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オミクロン株の出現に市場が動揺

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目次

〔要旨〕

新たな変異ウイルスが出現:世界保健機関(WHO)はオミクロン株を「懸念される変異株」に指定

市場は変異ウイルスの出現に大きく動揺:株式市場、原油価格、暗号資産が大幅に下落

ワクチンの研究が進む:新たな変異ウイルスが重要な脅威になるかが判明するのに数週間かかる可能性があるが、ワクチン開発者は、ワクチンを再設計できると楽観視している

何が起こったのか?

新型コロナの新たな変異ウイルスが南アフリカで発見される。感染者はイスラエル、ベルギー、香港などで確認されている

オミクロン株について分かっていることは何か?

オミクロン株は感染性と重症度を高める可能性があり、世界に与えるリスクは「非常に高い」として懸念が強まる

これまでの政策対応は?

特定の国への渡航禁止やニューヨーク州での非常事態宣言などがあった一方で、既存ワクチンのオミクロン株に対する有効性の調査、追加接種の対策強化など、迅速な対応がとられている

市場はどのように反応したか?

VIX指数は急上昇し、株式市場・原油価格・暗号資産は大幅に下落

現状についてのインベスコの見通しは?

工業金属、株式、不動産などの資産に与える悪影響が最も大きく、国債、金、投資適格社債、現金が相対的に高いパフォーマンスを上げると見込む。インフレへの影響は財価格の上昇が軸になると見込まれる

インベスコの見解に対するリスクは何か?

①オミクロン株の伝播性や毒性、既存ワクチンの有効性、②新型コロナ対策の強化と人・モノの移動状況、③オミクロン株に有効なワクチンの開発状況―などがリスク要因に

本リポートの11月1日号「今週注目すべき9つのこと」で、私は新型コロナウイルスについて次のように記載しています:「私は、『株式市場は新型コロナウイルスについてもはや気にしておらず、我々はこの問題を通過した』、との見方をよく耳にします。これは、新型コロナの感染が収まっているときに享受することができる一種のぜいたくでしょう。しかし、新型コロナは依然として重大な市場と経済の問題です」。私が引き続き懸念している2つの問題は、特に「ゼロコロナ政策」(ロックダウン等によって新型コロナを極力抑制する政策)を採用している国でサプライチェーンが継続的に混乱する可能性と、「最悪の場合」のシナリオ、つまり既存のワクチンに対して耐性を持つ変異ウイルスの出現の可能性です。先週の金曜日、新型コロナの変異ウイルスであるオミクロン株の出現のニュースで世界の株式市場が下落し、市場関係者は再び新型コロナを脅威に感じました。今、エコノミストとストラテジストは、日常の業務に加えて、疫学に関する見解を再び示す必要があります。

何が起こったのか?

新型コロナの新たな変異ウイルスが南アフリカで発見される。感染者はイスラエル、ベルギー、香港などで確認されている

新しい新型コロナウイルスの変異株である「オミクロン(B.1.1.529)」が出現しました。南アフリカで最初に確認されましたが、それは同国が(他の多くの国よりも)優れたゲノム解析を実施しているという理由である可能性が高く、発生源は不明です。オミクロン株の感染者は、イスラエル、ベルギー、香港、英国、ドイツ、イタリア、チェコ共和国そしてカナダで発見されています。

先週の金曜日(26日)、世界保健機関(WHO)はオミクロン株を「懸念される変異株」に指定しました。WHOが注視する変異株は2つあります。それは「注目すべき変異株」と「懸念される変異株」で、後者はより深刻なウイルスです。

• 「注目すべき変異株」は、伝播性、重症度、免疫回避、および/または診断や治療に影響を与える、あるいはその可能性のあるウイルス特性を有する、遺伝的変化を伴う変異株です。加えて、複数の国でコミュニティ内の重大な感染を発生させるなど、世界の公衆衛生に対する新たなリスクになりうるとされています。

• 「懸念される変異株」は、相対評価を通じて「注目すべき変異株」の定義を満たし、かつ下記のうちいずれかのものを満たすものになります。1)感染・伝播性の増加または新型コロナの疫学における有害な変化。2)毒性の増大または臨床疾患の症状の変化。3)公衆衛生・社会的措置または流通する診断、ワクチン、治療薬の有効性の低下。

「懸念される変異株」として定義された変異株は、オミクロン株が最初ではありません。変異ウイルスのうち、アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株も、WHOによって「懸念される変異株」に指定されています 1 。その他、WHOにより「注目すべき変異株」として指定されている変異株にラムダ株とミュー株もあります 1

オミクロン株について分かっていることは何か?

