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「不安の壁」を登る足がかりを探す株式市場

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〔要旨〕

株式市場は不安の壁に直面:先週の株式市場は軟調に推移。投資家の間には多くの懸念が存在

株式市場が「不安の壁」を登るために必要なものは何か?:株価が上昇するきっかけは、単純に株価下落であることがあり、これは買いの機会であるとみなされる。その時期はそう遠くないだろう

何が「不安の壁」を引き起こしているのか?

①FRBのテーパリングに関する発言、②欧州の「一時的なテーパリング」、③企業収益への懸念、④新型コロナへの懸念、⑤インフレ懸念、⑥現状の政治面に対する脅威、⑦季節的な混乱—が投資家の懸念事項

株式市場はどのように壁を登ることができるだろうか?

投資家が注目すべき6つの問題

①FRBの動向、②9月と10月の米雇用統計、③米国の法人税の引き上げ、④米国債務上限問題、⑤経済成長予測、⑥米中貿易関係—に注目

直近、世界の株式市場は、大部分で下落が確認されています。現在、多くの懸念要因があり、株式市場はことわざにある「不安の壁」を登っていません。少なくともまだです。今週は、投資家が何に対して懸念を抱いているのか、そして、どのようなきっかけがあれば株式市場が壁を乗り越えて上昇するのかを取り上げようと思います。

何が「不安の壁」を引き起こしているのか?

①FRBのテーパリングに関する発言、②欧州の「一時的なテーパリング」、③企業収益への懸念、④新型コロナへの懸念、⑤インフレ懸念、⑥現状の政治面に対する脅威、⑦季節的な混乱—が投資家の懸念事項

投資家の懸念事項として、以下があると考えます。

• 米連邦準備理事会(FRB)のテーパリングに関する発言

8月の米雇用統計報告がテーパリング(FRBの資産購入の段階的な減額)の開始を遅らせるかもしれないという希望は、先週の米連邦準備理事会(FRB)関係者の発言によって打ち砕かれました。何人かのFRBメンバーから、テーパリングはまもなく発表されるべきであり、開始されるべきだとする見解が公表されました。セントルイス連邦準備銀行のブラード総裁は、雇用は不足していないため、8月の雇用統計は懸念すべき内容ではなかったと主張し、「労働者への需要は強く、失業者よりも求人のほうが多い 1 」と述べました。言い換えれば、現在の雇用市場は典型的なぜい弱な市場ではなく、新型コロナウイルスの世界的な大流行(パンデミック)がもたらした特有のものです。実際には雇用は力強く、単に人々が職探しをしていないだけです。また、ブラード総裁は、テーパリングを2021年に開始し、2022年前半に終了することを提唱しました。この「FRB関係者の発言」が株式市場を押し上げなかったことは確かです。

• 欧州の「一時的なテーパリング」

欧州中央銀行(ECB)は、先週、今後数カ月間にかけて資産購入ペースを減速させるものの、それはテーパリングではないと発表しました。言い換えれば、政策の微調整により、短期間とされるものの、資産購入額は減少します。ラガルドECB総裁は「テーパリングではない」と主張していますが、一部の投資家はそれには懐疑的であり、このECBの決定がより永続的なテーパリングになるとのではないかと見なしたことから、先週、投資家のネガティブな感情が高まりました。

• 企業収益への懸念

企業収益に関する見方として、「収益が最も速く改善する時期は過ぎさった(バックミラーの中にある)」というものがあり、この先低迷するのではないか、との見方もあります。私は、今まで非常に好調だった反動から、収益成長が緩やかになると予想しています。しかし、アナリストは2021年10-12月期の利益成長率を20%以上と予測しており、今後の四半期ベースの利益成長率予想は引き続き堅調です 2 。2022年のFactSetの推定値は9.4%と、減速が予想されていますが、これは悪い数字ではありません。

• 新型コロナウイルスに関する懸念

新型コロナウイルスの感染拡大は、引き続きトップニュースとなっています。以前にも触れたように、新型コロナの感染状況は人やモノの移動に大きな影響を与えていませんが、確かに投資家の心に重くのしかかっています。そして、これまでのところ、新型コロナの変異ウイルスであるミュー株は一部の人が考えるほど恐れるものではないように見えますが、さらにたちの悪い変異株が発生するのではないかとの不安は常に存在しています。

• インフレへの懸念

8月の米生産者物価指数(PPI)は前月比+0.7%(そして変動の大きい食品とエネルギーを除くコアPPIは+0.6%)となり、市場を驚かせました 3 。前年同月比で見ると、総合PPIは8.3%、コアPPIは6.7%上昇しました 3 。そして、インフレ圧力は米国以外でも確認されています。多くの新興国の中央銀行が政策金利を引き上げており、インフレへの懸念が高まっています。このPPIの数字は、インフレの大幅な上昇は概して一時的なものとの私の見方を変えるものではありませんが、投資家はそれに戸惑い、「スタグフレーション」への懸念を強めました。

•「政治的現状」への脅威

市場関係者は政治的安定を好みますが、カナダのトルドー首相が敗れる恐れのあるカナダ総選挙を皮切りに、いくつかの不確実性が現在見られます。また、菅首相の予想外の辞任と、後任者についても先行きが不透明です。そして、ドイツで今月後半に行われる総選挙についての最近の世論調査を踏まえると(メルケル首相の後継者に関する評判は芳しくありません)、ドイツの今後、そして欧州連合(ECB)についても懸念されています。

• 季節的な混乱

最後に、過去、この時期に大きな市場の下落が発生したために、今が9月で10月がそれに続くという理由だけで懸念する向きがあります。しかし、9月が悪い月だとの見方を強めたのは、過去同月に発生した数少ない事柄によるものであり、最近ではそのようなことはありません。これは10月にも当てはまります。

株式市場はどのように壁を登ることができるだろうか?

