運用を目指す方法です。そのため、すぐに利益を得てお金を使いたい人には向きません。
手数料水準が低いとはいえ、まったくかからないわけではありません。信託報酬は「プロに任せるための手数料」であり、銘柄によって金額が異なります。購入前によく比較・検討しておきましょう。
なお、つみたてNISAの口座開設や利用に手数料はかかりません。
つみたてNISAにはデメリットもありますが、上手に活用すればそれ以上の節税メリットを受けられます。もし前述の「つみたてNISAをやめたほうがいい人」に当てはまっていても、同じ状況が続くとは限りません。
デメリット面がどうしても気になる人は、毎月100円から始めることを検討してみましょう。投資した金額以上の資金を失うことはないため、少額から始めれば損失額を抑えることができます。
また、つみたてNISAの投資期間は最長20年ですが、現状では2042年までの制度なので、資産運用に興味がある人は常に意識をしておきましょう。
つみたてNISAは投資初心者にとってメリットの多い税金の優遇制度であり、上手に活用すれば低コスト・低リスクでの資産形成が可能になります。リスクを抑えて長期的な資産形成を目指すなら、つみたてNISAが向いています。
一方で商品が限定的で長期投資を前提としているなど、つみたてNISAならではの特徴があります。
まとまった資金を一括投資したい人や、投資信託以外のさまざまな商品に投資したい人は、一般NISAなど他の制度の活用を検討しましょう。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。