オミクロン株は感染性と重症度を高める可能性があり、世界に与えるリスクは「非常に高い」として懸念が強まる

保健当局は、オミクロン株はその構造の特異性からデルタ株よりも懸念されると公表しています。オミクロン株は、スパイクタンパク質と呼ばれる表面の突起にデルタ株よりもはるかに多くの変異があり、感染性と重症度を高める可能性があります。

WHOのマリア・バンケルコフ氏は、オミクロン株の多数の突然変異には「いくつかの懸念される特徴がある」と述べましたが、これを評価するためにさらなる調査が必要です 2 。一方、WHOは、11月29日に、オミクロン株による世界のリスクは「非常に高い」と警告しました 3 。非常に伝染性が高いと考えられる一方で、初期の報告ではオミクロン株感染者の症状が軽症だったとしており、オミクロン株がそれほど重大でものではない可能性があると考えられます。南アフリカ医師会会長であるアンジェリク・クッツェー氏は、症状が「異なるが軽度」であるオミクロン株に感染した患者を複数人診察したと述べました。ただし、同氏は高齢者や免疫力が低下している人々について、「私たちが今懸念しなければならないのは、高齢者やワクチン未接種の人々が新たな変異ウイルスに感染することや、ワクチン接種を受けていない場合、多くの患者が重症化することだ。」と述べ、非常に懸念しています 4

これまでの政策対応は?

特定の国への渡航禁止やニューヨーク州での非常事態宣言などがあった一方で、既存ワクチンのオミクロン株に対する有効性の調査、追加接種の対策強化など、迅速な対応がとられている

各国政府の指導者は、この新たな変異ウイルスの出現に迅速に対応しました。20カ国以上が特定の国への渡航禁止を発表し、そして、ニューヨーク州知事は、新型コロナの感染の再拡大と新たな変異株の脅威により、非常事態を宣言しました。

そして、新たな変異ウイルスについて、すでに研究を始めているという、歓迎すべきニュースが聞かれました。ファイザーとビオンテック、モデルナ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、アストラゼネカは、新たな変異ウイルスに対する自社ワクチンの有効性の検証を開始していることを明らかにしました。ファイザーとビオンテックは、オミクロン株から保護するため、ワクチンを迅速に再設計できるようにすると発表しました。ファイザーは声明で、「[a]ワクチンの改良が必要な場合、ファイザーとビオンテックは、規制当局の承認を条件として、約100日で新たな変異ウイルスに対応するワクチンを開発および製造できると見込んでいる。」と述べました 5

さらに、一部の主要経済国は、ワクチンの追加接種の対策を強化しています。これは、デルタ株やその他の変異ウイルスの感染を減少させるのに役立つはずであり、既存のワクチンがそれに対して有効である場合はオミクロン株に対しても当てはまります。たとえば、英国では11月29日に、すべての成人がワクチン追加接種を利用できるようにし、2回目と3回目の接種の間隔を従来の6カ月から3カ月に半減させるべきとの勧告が出されました。デルタ株が出現した際に一部の国で見られたように、伝播性や毒性の高い変異ウイルスの出現によって、人々のワクチンに対する抵抗が弱まる可能性があるとの見通しもあります。

世界ではパンデミックに関する条約についての交渉が進行中であり、ウイルスの感染拡大を遅らせるためのワクチンの展開と国際的調整を妨げてきたいくつかの課題が解決されるのに役立つかもしれません。人口増加率が高く、急速に発展している多くの新興市場国では都市化が続いているため、パンデミックの発生の阻止と管理は引き続き主要な経済的問題となる可能性が高いと考えられます。

市場はどのように反応したか?