さまざまな不安の壁があることは明らかであり、投資家はまだそれを乗り越えていません。しかし、私は壁を乗り越えられると考えます。先週のメディアインタビューで、私は何をきっかけに株価を上昇する可能性が高いかと尋ねられました。非常に可能性の高いきっかけの1つは、株価の下落です。このような環境下、世界経済の改善、十分な財政刺激策、そして非常に緩和的な金融政策により、株式の引力はさらに高まると予想しています。株価が上昇するきっかけは、単純に株価下落であることがあり、これは買いの機会であるとみなされます。その時期はそう遠くないでしょう。私はそれを好意的に受け止めたいと思います。

その間、私は以下をはじめとして多くの問題を注視したいと思います。

投資家が注目すべき6つの問題

①FRBの動向、②9月と10月の米雇用統計、③米国の法人税の引き上げ、④米国債務上限問題、⑤経済成長予測、⑥米中貿易関係—に注目

• 米連邦準備理事会(FRB)

米連邦公開市場委員会(FOMC)が来週行われ、その会合の後にテーパリングの開始が発表されるとの見方が強まっています。しかし、私は、投資家が懸念するべきではないと考えていることを繰り返したいと思います。テーパリングの開始は事前に十分に説明されており、いくつか障害はあるものの、米国の経済成長は引き続き堅調です。したがって、私は、このFRBの行動は適切であり、市場を混乱させるものではないと考えます。

• 9月と10月の米雇用統計

セントルイス連銀のブラード総裁に異論はありません—現在の米雇用市場はぜい弱ではありません。そして、以前にも触れた通り、新学期が始まり、失業手当の上乗せ分が失効すれば、人々は職に就き始めると予想しています。9月と10月の米雇用統計は私の見解のリトマス紙になるでしょうが、FRBがテーパリング開始を発表するのをそれほど長く待つことはないでしょう。

• 米国の法人税引き上げ

米国議会では、民主党が法人税の26.5%への引き上げを提案しています。実現すれば、現状ではそれが最善のシナリオだと考えます。近い将来、法人税を引き上げる必要があることは誰もが知っていましたが、税率の引き上げ幅は現在の提案よりも高かったかもしれません。また、民主党が提案している税金はほかにもあり、そしてこれらの提案には意見の相違があります。この議論の行方を注視したいと思います。

• 米国の債務上限

米債務上限問題も迫っています。イエレン米財務長官は先週、議会に宛てた書簡で、議会が連邦債務限度額を引き上げるか一時停止しない限り、財務省は10月に米連邦政府の返済義務を履行できなくなるだろうと警告しました。現在の議会における厳しい与野党の対立を考えると、これは最悪のタイミングと言えるでしょう。私はこの問題が解決されることを期待していますが、議論が長引き、胃痛と白髪の種になるのではと懸念しています。

• 経済成長予想

最近の経済成長見通しの引き下げに多くの焦点が当てられてきましたが、いくつか上方修正されたものもありました。 ECBは、2021年の域内成長率見通しを6月時点の4.6%から5%に引き上げました 4 。また、インフレ率見通しを引き上げましたが、2021年から2022年にかけて大幅な低下を示しており、インフレはおおむね一時的なものとの見方を支えています。内容は、インフレ率は2021年が2.2%、2022年は1.7%に低下すると予測されており、ECBの目標である2%を大幅に下回っています 4 。人とモノの移動データや経済指標を綿密に見るだけではなく、景気見通しの動きもしっかりと見ていきたいと思います。

• 米中貿易関係

先週のバイデン米大統領と中国の習近平国家主席の電話会談に対して楽観的な見方がありましたが、状況はそれほど変わっていないと考えます。米中関係の緊張は続くと思いますが、米国の関税が引き下げられれば関係者すべてにとって非常に好ましいものであり、そうなることを期待して、その行方を注視していきます。

最後に

先週末、911から20周年の追悼式典が行われました。多くの米国人の同僚が世界貿易センターで働いていましたが、テロ攻撃による直接の影響を受けてしまいました。その日を思い浮かべると、いつも沈んだ気持ちになります。家族、友人、そして愛する人たちを含め、この恐ろしいテロ行為の犠牲者の皆様のために、これからも祈り続けたいと思います。

1.出所:フィナンシャル・タイムズ、“Top Fed official pushes for quick ‘taper’ despite weak US jobs growth”、2021年9月7日
2.出所:FactSet Earnings Insight、2021年9月10日
3.出所:米国労働省労働統計局、2021年9月7日
4.出所:欧州中央銀行、2021年9月9日

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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