VIX指数は急上昇し、株式市場・原油価格・暗号資産は大幅に下落

先週金曜日(26日)、投資家は最悪の事態を想定し、パニックに陥りました。VIX指数(恐怖指数)は50%以上急上昇し、株式市場をはじめ、原油価格や暗号資産が大幅に下落しました。この大幅下落は、(米国の感謝祭の休日のために)株式の取引が少なかったことが影響した可能性があります。そして今日(11月29日)の世界の株式市場の結果はまちまちで、アジア株がさらに下落したのに対して、米国と欧州の株式市場は上昇に転じました。

投資への影響は何か?

オミクロン株の出現は問題を深刻化させるだけでなく、シクリカル株をはじめとする株式に下押し圧力をかけると見込まれる

投資家は、世界の多くの地域を2020年のような暗黒の時代に引き戻す可能性のある最悪のシナリオをもたらす変異ウイルスの出現を恐れており、既存のワクチンがオミクロン株に対して有効性が低い場合や、オミクロン株がデルタ株よりもはるかに伝染性が高い場合は、厳格な都市封鎖(ロックダウン)措置がとられることを懸念しています。多くの主要経済国では現在冬を迎えており、一部の欧州諸国ではオミクロン株の発見前にすでにロックダウンを実施していたところでしたが、オミクロン株は問題を深刻化させるとともに、株式、特によりシクリカル株に下押し圧力をかけるでしょう。この状況では、2020年半ばのように、緩和的な金融政策、実質利回りの低下、グロース株のバリュー株に対するアウトパフォームが予想されます。

現状についてのインベスコの見通しは?

工業金属、株式、不動産などの資産に与える悪影響が最も大きく、特に欧州株式への影響が懸念される

オミクロン株に関する十分な情報が得られ、市場が恐れる重要な脅威かどうかが判明するには、おそらく数週間かかります。特に既存のワクチンの対オミクロン株の有効性に関する医療専門家からのさらなる情報が必要です。それまでは、私たちは辛抱強く、感情が投資の決定を左右しないようにすることが必要です。

特にオミクロン株を取り巻くすべての不確実性と、多くの政府指導者によるオミクロン株への積極的な対応を考えると、この変異ウイルスが、今後数週間、さらに市場の下落とボラティリティの高まりをもたらすおそれがあります。2020年初のように市場が急落する可能性は低いと思われるものの、最近のシクリカル資産の大幅な上昇は、適正価格へ修正される余地があることを示唆しています。私たちは、工業金属、株式、不動産などの資産への悪影響が最も大きいと考えます。また、欧州はすでに新型コロナの感染の再拡大とロックダウンが実施されており、新たな変異ウイルス感染者が欧州で多く発見されていることを考えると、欧州株式市場が最も下落する可能性があります(26日には、一部の欧州の主要株価指数が4%程度下落し 6 、さらに下落する可能性があります)。

セクター別では、旅行・レジャー(含むホスピタリティ)、素材、一般小売業が最も悪影響を受けると考えています。一方、影響が小さいと考えられるセクターは、テクノロジー、ヘルスケア、公益事業であるとみています。ファクター要因では、低ボラティリティがベスト・パフォーマーになると予想しています。

国債、金、投資適格社債、現金が相対的に高いパフォーマンスを上げると見込む

資産クラス別では、国債、金、投資適格社債、現金が最も高いパフォーマンスをあげると考えています。通貨では、このような状況で最も高いパフォーマンスを示すのは、通常、円とスイスフランです。

このように懸念が増大する環境下ではありますが、投資家はパニックに陥るべきでないことを改めて強調したいと思います。2020年3月に市場が下落したときに株式の保有を放棄した人々は、2021年のめざましい株価の回復を享受できませんでした。また、既存のワクチンがオミクロン株に対して有効性が低く、ワクチンよりも伝播性が高く毒性が強い場合でも、パニックに陥る時期ではないと確信しています。製薬会社は、mRNA(メッセンジャーRNA)テクノロジーにより、ワクチンを再設計してこの変異ウイルスから保護できるはずだと表明しています。したがって、私たちは、新たな変異ウイルスが出現しても、2020年の暗い時代に戻ることはないと考えます。

投資見通しについては、現在の資産配分を維持し、継続的な資産価格の下落を買いの機会と捉えます。

多くの経済や産業が社会的距離(ソーシャルディスタンス)や在宅勤務への対処法を学んだため、オミクロン株が経済成長に与える影響は、以前実施されたロックダウンや変異ウイルスが与えた影響よりも小さい可能性が高いというコンセンサスに同意したいと思います。ただし、ロックダウンや対象を絞った制限措置が数多く実施された場合、産業や企業に対する影響が高まる可能性があります。

インフレへの影響は財価格の上昇が軸になると見込まれる

インフレへの影響は明確ではありませんが、おそらく全体的なインフレというよりは財価格への影響が大きいと見込まれます。コモディティやエネルギー価格への下押し圧力は、商品の生産と輸送におけるサプライチェーン、物流施設、労働力不足の問題が続くことで相殺されると予想されます。オミクロン株の感染拡大により、財への需要が高まる一方で、旅行やレジャー、ホスピタリティなどへの消費は控えられるかもしれません。また、財価格は、東アジアでのゼロコロナ政策、ロックダウン、渡航禁止令の影響を受ける可能性があります。

インベスコの見解に対するリスクは何か?

①オミクロン株の伝播性や毒性、既存ワクチンの有効性、②新型コロナ対策の強化と人・モノの移動状況、③オミクロン株に有効なワクチンの開発状況―などがリスク要因に

現在、オミクロン株の伝播性と毒性、そしてワクチンの有効性について、医療専門家や製薬会社からのさらなる情報を待っています。必要な場合は、既存のワクチンの再設計の進ちょく状況を綿密に追跡しなければなりません。

それまでは、特に非常に重要なクリスマスのショッピングシーズンを考えると、新型コロナに対する政策の厳格さと人・モノの移動(モビリティ)に関するデータを綿密に調査する必要があります。上で述べたように、一部の政策当局者は直ちに渡航禁止令を課しました。ロックダウンの実施に消極的な政策当局者にとっては、病院の受け入れ能力を超えるほど患者数が急増した場合、最終的にロックダウンを実施せざるを得なくなる可能性があります。これは経済的な問題となり、株式市場と原油価格に悪影響を与える可能性があります。この状況では、2020年半ばのように、緩和的な金融政策、実質利回りの低下、グロース株によるバリュー株のアウトパフォームが予想されます。

厳格な政策が実施されない場合は、人やモノの移動状況を綿密に調査することが非常に重要です。メディアでオミクロン株について報道されているにもかかわらず、人々は現在のように買い物や外食を続けるかもしれません。たとえば、先週末、ミシガン大学で行われたフットボールの試合には、オミクロン株の出現にもかかわらず、11万人が詰めかけました。これは、ロックダウンが実施されない限り、人々が家にいる可能性が低いことを示唆しています。

最大のリスクは、製薬会社がオミクロン株に対するワクチンを開発できないことですが、それは現時点ではありそうにないようです。たとえそうだとしても、私たちは経済が機能し続け、2020年のような最悪の時期を回避することができる対処法をすでに築きあげたのです。

1. 出所:世界保健機構(WHO)、“Tracking SARS-CoV-2 variants”、2021年11月29日
2. 出所:MedCity News、“Concern about Covid-19 variant Omicron centers on spike protein mutations”、2021年11月28日
3. 出所:NBC News、“WHO warns omicron poses ‘very high’ global risk as variant spreads”、2021年11月29日
4. 出所:The Telegraph、“WHO warns omicron poses ‘very high’ global risk as variant spreads”、2021年11月27日
5. 出所:ファイザー
6. 出所:ブルームバーグ。ストックス欧州600指数:-3.7%、CAC40指数:-4.8%、FTSE100指数:-3.6%、DAX指数:-4.2%。過去のパフォーマンスは将来の成果や損失のリスクの低減を保証するものではありません。指数に直接投資することはできません。

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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